ティム・バートン監督が、自身の出世作となった1988年の映画『ビートルジュース』の35年後を描いたホラーコメディー『ビートルジュース ビートルジュース』が9月27日から全国公開される。本作の日本語吹き替え版でビートルジュース(マイケル・キートン)を担当した山寺宏一と、アストリッド(ジェナ・オルテガ)役の伊瀬茉莉也に話を聞いた。
-もともと「ビートルジュース」にはどんなイメージを持っていましたか。また、今回吹き替えをしてみてどう感じましたか。
山寺 前作は声優としては全く関わっていませんが、ティム・バートンのヒット作というイメージと、マイケル・キートンが演じるビートルジュースのビジュアルが最初に浮かんで、ホラーコメディーってこういうものだなというのを感じさせる映画だと思いました。実際に吹き替えてみても、「ザ・ホラー・コメディー」だと思いました。
伊瀬 前作が公開されたのが1988年で35年前なのですが、私も1988年生まれなので、前作は自分が生まれた年に公開された映画なんです。作品自体は今回の出演を機に知りました。ティム・バートン監督は、35年前からぶれていないというか、表現したい世界観というものが、初期の頃から確立されていたんだと感じました。35年の時を経ての続編ということで、前作のヒロインだったリディア(ウィノナ・ライダー)がお母さんになって、その娘を演じさせていただけることがすごく光栄だと思いました。ジェナ・オルテガさんが演じたアストリッドというキャラクターには、思春期特有の内向的な部分もあるし、母親とうまくコミュニケーションが取れない葛藤を、みずみずしく、初々しく、表現されていたので、それを表現するのはちょっと難しかったですがとても楽しかったです。
-大ベテランの山寺さんにとっても今回の吹き替えは大変でしたか。
山寺 難しかったです。マイケル・キートンもだいぶ声を作ってやっているので、なるべくそれに寄り添うというか、自分のできる範囲で不自然にならない程度に、同じような発声でできればいいなと思いました。「ヤマちゃん、声を作り過ぎている」と思われるかもしれないけれど、字幕版を見たらマイケル・キートンもそういう声だからって先に言っておきたいです(笑)。それから、昔からのファンの方は、ビートルジュースの吹き替えは、西川のりお師匠のイメージを持っている方も多いと思います。でも、僕は僕なりに長い間吹き替えの仕事をやってきて、こういうふうにやったら皆に楽しんでもらえるんじゃないかなというアプローチでやっているので、のりお師匠みたいなことはできないけれど、声優として精いっぱい頑張りましたので、字幕版も吹き替え版も両方見ていただいて、皆さんに判断してもらいたいと思います。
-今回は“全身吹き替え”が話題になりましたね。
山寺 声の収録は別です。僕の場合は、まず特殊メークのためのかたどりをやって、その後に声を録って、録り終わった後にメークをして衣装をつけて撮影という。だから、「こういう扮装(ふんそう)をしたら役作りに役立ったんじゃないですか」って聞かれるけど、全く役立ってはいないです(笑)。かたどりに4時間、メークに5時間、撮影に3時間もかかりました。
伊瀬 私は普通の人間の役だったので、衣装を着て、メークをして、アストリッドとして、私も映画の一部に出るのかなぐらいな感覚でした。史上初の全身吹き替えということに、宣伝担当者の熱い思いや、作品に対する愛情みたいなものを感じて、一緒におみこしを担がせてくださいみたいな気持ちで、ノリノリでやらせてもらいました。
-今回の吹き替えをしながら、苦労した点、楽しかった点、心掛けたことなどを。
山寺 一番苦労したのは全身吹き替えですけど(笑)。声の方ではもちろんビートルジュースは初めてだったので、どうやったら日本語吹き替え版を見に来るお客さんに楽しんでいただけるかということを考えました。字幕版と両方見る方もいるので、全く違ってもいけないし、違和感があってもいけないし、そこが難しいところです。マイケル・キ―トンをやるのは初めてじゃないけど、ビートルジュースを演じている彼をやるのは初めてだったので、冒頭のシーンはどういうテンションがいいのかとか、ディレクターといろいろと相談をしました。あとは、いくつかのパターンをやってみて、どれが面白いのかを判断してもらうこともありました。やっぱりこの仕事は、難しければ難しいほど楽しいです。ただ、うまくできたというのは自己満足で、あとは観客の皆さんの評価なので、そこでまた落ち込む可能性はありますけど、やっている時は楽しかったです。
伊瀬 ジェナ・オルテガさんの吹き替えを担当させていただいたのは今回が2作目でした。ディレクションの時に、もっとリアルにティーンエージャーの揺れている感じを出してほしいみたいに言われました。劇中のせりふで「リアルに生きろ」というのがありますが、まさにそれだなと。出てくるのはこの世のものではないキャラクターばかりだけど、アストリッドは生身の人間ということで、結構ディスカッションをして、キャラクターを固めるのにちょっと時間がかかりました。そこが難しくもあり、楽しいところでもありました。
-マイケル・キートンにはどんなイメージを持っていますか。
山寺 捉えどころが難しい。コメディーもシリアスな役もやって、そんなに派手な芝居をするわけじゃない。独特な感性を持っていると思うので、他の人とはちょっと違う感じがします。作品によって印象がガラッと変わりますしね。どちらかといえば静かな芝居が多い。多分、オーバーな演技とかあざといのが嫌いなんだろうなと思います。でも、ビートルジュースは振り切って思いっ切りやっているじゃないですか。だからいろんな引き出しを持っている人なんだなと改めて感じました。
-映画を見た感想や見どころも含めて、観客に向けて一言ずつお願いします。
伊瀬 ティム・バートン監督の世界観がドドーンと出ている作品になっているので、前作を見たことがない人でも、すごく楽しめる作品になっていると思います。ぜひ吹き替え版の方で楽しんでいただけたらうれしいなって思います。
山寺 これぞティム・バートンという感じの、これでもかというぐらい変なキャラが出てくるホラーコメディーの決定版です。あと一つどうしても言いたいことは、「僕たちがこれだけいろいろと頑張ったんだから、とりあえず見てくれ」と(笑)。できれば字幕版と吹き替え版を見比べてほしいです。
(取材・文・写真/田中雄二)