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【週末映画コラム】70年代の映画を見ているような気分になる『悪魔と夜ふかし』/“未来の南北戦争”を描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

エンタメOVO 2024年10月4日 8時0分

『悪魔と夜ふかし』(10月4日公開)

 1977年、ハロウィンの夜。米放送局UBCの深夜のトークバラエティー番組「ナイト・オウルズ」(夜ふかし)の司会者ジャック・デルロイ(デビッド・ダストマルチャン)は、生放送のオカルトライブショーで視聴率の低迷を打開しようとしていた。

 怪しげな超常現象が披露された後、この日のメインゲストとして、ルポルタージュ『悪魔との対話』の著者であるジューン博士(ローラ・ゴードン)と本のモデルとなった悪魔つきの少女リリー(イングリッド・トレリ)が登場する。

 視聴率獲得のためには手段を選ばないジャックは、テレビ史上初となる“悪魔の生出演”を実現させようとするが、番組がクライマックスを迎えたその時、思わぬ惨劇が起こる。

 テレビ番組の生放送中に起きた怪異を、ファウンドフッテージ(怪異に襲われた撮影者が残した映像の体裁を取る)形式で描いたオーストラリア製ホラー。監督・脚本はコリン&キャメロン・ケアンズ兄弟。

 この映画のアイデアの基は、実際にオーストラリアで放送されていた深夜のテレビショーにあるようだが、日本でも「11PM」のような同種の番組があったので、そのうさんくさい雰囲気に懐かしさを感じながら、ジャズ(フュージョン)風の音楽やスタイリッシュな衣装と美術に彩られた70年代のテレビショーの再現に目を見張った。

 そして、その中から、心に傷と秘密を抱えた主人公ジャックのおかしみと悲しみ、その裏に潜む狂気をあぶり出す手法はお見事。ダストマルチャンの好演も光る。

 ケアンズ兄弟監督は「この映画は、70年代のトークショーとホラー映画に寄せた、私たちなりの悪夢的な叙情詩」と語っている。

 その言葉通り、ウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』(73)、ブライアン・デ・パルマの『キャリー』(76)、デビッド・クローネンバーグの『スキャナーズ』(81)といったホラーはもちろん、TV業界で成功するために狂気に陥る人物を描いた、シドニー・ルメットの『ネットワーク』(76)やマーティン・スコセッシの『キング・オブ・コメディ』(82)など、自らが影響を受けた70〜80年代の名作へのオマージュ巧みに盛り込んでいるので、あの頃の映画を見ているような気分になった。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10月4日公開)


 近未来、連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍との間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。

 就任3期目に入った権威主義的な大統領は勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。

 戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)は、ジャーナリストのジョエル(ワグネル・モウラ)とサミー(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)、新人カメラマンのジェシー(ケイリー・スピーニー)と共に、14カ月にわたって一度も取材を受けていない大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからホワイトハウスを目指して旅に出る。だが、彼らは戦場と化した各地で、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにする。

 女性型ロボットと青年の恋を描いた『エクス・マキナ』(14)のアレックス・ガーランドが監督・脚本を担当したアクションスリラー。不穏なロードムービーとしての趣もある。

 「シビル・ウォー」とは内戦のことだが、アメリカでは南北戦争を意味する。つまりこの映画は“未来の南北戦争”を描いていることになる。そして、現実に起きた連邦議会議事堂襲撃事件やドナルド・トランプの暗殺未遂事件のことを考えると、決して絵空事とは思えないところがある。それ故、銃撃戦のリアリティーも含めて、とても怖い映画だといえる。

 また、この映画で描かれた戦場カメラマンやジャーナリストの姿を見ながら、イラク戦争に取材した『Little Birds-イラク戦火の家族たち-』(05)というドキュメンタリー映画を撮った、ビデオジャーナリストの綿井健陽氏にインタビューした時のことを思い出した。

 彼は、危険な現場に行く理由を、「今そこで何が起きているのか知りたい、見たい、確かめたい。そして、それを伝えたいということだ」と語っていたが、どこか歯切れが悪く、こちらももやもやとした思いが残ったことを覚えている。

 この映画の、ベテランカメラマンのリーが新人のジェシーを教え導くところも、どこかぎこちない。彼女たちもまた自分たちの行動について迷っている節がうかがえる。

 この映画がユニークなのは、優れたポリティカル・フィクションであると同時に、そうした戦場ジャーナリズムの矛盾もついているところなのだ。

(田中雄二)

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