1960年代に「世界最速の旅客機」をコンセプトに打ち出したモデル「コンベア990」は、商業的にはとても成功作といえる航空機ではありませんでした。しかし、その性能をはじめ個性豊かな旅客機でもありました。
コンセプトは「世界最速」!
1960年代に「世界最速の旅客機」をコンセプトに打ち出した機種「コンベア990」は、生産機数わずか37機にとどまった短命の機体で、商業的にはとても成功作といえる旅客機ではありませんでした。しかし、その性能をはじめ個性豊かな機体でもありました。
話は1950年代にさかのぼります。当時、ボーイングやダグラスと並ぶ大手航空機メーカーであったジェネラル・ダイナミクスの航空機部門「コンベア」は、ジェット旅客機の分野では先行するボーイングやダグラスに後れを取っていました。
後発のコンベアが、先行したライバルに追いつくために、セールスポイントとして顧客航空会社に約束したのが速度性能でした。そこで「世界最速のジェット旅客機」のコンセプトのもと、登場したのがコンベア880。これは後年、コンベア990のベースモデルとなります。
コンベア880はJAL(日本航空)でも採用され運航が開始されました。しかし、運航開始後は、当初から指摘されていたクセのある操縦性能に加えて航続性能、速度性能ともに目標に達しないことが判明しました。
特に看板だった速度性能が目標を下回っていたことは致命的でした。そこで、コンベア起死回生の策として、当時の最新技術を盛り込んだ改良型として開発されたのがコンベア990でした。
コンベア990は880より大型化されたほか、ふたつの新技術が採用されています。
コンベア880では、速度向上を図るべく、軍用機であるF-104戦闘機やF-4戦闘機にも搭載されていたジェネラル・エレクトリックJ79エンジンからアフターバーナー部分を取り去った民間型のターボジェットエンジン「CJ-805」を搭載していました。
コンベア990では、そのCJ-805をベースにさらに新技術を備えたCJ-805-23Bを搭載しパワーアップと燃費を向上させました。
それは吸い込んだ空気をすべて圧縮・燃料させるターボジェットエンジンをベースにしながら、圧縮・燃焼させる空気を一部にとどめ、取り込み後にそのまま外側へ流す空気と混ぜる「ターボファン」技術の採用です。
CJ-805-23Bはアメリカ初の民間向けターボファンエンジンでもあり、その後このエンジン形態は民間ジェット旅客機のスタンダードともいえるものとなりました。
コンベア990では、このエンジンを搭載したことで、胴体を延長し収容人数を増やすことが可能になっています。
爆速達成のために装備された「珍アイテム」とは
二つ目の新技術は「高速飛行時の抵抗減少を狙い主翼の後縁に「スピード・カプセル(アンチ・ショック・ボディー)」と呼ばれる紡錘型のポッドが取り付けられたことです。これが本機の最大の特徴でした。
スピード・カプセルは特定の速度帯において、機体前方から後方までの断面積の大きさをできるだけ小さくすることで、抗力を低下する「エリアルール」という理論に基づいて装備されたものです。
しかし、こうして完成したコンベア990はまたしても目標の性能を満たすことができませんでした。原因はスピード・カプセルによる空気抵抗が、予想よりも大きかったことでした。
そのため、スピード・カプセルとエンジンの取り付け部「パイロン」の形状変更などの改良を加えて、やっと当初の目標だった最大巡航速度マッハ0.89を達成することができました。
こうした変更が加えられた改良型がコンベア990Aとして就航しました。ただ、やっとのことで同モデルは就航にこぎつけたものの、先行するボーイング707やダグラスDC-8などの競合他機よりも、やや速い程度で、圧倒するスピードが出せるという訳ではなく、特徴としては弱いものになってしまいました。
そのため、アピールできるほど差別化できる点は機体が小さいという部分だけで、ボーイングが707の胴体を短縮した派生型「720」を投入すると急速に競争力を失ってしまい、結局わずか37機で生産を終えることになりました。
旅客機としては「短命の迷機」ともいえたコンベア990でしたが、その性能に注目し、新たな役割を与えたがNASA(アメリカ航空宇宙局)でした。
というのも同モデルは、もともと旅客機なので機内には多くの測定機材が収容できることに加え、降下時には音速付近で飛行が可能な性能が高速実験機として適していたのです。
NASAで同モデルはのべ30年間にわたり、「空飛ぶ天文台」として運用されたほか、スペースシャトルの着陸システムの開発などにも使用されています。
筆者は当時モフェットフィールド海軍航空基地(当時)でこの機体の飛行を観ることができましたが、真っ黒い煙を曳いており、飛び立つ姿はまるでB-52のようだったことを懐かしく思います。