ロシアの「フランカー」シリーズは世界的な傑作機として各国で導入されています。そのうちのひとつがベトナム。ただ、同国の「フランカー」はインドやマレーシアのモデルとは違うようです。
ベトナムの首都を飛んだロシアの傑作戦闘機
昨年(2024年)12月末に、ベトナムの首都ハノイにおいて防衛展示会「ベトナム・インターナショナル・ディフェンス・エキスポ2024」が開催され、そのオープニングセレモニーにおいて、ベトナム空軍(正式名称ベトナム人民空軍)が運用するSu-30MK2「フランカー」戦闘機がデモンストレーション飛行しました。
当日、飛んだのは7機で、すべてSu-30MK2でした。これらは、ハノイ市の近郊にあるケップ空軍基地から飛来し、会場上空で編隊でのフライパスや、ミサイル回避用のフレア投下などを行いました。
航空自衛隊の「ブルーインパルス」のような派手な曲技飛行は行わなかったものの、滅多に見られない首都上空での戦闘機の飛行はハノイ市民の注目を集め、会場となったザーラム空港周辺には多くの見物人が集まっていました。
「フランカー」とは旧ソ連(現ロシア)が1980年代に就役させた戦闘機で、その洗練されたデザインから、軍事だけでなくエンタメやホビー業界などでも人気のある機体です。
2023年には、航空自衛隊との共同訓練を行うためにインド空軍のSu-30MKIが初来日して話題になりました。インド空軍のSu-30MKIとベトナム空軍のSu-30MK2は一見すると良く似ていますが、その開発経緯と機体構造は異なっています。その違いは、どこにあるのでしょうか。
歩んだ道のりはF-15「イーグル」と同じか
「フランカー」シリーズの最初のモデルとなったのは、Su-27です。同機は、アメリカのF-15「イーグル」のような対空戦闘に特化した制空戦闘機として誕生しました。このSu-27の複座型をベースに対地攻撃も可能な多用途戦闘機、いわゆる「マルチロール・ファイター」として造り変えられたのがSu-30シリーズです。
単座の制空戦闘機から発展した複座型の多用途戦闘機という開発の流れは、アメリカのF-15C「イーグル」をベースに生まれたF-15E「ストライクイーグル」と極めて良く似ています。
ただし、Su-30の場合は外国への輸出が前提で開発が始まっており、さらに国ごとで異なる仕様で開発されています。
インドへの輸出用として開発されたのがSu-30MKIです。Su-37の複座型をベースに機首部分にはカナード翼、エンジンノズルには推力偏向装置が追加され、空中での機動性が大きく向上しているのが特徴です。
さらに、当時のロシア軍の「フランカー」シリーズには搭載されていなかった高性能なフェイズド・アレイレーダー「N011M」を装備し、対空目標だけでなく対地目標の識別能力も備えています。これにより様々な対地ミサイルやレーザー誘導爆弾など、地上攻撃用の精密誘導兵器を使えるようになっています。
Su-30MKIは前述したようにインド向けに開発されましたが、同様にアルジェリア向けのSu-30MKAやマレーシア向けのSu-30MKMも製造され、これらをベースに開発元のロシアはSu-30SMという派生型を生み出し、自国空軍に配備しています。ちなみに、これらモデルはベースとなった「フランカー」と区別するために「フランカーH」という名称(NATOコード)が与えられています。
よく見ると外観で見分けることも可能
一方、ベトナム空軍が採用しているSu-30MK2は、最初は中国向けの輸出モデルであるSu-30MKKとして開発されました。この機体は、1996年にロシアと中国のあいだで購入契約が結ばれ、2000年頃から中国空軍(正式名称、中国人民解放軍空軍)向けに納入が始まっています。
後に電子機器等を改良したアップグレードモデルのSu-30MK2が開発され、これがベトナムを含めた他国向けに輸出されています。なお、ベトナム以外の導入国としてはインドネシア、ウガンダ、ベネズエラなどが名を連ねます。
Su-30MK2は、複座型の多用途戦闘機という点では「フランカーH」シリーズと似ていますが、こちらはカナード翼と推力偏向装置が装備されていません。逆に「フランカーH」にない特徴として、垂直尾翼内部には燃料タンクが追加されており、上部の形状も「フランカーH」と異なり、フラットな直線形になっています。愛称についても「フランカーG」という別名が用意されています。
2025年1月現在、「フランカー」系列の機体を運用する国は、開発元のロシアを含めて18か国にもなり、同機は輸出戦闘機として一定の成功を収めています。その一番の理由は戦闘機としての性能の高さですが、同時にロシアが輸出国に合わせて派生モデルを開発したことの影響も大きいといえるでしょう。