名古屋市と春日井市を結ぶ「名古屋ガイドウェイバス」では、唯一無二の走行システムが採用されています。それは一部区間で「手放し運転」が行われるというもの。なぜ可能なのでしょうか。
「案内軌条」に「案内輪」そわせて走る不思議なバス
公共交通機関として、路線バスは全国津々浦々で見かけるポピュラーな乗りものです。しかし、そのなかに運転手がハンドルから手を放して走行するという衝撃のバスが、愛知県に存在します。
「手放し運転」のバスが走るのは、「ゆとりーとライン」の愛称で知られる「名古屋ガイドウェイバス」です。このバスはJR中央本線と名鉄瀬戸線、名古屋市営地下鉄名城線が乗り入れる大曽根駅(名古屋市東区・北区)と、中央本線および愛知環状鉄道の高蔵寺駅(愛知県春日井市)などを結んでおり、そのなかの一部区間である大曽根駅から、途中の小幡緑地駅(名古屋市守山区)までの高架区間6.5kmで行われています。
高架区間はバス専用路となっており、車幅にあわせた1台分の走行路の両脇に「案内軌条」と呼ばれるガイドを設置。それをふたつ並べて上下線が構成されています。この案内軌条に、タイヤ付近の床下に取り付けられた案内輪をそわせて走るため、ハンドル操作が不要なのです。高架区間以外では案内輪を床下に収納し、通常の路線バスと同じようにハンドルを操作して走ります。
名古屋ガイドウェイバスは2001(平成13)年に開業しました。それ以前、名古屋市北東部から中心部にかけては、矢田川をまたぐ橋や名鉄瀬戸線の踏切などの影響で慢性的に交通渋滞が発生。また、沿線の志段味(しだみ)地区では再開発による人口増加が見込まれており、新たに発生する交通需要への対応と、道路混雑の緩和が課題となっていました。
しかし、既存の道路にバスの専用レーンを確保する余裕はなく、通常の路線バスでは交通渋滞に巻き込まれてしまいます。そこで、渋滞が激しい大曽根~小幡緑地間に高架のバス専用道を設け、定時性や速達性を確保。ガイドウェイバス整備前の一般道では、大曽根~小幡緑地間でクルマが約32分かかっていましたが、ガイドウェイバスはこの区間を約13分で結びました。
手放し運転、法律的にOKなの?
しかし、高架区間はいくら専用道とはいえ、バスで手放し運転を行うのは法律的に許されるのでしょうか。それには、この区間が「道路」ではないことが関係しています。
高架区間は、案内軌条にそって案内輪で誘導されるという特性から、路面電車などと同じ「軌道法」が適用されています。国には「案内軌条式鉄道」として登録されており、「ガイドウェイバス志段味(しだみ)線」という路線名も存在。このため、運転手は軌道法の適用区間でハンドルを操作してはいけないことになっていて、アクセルとブレーキ操作しか行いません。方向転換も案内輪によって行われるので、ハンドルは勝手に動きます。
ガイドウェイバスの車両を保有し、志段味線を管理する名古屋ガイドウェイバス株式会社によると、小幡緑地駅から高蔵寺駅にかけては地上の一般道を走るため、運転手はバスと鉄道両方の運転免許を取得しているとのこと。実際に乗ってみると、当該高架区間で運転手はハンドルから手を離しているのが確認できました。
高架区間は眺めもよく、車窓も見どころ。以前、名古屋ガイドウェイバスに聞いた際には「矢田川や名鉄瀬戸線、名二環(名古屋第二環状道)をまたぐ地点は、高架がさらに高くなるので見晴らしが良いですね。名古屋駅周辺の高層ビル群のほか、遠くに岐阜・長野方面や滋賀方面の山々を望めるところもあります。大曽根行きだと、白沢渓谷駅から川村駅のあいだにある60パーミルの下り坂(1000m進むと60m下がる)を走るのを、ジェットコースターのような感覚で楽しむ方もいらっしゃるようです」と述べていました。
このように眺望がよい反面、高架区間は風や雪に弱いというデメリットも。除雪が難しいため、高架に上がる前の「モードインターチェンジ」(案内輪での走行に切り替わる地点)において、車両についた雪を社員総出で高圧洗浄機を使って落とすなどしています。
自動運転への転換、間もなくか
名古屋ガイドウェイバスによると、日本唯一の方式を採用したこのバスに乗車するため、遠方からやってくる人も多いそうです。
ただ、この唯一無二の交通方式であるがゆえに、バス車両も軌道等設備も特注品だらけで、コストが高いのがネックとなっていました。
そこで名古屋市は今後、その案内軌条方式と軌道法適用を撤廃し、「高架道路上を走る自動運転BRT」とする計画です。こうすることで、普及が進む自動運転バスのシステムを導入して、より持続可能な運営を目指すとしています。
住宅都市局によると、自動運転車両とそのための走行路の基礎検討を今年度までに実施。来年度は、自動運転車両はいよいよ試験施設での走行試験を開始し、現在の高架については、自動運転の走行基準を満たすかどうかの調査を行うとしています。
ただ、案内輪での走行とは異なり、バス側が主体的に向きを変える必要があるため、走路の横幅にもある程度の余裕が必要となります(少しでもズレるとすぐ壁にぶつかってしまう)。それらも鑑みて、適切な走行が可能な道路構造の設計検討が今後行われていきます。
市の計画では、名古屋ガイドウェイバスの自動運転化の目標時期は、2026年としていることから、日本唯一の「手放し運転するバス」が見られるのもあと少しです。