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「なんでこんなに窓が曇ってるの?」 悩む鉄道事業者 新品に取り替えても消えないモヤモヤ

乗りものニュース 2025年2月3日 7時12分

アメリカや日本のJRの一部でも、やたら“窓が曇った”車両を見かけることがあります。新品への置き換えを進めても、また曇ってくる可能性がぬぐえない理由がありました。

車窓風景がぼやけてみえるアメリカの鉄道

 アメリカ東部のニュージャージー(NJ)州の公社で、公共交通機関を運行している「NJトランジット」は2024年12月、同州とニューヨーク中心部マンハッタンのペンシルベニア駅を結ぶ列車などに使う2階建て客車の窓を、新品に順次取り換えると発表しました。2006年に登場した客車のポリカーボネート製の窓が曇って車窓を楽しめなくなったため、手始めに新品の窓400枚を注文して交換を始めました。

 NJトランジットは短文投稿サイト「X」(旧ツイッター)で「2階建て客車に新しい窓の装着を始めることを発表できてうれしく思います。曇った視界に別れを告げ、乗るたびに透き通った視界を楽しみましょう!」と書き込み、作業員が新品の窓を取り付ける画像を紹介しました。

 窓が曇った原因として同社は紫外線(UV)による変色や、洗車時に付いた傷などを挙げています。交換する新品は品質改良で「視界の透明性が高く、UV耐性が優れており、ひっかき傷や汚損、化学薬品への耐久性が強く、事実上壊れない」と豪語し、2階建て客車の窓を全て置き換える方針です。

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)もアメリカ駐在中にNJトランジットに乗車した際、せっかく窓際の座席に腰かけても車窓がほとんど見えないことに肩を落としていました。窓の表面に細かい傷が付いていたり、色が変わったりしているため、窓外の風景がぼやけて見えるのです。

 窓を新品に取り換え、乗客が車窓を楽しめるようにすれば大きなサービス向上になるでしょう。ただ、交換する窓もポリカーボネート製なのは気がかりです。いくら品質が改良されていても「経年劣化で徐々に視界が悪くなるのではないか」と危惧しています。

ガラスは使わない、いや使えない

 それでは、NJトランジットはなぜポリカーボネート製の窓に固執し、日本の多くの列車のようにガラスを取り付けないのでしょうか。その理由は、アメリカ運輸省の傘下組織の連邦鉄道局(FRA)が設けている鉄道車両の安全基準を満たすためです。

 FRAは鉄道車両の窓について「物体が当たった場合でも乗客と乗員が負傷しないような保護性能を持つ最低限の基準を満たすこと」などの要件を定めています。車両の種類や製造された時期などによって適用される基準は異なりますが、アメリカの鉄道当局職員は「一般的に列車に向かって投石があった場合や、車内で客が暴れて窓を蹴った場合にも壊れて乗客や乗員がけがをするのを防げるだけの耐久性能が求められている」と話します。

 通常のガラスでは投石があった場合などに割れてしまい、飛散してけが人が出る恐れがあるため、基準を満たせないというのです。

 このため、衝撃への耐久性が優れたポリカーボネートがNJトランジットにとどまらず全米鉄道旅客公社(アムトラック)、地下鉄、近郊鉄道などの車両で広く用いられています。実際、マナーが悪い乗客がいるアメリカの鉄道車両では傷付けられたり、落書きされたりしている場合もしばしば見かけました。

 アメリカの鉄道に納入している日系鉄道車両メーカーの関係者は「当社が製造している車両はポリカーボネートの窓の内側に保護フィルムを貼り付けており、油性ペンなどで落書きされた場合にはフィルムをはがして交換すれば良いようにしています」と打ち明けていました。

 そんな背景からアメリカの鉄道ではポリカーボネート製の窓が普及していますが、特に古くなった場合には乗客の視認性を犠牲にせざるを得ないのが玉に瑕です。

日本の鉄道会社も同じ悩み

 実は日本でも同じ課題を抱えている鉄道会社があります。それは寒冷地を走り、二重窓の外側にポリカーボネート製の窓を取り付けているJR北海道です。

 同社は、冬になると車両に付着した雪や氷の塊が地面に落下することで「線路の石を跳ね上げて、車両の窓ガラスに衝撃することがあります」と説明。そこで窓の破損や、破損による利用者のけがを防ぐため、衝撃に強いポリカーボネート製の窓を外側にはめています。

 ただ、JR北海道も「普通のガラスに比べて素材が柔らかいため細かな傷が付きやすく、車両基地の洗浄水に含まれる不純物が傷に入り込むことによって汚れが付着しやすくなります」と認めます。薬剤で汚れを除去する作業を繰り返すと窓が白く曇った状態になってしまうため、その場合には新品と交換するそうです。

 窓の透明性を確実にするためのクリアな解決方法がない――。そんな鉄道事業者のモヤモヤした悩みが伝わってきます。

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