近い将来、熊本とカナダの聞き馴染みのない都市を結ぶ新路線が誕生するかもしれません。これがなかなか驚きの路線です。その背景には、どのようなものがあるのでしょうか。
カナダでも「バンクーバー」とかじゃない!
近い将来、驚くべき新路線が実現するかもしれません。熊本県の現地メディアは2025年1月、同県などが熊本空港とカナダを結ぶ新路線の開設にむけ、検討を進めていると報じました。しかもカナダ国内の就航先は、国内空港からの直行便があるバンクーバーやトロントではなく、西部の都市「エドモントン」です。なぜこのような路線が検討されているのでしょうか。
筆者は、この新路線が開設されるのには2つの理由があると分析しています。
今回の熊本~エドモントン線は、エドモントン空港を運営する公団から熊本県に打診があったことから検討が進められたといいます。もし実現すれば、熊本空港と北米を結ぶ初の航空路線です。
熊本県では2021年に世界最大手の半導体受託製造社・台湾積体電路製造(TSMC)が進出を発表し、同社関連会社の第1工場が2024年12月に稼働し大きな話題となりました。
そのようななかエドモントン側からの打診があったのは、2023年とのことです。同都市のあるアルバータ州は多くのテクノロジー企業が重要拠点を置き、航空宇宙産業やハイテク産業なども盛んな場所とされています。
エドモントン国際空港側は、こうした空港周辺の似た産業環境を背景に、さらなる活性化へ布石を打とうと、路線開設の打診をしたといえます。いわば、「半導体」「ハイテク産業」が結びつけたこの路線は、2027年ごろの定期便就航を念頭に置いているといいます。
とはいえ、国内の地方都市と日本でなじみのない海外の都市を結ぶ旅客機は、搭乗率を上げなければ採算に問題が出る可能性があります。具体的に、どのように路線計画を立てると見込まれるのでしょうか。
実は「旅客機の進化」も関係していた?
そこで、注目されるのが長距離国際線を飛ぶことができる中型機です。
熊本~エドモントン線は調整段階なので、どの航空会社がどの機材で就航するか明らかになっていません。しかし、カナダ側からの打診ならカナダのフラッグ・キャリア(その国を代表する航空会社)である、エア・カナダが就航する可能性はあるでしょう。
エア・カナダは中型旅客機ボーイング787を主力機として使っています。公式サイトによると、現在運用されている787-8、787-9ともに200人台後半の乗客を乗せることができる一方で、1万5000km程度飛べる長い航続距離を持っています。
空港運営者が路線を開設したい場合は航空会社も巻き込んだ準備がなければ、相手に打診はできません。それゆえに、787で路線が開設された場合は、「半導体」と合わせて、影の存在にこうした「航続距離が長いものの、超大型ではない旅客機の存在」があるといえるでしょう。
こうした都市間を結ぶ便はかつて「ポイント・トゥー・ポイント」と呼ばれ、エアバスが超大型機A380の開発を構想していた頃に、ボーイングが対抗手段として主張していていたものです。
熊本~エドモントン線が開設されたなら、その意味では、ボーイングの“読み”が一歩先を行っていたことを証明しています。
ただし、エアバスもその後、150席級ながら長距離を飛べるユニークなコンセプトを持つ新型機「A321XLR」を2024年に就航させました。A321XLRの航続距離は約8700kmで、787-9に及ばないものの、国際線用の機材として十分な距離を飛ぶことができます。
それだけに、半導体で話題にのぼり、新たな航空路線の開設へと動きを見せる熊本空港を例に挙げれば、今後こうした旅客機の一般化により、一見需要がなさそうなチャレンジングな長距離国際線が、今後も国内で開設される可能性はあるかも知れません。