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羽田航空機衝突事故で報じられぬ「機体装備の問題説」とは? 海外では真っ先に指摘も…経過報告でも“ノータッチ”

乗りものニュース 2025年1月23日 8時12分

海上保安庁機とJAL機の衝突事故では、海外メディアは真っ先に “システム上の問題”が指摘されてきました。経過報告でも明るみに出ていないその装置とは、どういったものなのでしょうか。

国内では「3点の背景」がおもに報じられている

 2024年12月、運輸安全委員会は1月2日に羽田空港で起きた海上保安庁機とJAL(日本航空)機の衝突事故における経過報告を公表しました。ここでは機内の会話や管制塔との交信の内容についてはさらに詳しい情報が公表されましたが、事故原因に関して新たな情報はありませんでした。

 この事故は首都東京の大空港で発生したこと、生存者が多かったことで事故に関する多くの画像や証言が残されています。そこから見えてきた事故の要因が複数あります。

 大手国内メディアなどが報じている現状での「事故の推定要因」は以下の3点です。
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 海保機は管制塔から離陸の許可が出ていると勘違いして滑走路に入ってしまったこと。日航機からは滑走路上で停止していた海保機を視認できなかったこと。そして、管制官は海保機が許可なしに滑走路に進入してしまったことを見落としていたことです。

 しかし、報じられていない要因になりえる点はまだありそうです。

 たとえば、パイロットには離陸許可が出ていても滑走路に入る前には同じ滑走路に入ってくる航空機の有無を確認するルールがあります。1秒で終わるこの安全確認を海保機の機長は行った形跡がありません。

 さらに国内ではほとんど報じられていないものの、海外メディアでは事故発生時から、日本の航空業界における“システム上の問題”が指摘されてきました。

 それは海保機に「ADS-B」という装置が搭載されていなかったことです。

 ADS-Bとは「放送型自動位置情報伝送・監視機能」とも呼ばれ、自機の位置を周囲の全ての航空機に発信する装置です。視程が低い天候の混雑空域でも航空機の衝突を防止することを目的に開発されたシステムで、多くの国で普及しており、欧州やアメリカではADS-Bを装備していない航空機は混雑空域には入ることができません。

 海外から見ると日本で一番混雑する羽田空港でADS-Bを搭載していない機体が離陸しようとしていたことが信じられないのです。さらに、国内の主要メディアの報道や国土交通省の発表では一貫してこの問題に関して言及を避けています。

 ADS-Bは航空機同士の異常接近や衝突防止には効果的なシステムであることが証明されており、欧米をはじめ中国やオーストラリアなど多くの国で導入されています。国によっては、全ての旅客機にADS-Bの搭載が義務化されています。また、アメリカでは小型機にもADS-Bの普及を図るため、補助金を支給した例もあるほどです。

 つまり、主要国の中で普及を促していないのは日本だけという状態といえるのです。

「人間のミスをシステムでカバー」が求められるのに

 海保機がADS-Bを装備していたら着陸に向けて進入していたJAL機のコックピットの画面には海保機の位置が表示されていたでしょう。それと同時に、海保機のコックピットの画面でも同様に同じ滑走路へ接近中のJAL機が表示されていたはずです。

 つまり、ADS-Bの導入が遅れたことで衝突事故が起きてしまった可能性が考えられます。海外メディアがADS-Bに注目しているのはこのためですが、国内の主要メディアや国交省がADS-Bに関する言及を一切していないのは極めて不自然なのです。

 もし、事故調査委員会の報告書が最後までADS-Bに関する記述を避けるような事態になると報告書そのものが国際的な信用を失うことにもなるかもしれません。

 実はこのADS-B、日本では仙台空港で2003年ごろから実証実験が行われています。海外ですでに実用化しているシステムの評価と導入への検討に20年以上要していることになります。なぜこんなに時間がかかっているのでしょうか、国土交通省はこの説明も求められるでしょう。

 事故原因に話を戻しましょう。人間は必ずミスを犯します。人間のミスをシステム全体から排除した新幹線は比類のない安全性と信頼性を半世紀以上にわたって実証し続けています。この経験は航空にも応用できるでしょう。

 システムはその道のプロである管制官やパイロットも、必ずミスを犯すという前提を織り込んで設計する必要があります。ミスを犯しても事故が起きない、起きにくいシステムが求められているのです。

 今回の羽田空港衝突事故の教訓を活かすならば、まずはADS-Bの導入だと筆者(中島二郎:航空アナリスト)は考えています。近い将来に発表される最終的な事故報告書の中でどこまで踏み込んだ内容が出てくるのか、引き続き注視する必要があるでしょう。

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