ヤマト運輸が日本郵便との協業に基づき終了するはずの薄型荷物向け「ネコポス」について方針を一転、サービス継続を発表しました。自社商品と協業商品を並行して取り扱うことに、日本郵便は強く反発。これにヤマト運輸が答えました。
新商品不評? ネコポスの利用継続へ
2025年1月21日、ヤマト運輸は自社で実施する薄型荷物「ネコポス」の商品継続を公表しました。「ネコポス」は同社と日本郵便の協業で廃止し、新商品である「クロネコゆうパケット」に置き換わり、ヤマト運輸が受注する全量を日本郵便に委託する予定でした。すでに東京を除く地域で法人向けの「ネコポス」は取りやめていましたが、2月1日から引き受けを再開します。
ネコポスはポストに投函できる厚さ2.5cmまでの薄型荷物を全国一律料金で、「宅急便」と同じ配送スケジュールで届ける商品です。一方、「クロネコゆうパケット」は厚さ3cmまでの薄型荷物を送ることが可能ですが、集荷はヤマト運輸、輸送と配達は日本郵便が行うため荷物の到着までに3日~1週間かかります。速達性の差は歴然です。
ネコポスは、ヤマト運輸と契約のあるサイト(メルカリなど)で取り引きした個人もしくは、ヤマト運輸と契約している法人、個人事業主が利用できるサービスです。法人向けには東京以外でサービスが停止されていましたが、フリマサイトを利用する個人向けの利用は、全国で途切れず「ネコポス」が継続されていました。
荷物量が多い部門でサービスが継続されており、ヤマト運輸にとっては大きな変化ではありません。さらに法人向けも再開し、サービス継続しながらも、協業も続けていくという判断です。
日本郵便が怒る、これだけの理由
ただ、この決断は、日本郵便との対立をさらに深める要因になりました。
薄型荷物を対象とする両者の協業は、ほかにもダイレクトメールや雑誌など大量印刷物を送る「DM便」がありました。これは「クロネコDM便」に引き継がれて、ヤマト運輸が取り扱う全量がすでに日本郵便へ配送委託されています。DM便同様にネコポスも全量が委託されるはずでした。
薄型荷物を巡る委託をめぐって日本郵便は、2024年12月23日、ヤマト運輸に対して120億円の損害賠償を求めて提訴しています。しかし、この時点で2025年2月1日以降のネコポスの取り扱いは決まっていませんでした。顧客に対してネコポスの継続を示したことに、日本郵便は不快感を隠しません。
1月21日のヤマト運輸の発表に、日本郵便はこうコメントしています。
「本日の『お知らせ』では『ネコポス』のサービス継続が表明されています。これは弊社・ヤマト社間の協業に係る合意に明確に違反する内容です。弊社としては、ヤマト社に対し、『ネコポス』のサービス継続の決定及びプレスリリースにおける発表の撤回を求めるとともに、完全移管義務を前提とした逸失利益の賠償を求めるとのスタンスには一切変わりはございません。司法の場を通じて、弊社の主張を展開してまいります」
両者の食い違いのポイントは、薄型荷物の全量委託に合意していたか否か。そして、その食い違いが判明した後も「ネコポス」と「クロネコゆうパケット」という競合する商品が、配達日数に大きな差をつけたまま取り扱われていることです。日本郵便はこう主張します。
「『ゆうパケット』の名を冠するサービスについて、ヤマト社のみの一方的な都合により、サービススペックが二転三転し、オペレーションを担う弊社の合意を経ないまま、お客様向けに履行の裏付けのないサービスを一方的にご案内し、ご利用されているお客様に無用な混乱を与えている点は大変遺憾です」
ヤマトの主張は?
ヤマト運輸はネコポスの継続発表の経緯について、次のように話します。
「日本郵便さまとは、顧客の利便性向上に資する輸配送サービスの構築と、物流業界が抱える様々な社会課題の解決に向けて、引き続き協業していくことに変わりはありません。クロネコゆうメール・クロネコゆうパケットの配達は、引き続き日本郵便さまに委託します」
「加えて、『早く商品をお届けしたい』というお客さまのニーズにお応えするために、宅急便と同様のお届け日数で全国翌日配達する『ネコポス』の提供を継続することを決定しました。お客さまがニーズに合わせてより良いサービスを選択できる環境をつくりました。引き続き、多様化するお客さまや社会のニーズに応えるより良いサービスの提供に努めてまいります」
ただ、両者の認識はかけ離れています。日本郵便は、さらにこう主張します。
「そもそも今回撤回の対象となった原則翌日配達の11月22日付プレス自体、弊社において合意したものではなく、ヤマト社において一方的に発出されたものと承知しております。本日(1月22日)の『お知らせ』におけるネコポス継続のアナウンスも、弊社あてに事前の相談・調整等は一切なく弊社は合意もしておりません。ヤマト社において一方的に発出されたものです」
「今回11月22日付プレスを撤回したこと自体は評価するものの、そもそも協業を進める中で相手方との事前調整なく、一方的にこうしたプレスを発出すること自体、協業の趣旨を反故にするものと解釈せざるをえず、極めて遺憾です」
1月21日の日本郵便の反応を受けて、ヤマト運輸は次のように話しました。
「日本郵便さまとの基本合意書は、両社の暫定的な合意内容を定めた『中間合意書』であり、クロネコゆうパケットの委託スケジュール見直しの申し入れ、ネコポス継続などの経営判断は、基本合意書によって制限されるものではないと認識しております」
両者の協業は2024年6月に合意しました。提訴はわずか半年後の12月23日。日本郵便による賠償請求額は、協業の準備で支出した費用(50億円)と逸失利益の一部(70億円)など。そもそも協業の合意に法的義務があることの確認が含まれています。