2025年4月1日より運転免許(普通車・普通二種)の教習課程が改変されます。ただ、制度改変に対応できない教習所もあるようで現場は混乱しているとか。ますます取得のハードルが上がるMT免許の取得について解説します。
登場から30年でAT限定免許者の割合は7割まで増加
来たる2025年4月1日、運転免許(普通車・普通二種)の教習課程が改変されます。これにより教習カリキュラムが刷新され、以後はMT(マニュアル)免許が難しくなるそうです。いったい、どのように変わるのでしょうか。
そもそも、普通自動車免許に「AT(オートマ)限定免許」が登場したのは1991(平成3)年のこと。当初は「AT限定では就職に不利」「MT車に乗れないのは不便」「AT限定なんてダサい」などと評され、実際に「AT限定免許」を取る人はごく少数でした。
筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)が高校卒業後に普通自動車の運転免許を取得したのもこの年ですが、当時はAE86型「カローラレビン」「スプリンタートレノ」、S13型「シルビア」、R32型「スカイライン」などMTでの運転を前提とした国産スポーツカーが全盛期だったことも影響して、同学年の男子で「AT限定免許」を取得した人間は皆無だったと記憶しています。
それから30年以上が経過し、現在、普通免許取得者における「AT限定免許」の割合は7割まで増加しました。むしろ今では、限定のつかない「MT免許」を取得すると言うと、周囲の人から逆に「なぜ?」と理由を問われるような時代になりました。それもそのはずで、日本のAT普及率は99%。これはAT発祥の地であるアメリカよりも高く、世界一の割合です。
まもなく「MT免許」が取りにくくなるかも
このようなAT普及の背景には、バブル期まではクルマが一種のステータスシンボルであり、ドライバー(とくに男性)にとってはMT車を自在に運転できることがアピールポイントになっていたからだと言えるでしょう。
そのような時代が終わり、クルマのコモディティ化が進んで「経済的で、便利で、運転がラクなものが良いクルマ」との価値観が人々の間に広く浸透したこと、さらに戦後、道路インフラが充分に整備されないままモータリゼーションの波が到来したことで、都市近郊の道路は慢性的に渋滞し、一般道ではストップ&ゴーの繰り返しが多い、わが国特有の交通環境が理由として挙げられます。
これらの理由により、ここ30年でドライバーのMT離れは加速し、日本は世界でも類を見ないAT大国になったのです。
そして、道路交通法の改正に伴い、このたびドライバーのMT離れを決定的なものにする運転免許(普通車・普通二種)の教習課程の改変が行われようとしています。
これまでは全課程をMT車で教習していたのに対して、4月1日以降は第1段階の場内教習と第2段階の路上教習はすべてAT車で行い、AT車の見きわめに合格してから合計4回のMT教習に移るというカリキュラムに原則として変更されます。すなわち、AT限定免許を取得してから限定解除を行うのと教習内容は同じというわけです。
しかし、AT車に比べてMT車は操作の習熟に時間がかかるものです。失敗をしながら徐々に操作に慣れていく現在のカリキュラムと違い、たったの4回でMTの操作をマスターしなければならない改定後の教習課程には、どうしても無理を感じてしまいます。
一方、国は今回の教習課程の改変にあたって「技能教習はすべてAT車で行う」との通達を出しながらも「教習でMT車を用いてはいけない」とは明記していません。具体的な教習カリキュラムの作成については現場に丸投げしているため、改変に先立って自動車教習所と教習生は今回の改変に困惑している模様です。
制度の改変で「MT免許」の取得者はますます減ることになる
筆者が調べたところ、4月1日からの自動車教習所の対応は以下の3つに分けられるようです。
1、前述した新制度に切り替えて教習を行う
2、「教習でMT車を用いてはいけない」と明記されていないことを根拠として、当面の間は旧制度のまま教習を行う
3、新制度への対応が困難として、MT教習希望者の受け入れを停止する
筆者の住む地域の教習所6件(千葉県内4件、都内2件)に電話で問い合わせたところ、もっとも多かったのが2番の対応で5件、1番は1件、一方で3番はゼロでした。ただ、ネットで調べると地方の教習所については3番の対応をするところも散見され、地域によってはMT免許の取得が難しくなる場所もあるようです。
そこで改変前に滑り込みでMT免許を取得しようと教習希望者が殺到しているところもあるようで、このたびの教習課程の改変には大いに問題ありと言わざるを得ません。
国は今回の教習課程の改変に当たって「AT車普及の実情に合わせた制度変更」と説明していますが、その裏には「AT限定免許」から「限定」の文字を取り去り、普通自動車免許のスタンダードとすることで「基本はAT免許で、専門的に必要とする人間のみにMT免許を交付する」という流れに持っていきたい、との意図が透けて見えます。将来的には「AT免許」と「MT免許」を完全に独立させ、AT車主体に統一することで法律や交通行政の合理化を図りたいのでしょう。
いずれにしても、今回の教習課程の改変によって、ますます「MT免許」は取りにくいものとなり、取得者の数はますます減ることだけは間違いないようです。