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全国の刑務所や少年院でも上映! ドキュメンタリー映画『おまえの親になったるで』 草刈健太郎さん「元犯罪者の更生は“誰かがやらなあかん”」【インタビュー】

エンタメOVO 2024年6月28日 8時0分

 元受刑者の更生を支え続ける大阪の建設会社の社長・草刈健太郎さんの壮絶な10年の記録を描いたテレビ大阪ドキュメンタリー映画『おまえの親になったるで』が28日から東京と京都で順次公開される。11年前、関西の中小企業が集まり、元受刑者に住まいや仕事を提供して再犯を防ぐ「日本財団職親プロジェクト」が発足。同プロジェクトの中心メンバーとして、罪を犯して刑務所や少年院から出てきた人の身元を引き受け、仕事と住居を提供し「親代わり」になっている草刈さんには、大切な妹をアメリカ人の夫に殺害された悲しい過去があった…。

 本作は2018年と2020年にテレビ大阪で制作・放送され、テレビ東京系列ドキュメンタリー大賞と第28回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞を受賞。さらに700時間以上に及ぶ映像記録を再編集し、社会問題に迫るヒューマン・ドキュメンタリーとして映画化した作品は再犯防止を目的に、全国の刑務所や少年院でも上映されている。

 映画の公開に伴い、草刈さんが活動を始めたきっかけや、元受刑者に幾度となく裏切られても支援を続ける理由、活動を通じて感じている日本社会の課題や問題点などを聞いた。

-草刈さんが「日本財団職親プロジェクト」を始めたきっかけを教えてください。

 2011年に東日本大震災の復興活動で仙台や石巻に炊き出しに行っていたときに、(同プロジェクト発案者である)大阪のお好み焼き屋「千房」の中井政嗣会長にお世話になり、その後に一緒にやってみないかというお話をいただいたことがきっかけです。もともと家系的にボランティア活動は活発で、亡くなった妹もボランティアをやっていましたし、家の先祖の遺言で「言われたことは断ったらあかん」という家訓もあったので始めました。

-草刈さんは妹さんを亡くされた被害者遺族でもあります。そのことが心情として、元犯罪者を支援する「職親プロジェクト」の活動につながっているのでしょうか。

 妹が2005年に死んでから、僕は夢がなくなってしまった感じだったんです。そんな中、青年会議所の友達からカンボジアでの活動を手伝ってほしいと頼まれて、2008年にカンボジアに渡りました。そこでは子どもが生ごみから食べ物を探していたり、児童労働や児童買春をやったり、そんな中、紛争も起こってむちゃくちゃな国で…。そんな現状を見た後に、東日本大震災でたくさんの人が亡くなっても皆が頑張って生きている姿を見たら、自分はボランティアで行っていながらも大いに励まされた気持ちになって。自分がお返しをするのは、こういう所なのかなと思いましたし、その後に「職親プロジェクト」を始めるために刑務所を訪れたときに、何か変なつながりやなと、妹から何か言われているような気がしました。

-実際に活動を始めて元受刑者の方と関わっていく中で、どんなことを感じましたか。

 人を殺したら命は帰って来ないので、やっぱり罪なんか償えないと僕は思うんです。でも、加古川市の播磨学園という少年院に行って、初めて少年院の子たちとガチンコでしゃべったときに、人を殺した人間ばかりではないけれど、この子らを放っておいたら、いつか人殺しをするなと思ったんです。「足し算も掛け算もできへん」と言うし、僕も「お前ら、足し算もできなかったら悪いことをするしかないやんけ」と言って、「職親プロジェクト」の会議に来ていた公文式の方に「少年院に行って公文をやってほしい」とお願いして導入してもらいました。そうしたら足し算ができなかった奴が微分・積分までできるようになって年々レベルが上がっているんです。少年院に入るやつは負けず嫌いが多いですし、みんな頑張って勉強しています。これは更生とはまた別の話ですが、いつか彼らの役に立つと信じて、支援の一つとしてやっています。

-ドキュメンタリー映像の中で、元犯罪者の少年が、子どもの頃に実母が薬物依存で暴れていても「そんなお母さんでも大好きだった」と嘆くシーンがありました。今活動をされている中で、犯罪を犯すところまでいってしまう子と犯罪を犯さない子の違いや、根本的な問題点はどこにあると感じますか。

 親がおるのとおれへんのとでは、悪いことをするときのレッドラインの超え方が違うなと思います。0か1か、俺は世の中から見捨てられているから、もうどうでもええわ、ここまで悪いことをしてもええねん、みたいな考え方の人は親にしても友達にしても止める人がいないなと思います。親がいないのにいるといったり、うそばかり付くし、もうずっとそういう虚言癖で育ってきた子もいますね。“何が本当か”を誰も教えてくれなかったんだと思います。だから自分でも分からない。ある子は人に優しくされたことがなくて、僕に「それだけ優しくされたらしんどい」と言う子もいました。



-刑務所を出所した人の4割が5年以内に再び刑務所に戻るとも聞きます。草刈さんが “親”として愛情を注いでも、仕事に行かず逃亡したり、窃盗、薬物、詐欺などの犯罪に再び手を染める人も少なくありません。こうした支援を続けることは、実の親でも逃げてしまいたくなる瞬間があるくらい大変だと思いますが、続けられている理由を教えてください。

 僕も子どもの頃は放ったらかされて育ったので、刑務所に入ったことはないのですが、今の時代だったら少年院に入っていたかもしれないですし、姉がものすごいヤンキーで学校を退学になったり、そういう姿や苦労を見てきているので“放っておいたらあかん”“誰かがやらなあかん”という思いがあります。

 11年前、最初に少年院から出院した子を預かったときは、一週間したらすぐにいなくなったんです。そんなやつばかりでした。逃がしたらあかんと思ってやっているけれど、逃げるので「逃げてもいいけれど俺に会ってくれたら小遣いをやるから、絶対に電話に出ろよ」と言うと、大体電話に出てくれるようになって。1回逃げて、また悪いことをしたり、お金がなくなったりして帰ってくる。少年院や刑務所を出たからといって、いきなり4番バッターになる子なんて絶対にいないですね。たまにいますけれど、そんなのは1安打ぐらいです。

 「更生」というのは難しいですが、放ったらかしにしたら絶対にまた悪いことをすると分かっているので、5年掛かるか10年掛かるか分かりませんが、何回繰り返してもやっていかないといけないなと思います。更生の道筋は人それぞれ違うので「更生の方程式」なんてないですが、自分のところで社会的な基礎知識くらいは身に付けてほしいです。もともと発達や精神的な特性を持っている人も多いので、医療につなげていくことも大事なのかなと思います。

-この取り組みをしてきて、日本の教育環境や親や家族、学校の関わり方、少年法や犯罪に関する法律などの面において、どんな課題や問題点があると思いますか。今の日本社会に伝えたいことがあれば教えてください。

 今は心の中に自己肯定感ができていない子どもが多いのかなと思います。僕らが少年のときは悪いことをするにしても、友達の家に集まって皆でたばこやシンナーを吸おうかとか、何かしらのコミュニティーがありましたが、今は携帯電話もあって人と人が接する機会がなくなってきたのもあると思いますね。うちの寮は4LDKなのですが少年院や刑務所に入っていたやつは、ほぼ部屋から出てきませんから。

 うちに来る子は施設で育った子も多くて、その子らは施設の職員を全く親とは思えていないですね。赤ちゃんの時から施設で集団で育てて、まともに育つ子もいるかもしれませんが、施設はやはり役所なので、お子さんに恵まれない方や本当に自分の子どものように育ててくれる方のもとで育ててもらえるような里親制度は、これからもっと増えていくべきだと思います。「三つ子の魂百まで」というように物心が付く時期までに、そういう愛情や自己肯定感を育てないといけないような気がしますね。

 それから被害者と加害者の支援については、国はもっと被害者支援に対する制度を確立してフォローしてほしいと思います。例えば、一家の大黒柱がある日、殺されて死んだら被害者家族は生活ができなくなりますよね。(日本では)1日1人以上が殺人や不慮の事故に遭っているので、うちの家族に限って身内が殺されるなんて…と思ってもみなかったことが一瞬にして起こったときに、支援がないと、そういう二次被害が起こるんです。被害者家族を放ったらかしにするのではなく、周りが助けるのか行政が助けるのか。交通事故だったら車の保険がおりますが、殺人保険なんてないですよね。そんな被害に遭っても、葬式代なども含めてお金も掛かるわけです。国が加害者に代わって被害者に賠償金を建て替える仕組みを作ったり、被害者と加害者の支援を両輪でやる必要があると思います。僕は被害者をこれ以上作らないために“加害者を作ったらあかん”という気持ちで活動していますが、僕自身は被害者でもあるので、そちらも大事だと思っています。

 テレビ大阪ドキュメンタリー映画『おまえの親になったるで』は、6月28日からテアトル新宿、7月19日からアップリンク京都で公開。

(取材・文・写真/小宮山あきの)


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