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【週末映画コラム】映画製作の裏方に光を当てた2作 本物の侍が時代劇の斬られ役に『侍タイムスリッパー』/事件に巻き込まれたスタントマンの奮闘を描く『フォールガイ』

エンタメOVO 2024年8月16日 8時0分

『侍タイムスリッパー』(8月17日公開)

 時は幕末、京の夜。会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)は、家老じきじきの「長州藩士を討て」という密命に従って暗闇に身を潜めていた。そして、新左衛門が長州藩士の山形彦九郎(庄野﨑謙)と名乗り合い刃を交えた刹那、雷鳴がとどろく。

 新左衛門が目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知りがく然となる。

 一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ、少しずつ元気を取り戻していく新左衛門。やがて「わが身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくために撮影所の門をたたくのだった。

 侍が現代にタイムスリップする話としては、『SFソードキル』(86)は冷凍冬眠だったが、『ちょんまげぷりん』(10)や『サムライせんせい』(18)がある。

 中でもこの映画は、本物の侍が時代劇の斬られ役になるという発想が面白い。コロナ下で資金集めもままならず、「自主映画で時代劇を撮る」という夢を諦めかけた安田淳一監督に、「脚本がオモロいから、なんとかしてやりたい」と、東映京都撮影所が救いの手を差し伸べたのだという。その結果、10人たらずの自主映画のロケ隊が時代劇の本場である東映京都で撮影を敢行するという奇跡が起きた。

 そんなこの映画は、新左衛門が直面するカルチャーギャップで大いに笑わせるが、山口らによる肝心の殺陣は本物。ワイヤアクションやCGとは無縁の世界だ。そこに斬られ役はもとより、時代劇や撮影所への愛があふれる。ちなみにこの映画は斬られ役の第一人者だった福本清三に捧げられている。とにかく山口が素晴らしい。

 その他、スター・風見恭一郎(冨家ノリマサ)、殺陣師・関本(峰蘭太郎)、西経寺住職(福田善晴)、住職の妻節子(紅萬子)、撮影所所長・井上(井上肇)、スター・錦京太郎=心配無用ノ介(田村ツトム)、斬られ役俳優・安藤(安藤彰則)ら、脇役たちも皆いい味を出している。

 安田監督は、脚本・照明・編集・他も担当、助監督・山本優子役の沙倉ゆうのは助監督、制作、小道具も兼任している。そうした低予算の自主制作でここまでの映画を作ったことは称賛に値する。

『フォールガイ』(8月16日公開)


 撮影中の事故で大けがを負ったスタントマンのコルト(ライアン・ゴズリング)は、復帰作となる映画の撮影現場で、監督となった元恋人のジョディ(エミリー・ブラント)と再会する。

 だが、長年にわたりコルトがスタントダブルを務めてきたトム・ライダー(アーロン・テイラー・ジョンソン)が失踪。ジョディとの復縁とスタントマンとしての復活を狙うコルトはトムの行方を追うが、思わぬ事件に巻き込まれてしまう。

 1980年代のテレビドラマ「俺たち賞金稼ぎ!!フォール・ガイ」をリメークし、危険な陰謀に巻き込まれたスタントマンの戦いを、自身もスタントマン出身のデビッド・リーチ監督がリアルかつ斬新なアクションで活写する。

 アクションはもちろん、ラブロマンスあり、サスペンスあり、エンドロールでメイキングまで映す大サービスぶりを発揮。最近は、暗く考えさせられる映画が多いが、時には何も考えずに楽しめるこうした映画も必要だ。

 スタントマンやアクション映画に対する愛にあふれ、キッスの「ラヴィン・ユー・ベイビー」やフィル・コリンズの「見つめて欲しい」など、懐かしのメロディーの引用も効果を上げている。

(田中雄二)

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