2025年春に引退を予定している鉄道各社の車両。しかし、それは「完全引退」ではないかもしれません。引退する車両を他社が保有しているケースがあるからです。「ドクターイエロー」も、引退するのはJR東海所属の編成だけです。
JR西日本の「ドクターイエロー」は残る
2025年の春には数々の鉄道車両が引退する予定です。しかし、引退が発表されているはずなのに、実際には引き続き使用される車両もあります。引退した車両が他社に引き取られたり、同じ形の車両が他社で使用されていたりするのですが、ここでは引退予定の車両が他社で使用される例を3つ紹介します。
●JR東海923形新幹線電気軌道総合試験車「ドクターイエロー」
JR東海は、東海道・山陽新幹線の設備メンテナンスで使用している「ドクターイエロー」について、2025年1月で検測走行を終了することを発表しています。事実上の引退ですが、今回引退するのはJR東海に所属している923形0番代で、「T4編成」と呼ばれている車両です。
「ドクターイエロー」は2編成あり、もうひとつはJR西日本が保有している923形3000番代こと「T5編成」です。T5編成は、今回引退するT4編成と見た目は同じで、細かな違いがある程度です。
JR東海のT4編成の引退後も、JR西日本のT5編成は引き続き使用されます。このため「ドクターイエロー」は、完全引退とはいえないかもしれません。
今後は、営業運転で使用されているN700Sへ導入された営業車検測機能を使用することで、2027年には「ドクターイエロー」で行っている検査を置き換える方針です。同時にT5編成も引退する見込みであり、この時点で東海道・山陽新幹線から「ドクターイエロー」が引退する予定です。
JR東海211系 私鉄への譲渡が決まっている
JR東海の静岡地区では、211系が間もなく引退する予定です。211系は通勤・通学輸送用の近郊形電車で、JR東海では名古屋・静岡地区に導入され、東海道線や中央線、関西線などで使用された実績があります。
名古屋地区ではJR東海発足直前の1986(昭和61)年から2023年まで使用されたほか、静岡地区では1989(平成元)年から使用されていました。新型車両の315系が導入されたことで、211系の置き換えが進められているのです。
JR東海からは211系が引退しますが、同社から三重県の三岐鉄道三岐線へ211系が譲渡されています。2025年から営業運転を行う見込みで、三岐鉄道で“第二の人生”を送ることになります。
このほか、JR東日本も211系を保有しています。こちらは首都圏で使用され、東海道線や東北・高崎線などでグリーン車を組み込んで使用されたほか、2025年現在では中央線の立川以西や長野地区、高崎地区の各路線で使用されています。
長野地区では篠ノ井線や信越本線、大糸線などで、高崎地区では上越線や信越本線、吾妻線や両毛線で運行されています。JR東日本の211系も数を減らしていますが、完全な引退はまだ先となりそうです。
なお、JR東日本とJR東海の211系では細かな違いがあります。特にJR東海では、1988(昭和63)年から大量に導入した211系5000番代で仕様が大きく変わり、屋根に付いた冷房装置や車内の客室のデザインなどが異なっています。
関東にもやって来た!? 南海2200系
南海電気鉄道では、2025年春に2200系が引退する予定で、これを機にして約30年前の車体塗装を復刻した車両も登場しました。
南海電鉄の路線は大阪の難波から和歌山方面に向かう南海線と、高野山方面へ向かう高野線に大きく分かれていますが、2200系は主に、南海線からさらに枝分かれしている汐見橋線(高野線汐見橋~岸里玉出)などの支線で使用されています。
1969(昭和44)年に登場した当初は22000系と呼ばれ、高野線の高野山(極楽橋)方にある急カーブや急勾配の走行に対応した「ズームカー」の一族として製造されました。22000系を更新した際に2200系となり、さらに支線に転用されるとワンマン運転に対応する改造も行われました。
2200系は汐見橋線などからは引退しますが、2200系を改造した観光列車の「天空」は引き続き使用されます。「天空」は高野線の橋本~極楽橋間で指定日に運転されており、南海電鉄が保有する2200系の最後の生き残りとしても希少な存在となるのです。
また、「ねこの駅長」で有名な和歌山電鐵貴志川線と、「ぬれ煎餅」で知られる銚子電気鉄道に渡った車両も引き続き使用されています。和歌山電鐵では「たま電車」など、個性ある電車が走っていますが、これらの車両は南海の22000系が基になっています。
和歌山電鐵では南海電鉄の路線だった時代に22000系が転用されて2270系となり、和歌山電鐵の発足後は路線とともに2270系も譲り受けています。転用の際、ワンマン化改造によって前面の形や扉の位置が変更されたため、2200系とは様相が異なります。
銚子電鉄は2023年に2200系を譲り受け、翌年から22000形として往年の塗装と番号に復刻のうえ運行しています。現在はさらに第2編成を譲り受け、観光列車とするプロジェクトが進んでいます。