トヨタグループの新たな自動車船(RORO船)が就航。LNG燃料船を採用し、完成車輸送の脱炭素対応を加速します。一方で、次の新造船は“別の燃料”になる見込み。インフラ整備が進まない新燃料の課題も浮彫りになっています。
自動車の輸送からクリーンに
トヨタグループのトヨフジ海運が発注したLNG(液化天然ガス)燃料RORO船「TRANS HARMONY GREEN(トランス・ハーモニー・グリーン)」が就航し、2025年2月3日、名古屋港ガーデン埠頭で報道関係者らに公開されました。
同社で企画・管理本部長を務める鈴木省三常務は「トヨフジ海運として新しくLNG燃料船を導入するのは初めて。2050年カーボンニュートラルに向けて今後は各航路に最適な新燃料を投入していくが、その中でスタートラインに立つ大変意義のある船だと思っている」と話しました。
「TRANS HARMONY GREEN」はトヨフジ海運のアジアにおける環境対応のフラッグシップとして位置づけられており、次世代の自動車船隊を象徴する船として日本―東南アジア航路でトヨタ自動車をはじめとする完成車輸送に従事しています。2025年7月には2番船の「TRANS HARMONY EMERALD(トランス・ハーモニー・エメラルド)」が就航する予定です。
鈴木常務は新造船について「三菱造船と共に4年以上かけて、さまざまな工夫を施してきた」と説明。「安全を最優先としつつ、環境と人に調和した船というコンセプトで建造を行っている。いたるところで船員だけではなく、名古屋港で働く作業員や、揚げ地である海外の作業員を思って、設備の充実を図っている」と述べました。
「TRANS HARMONY GREEN」の全長は195m、全幅は30.6m、航海速力は19.5ノット(約36km/h)。総トン数は4万9264トンで、三菱重工業の広報によると同社下関造船所で建造可能な船としては最大級とのこと。積載車両台数はトヨタクラウン換算で約3000台です。
EV車の搭載を想定し、バッテリーから出火してもすぐ発見できるよう、車両甲板にはカメラが設置されています。
投入されているのは、アジアの主要港を定曜日、定間隔で結ぶ「アジアウィークリーサービス」です。横浜や名古屋で完成車などを積み、レムチャバン(タイ)、ポート・ケラン(マレーシア)、シンガポール、パティンバン(インドネシア)といった東南アジアの各港を結ぶ航路となっています。乗用車以外にはフォークリフトや建機といったものも積載します。
最大の特徴はLNG燃料 でも“次”を見越してます
同船最大の特徴としてLNGと軽油を燃料として使用できる2元燃料(DF)エンジンの搭載が挙げられます。船内に長さ34m、高さ7mのLNG燃料タンクが2つ搭載されており、LNG燃料だけで約1万8000km、約30日間の航海を行うことが可能です。
現在、就航している同規模の重油燃料船と比較して、船型改良などの効果も含め、燃焼時のCO2(二酸化炭素)排出量を35%削減。さらに硫黄酸化物(SOx)の排出も99%削減できると見込まれています。
「新燃料船については船だけではなくて、燃料サプライのロジスティクスも全て準備する必要がある。そういった意味を考えるとLNGが最適だと思っている」(鈴木常務)
ただ、そのLNGのバンカリング(供給)は一つの課題でもあります。寄港する中京地区のLNGバンカリング船は「かぐや」しかなく、日本全体でも九州・瀬戸内地域の「KEYS Azalea」と合わせて2隻しかありません。そのため「TRANS HARMONY GREEN」はシンガポールかマレーシアでLNG燃料の補給を受ける予定です。
さらにトヨフジ海運は国内を運航する内航サービス向けに、メタノール燃料RORO船2隻を導入することを決めています。LNGではなくメタノールを選択した理由について鈴木常務は次のように話します。
「LNG はタンクの冷却などに時間がかかるが、日本の内航の港は結構忙しく、数時間でまた次の港へ行かないといけない。メタノールは常温で、燃料を輸送する船も結構ある」
取り扱いの容易さと既存サプライチェーンが活用できるという点に、メタノール燃料が内航では強みがあると鈴木常務は強調します。また、今後の新造船についても「航路ごとにどの燃料が良いかということを検討しながら決めていきたい」と話しました。