JALが国土交通省へ「航空輸送の安全確保に関する業務改善勧告」に対する再発防止策を国土交通省提出しました。これは2024年機長・副機長が乗務前日に過度な飲酒を行い、同便が遅延したことを踏まえたもの。同社はどのような対策を講じるのでしょうか。
「吐いて酒抜こう!」→CAが提言も…
JAL(日本航空)が2025年1月24日、国土交通省へ「航空輸送の安全確保に関する業務改善勧告」に対する再発防止策を国土交通省提出しました。これは2024年12月1日運航のJAL774便(メルボルン発成田行き。ボーイング787による運航)において、当便機長・副機長が乗務前日に過度な飲酒を行い、同便が遅延したことを踏まえたものです。同社はどのような対策を講じるのでしょうか。
今回同社が講じた対策は以下の5点です。
・飲酒対策を含む安全確保に関する社内意識改革
・運航乗務員の飲酒傾向の管理の更なる強化
・アルコール検査体制の再構築
・厳重注意を受けた再発防止策の定着状況の継続的な確認を含む安全管理体制の再構築
・運航本部の組織課題に対する対応(当社課題抽出項目)
たとえば「飲酒対策を含む安全確保に関する社内意識改革」については、飲酒やアルコール検査に関する理解度や定着度を定期審査において確認するほか、「アサーション(他人からの提言)」を受け入れる意識についての学びと話し込みなどが盛り込まれまれています。
なお、今回の事象では副機長はフライト前、いわゆる「お酒を抜くために」大量の水を飲んだ結果、機内で嘔吐。この様子を見たCA(客室乗務員)が副機長の体調について聞き、さらに機長および副機長の乗務可否について空港所長に確認するも、最終的にフライトが実施されました。
「運航乗務員の飲酒傾向の管理の更なる強化」の項目では、運航本部の責任部署、要注意者の基準や対応方法等を明確化。アルコール検査の合否の判断は、空港所も乗員(パイロット・CAなど)とは独立した立場で検査結果についての合否を確認し、不合格の場合は、乗員から乗員サポート部への連絡に加えて、空港所からも、オペレーション本部および乗員サポート部に連絡する運用を導入予定です。
さらにアルコールの要注意者となるパイロットの基準及びモニターやアクションの方法を明確に設定し、要注意者のリストを作成する計画が盛り込まれました。
「部下の管理頑張れよ!」JALの組織では難しく
そして5番目の項目である「運航本部の組織課題に対する対応」は、JALのパイロットが所属する組織体制にも触れられています。
パイロットが所属する運航本部の組織ミッションは、「1便1便安全に運航する」以外のミッションが明確になっていないというのが、JAL幹部の弁。さらに同社のパイロットの組織体制では、「グループ長(首席)」を務める1人の機長が、人事管理機能もないなか、機長資格を保有しているパイロットもいる約50人を管理する体制と、上司・部下間の対面の機会が限定的となっている点にも触れられています。
もちろんこういったグループ長を務めるスタッフは、理解力に優れたエリート揃いの「JALの機長」のなかでも、さらに”指折りの実力”を持つ方であるのは間違いないはずです。
しかし同社は「現状の人事制度においては、機長になれば即管理職となり、その中から組織管理職が選ばれるが、組織管理職へ選任された際に、組織マネジメントに必要となる知識等を学ぶための特別な教育やプログラムは存在していない」ともしています。
すなわち、パイロット部門の組織管理職の方々は、会社としての指針も示されない状況下で、他社含めたパイロットとして世界的な最重要責務である「飛行機を安全に飛ばし、乗客を無事に送り届ける」という目的だけにフォーカスせざるをえなかった――というわけです。
「運航本部においては、1 便 1 便を安全かつ円滑に運航すること以外に、組織目標やミッションが明確になっていない。それゆえ、乗員一人ひとりも、1 便 1 便の運航に直接関わる技量を磨くことだけに意識が向きがちになり、このことも会社や組織への帰属意識や継続的に人財を育成する意識の希薄化を招き、組織管理職が十分にガバナンスを発揮しきれないことの一因となっていると考えられる」
こうした対策としてJALは「グループ長中心とする組織単位とし、現在室長の直下に多数配置している機長もグループに分けその傘下に収めることで管理スパンの適正化を図る」「グループ長のマネジメント力の強化に特化した教育プログラムの導入【グループ新任管理職研修」「乗員部と乗員訓練部を束ねる部署を新たに設置し、組織長とともにリスクマネジメントおよび人事管理機能を統括する地上職の管理職を配置し、マネジメント強化を図る」としています。