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【週末映画コラム】「果たしてジョーカーとは一体誰なのか?」を突き詰めた『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』/マイケル・ケインの引退作、グレンダ・ジャクソンの遺作となった『2度目のはなればなれ』

エンタメOVO 2024年10月11日 8時0分

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(10月11日公開)

 殺人を犯しながら、社会への反逆者、民衆の代弁者として祭り上げられたアーサー=ジョーカー(ホアキン・フェニックス)。そんな彼の前にリー(レディー・ガガ)という謎めいた女性が現れる。

 ジョーカーの狂乱はリーへ、そして群衆へと伝播拡散し、世界を巻き込む新たな事件が起こる。

 「バットマン」に悪役として登場するジョーカーの誕生秘話を描き、アカデミー賞でホアキンが主演男優賞を受賞するなど高い評価を得たサスペンスエンターテインメント『ジョーカー』(19)の続編。

 トッド・フィリップス監督のほか、脚本のスコット・シルバー、撮影のローレンス・シャー、前作でアカデミー作曲賞を受賞した音楽のヒドゥル・グドナドッティルらメインスタッフも続投した。

 タイトルの「フォリ・ア・ドゥ」は、フランス語で「2人狂い」という意味で、精神障害の妄想性障害の一つ。一人の妄想がもう一人に感染し、複数人で同じ妄想を共有することが特徴とされる。

 前作の、人を笑わせたいという願望がやがて狂気に変わるアーサーの姿は、悲しみと不気味さを併せ持つピエロ=道化師の本質を鋭く突いていた。

 また、劇中にコメディー映画の古典であるチャップリンの『モダン・タイムス』(36)が映り、そのテーマ曲である「スマイル」が流れ、ラストソングはフランク・シナトラの「悲しみのクラウン」ということからも明らかなように、「道化とは?」「笑いとは?」が全体を貫くテーマの一つでもあった。

 今回は、“ジョーカーになったアーサー”のその後を描きながら、「彼は悪のカリスマか?」「ただの弱き人間か?」「果たしてジョーカーとは一体誰なのか?」を突き詰め、メディアや大衆の欲望と実際との隔たりも暴いている。

 また、ガガが相手役になったことからミュージカル的な要素が加味され、「世界は愛を求めてる」「ザッツ・エンターテインメント」「遥かなる影」などをホアキンとガガが歌い踊る妄想シーンがあり、そこから彼らの夢や理想、本音がにじみ出るというユニークな手法が取られている。

 前作は賛否両論があったが、今回も人間の欲深さや愛されたいという承認欲求をジョーカーに仮託して描いているだけに、嫌悪する者と共感する者とに分かれるのではないかと思う。いずれにせよ、前作同様に、刺激的な映画であることだけは確かだ。

『2度目のはなればなれ』(10月11日公開)


 2014年6月。イギリス、ブライトンの老人ホームで暮らすバーニー(マイケル・ケイン)とレネ(グレンダ・ジャクソン)夫妻は、互いに寄り添いながら残り少ない日々を過ごしていた。

 そんな中、89歳で退役軍人のバー二―は、妻に後押しされ、ノルマンディー上陸作戦の70年記念式典に参加するため、ホームを抜け出して一人でフランスへ向かう。

 バーニーとレネが離ればなれになるのは、戦争以来、今回が人生で2度目のことだった。決して離れないと誓っていたバー二―がレネを置いて旅に出たのには、ある理由があった。

 だが、バーニーが行方不明だという警察のSNS投稿をきっかけに、バーニーの旅が大きなニュースとして報じられることになる。

 脚本のウィリアム・アイボリーとオリバー・パーカー監督が、実話を基に描いたヒューマンドラマ。原題は「THE GREAT ESCAPER=大脱走者」。

 『ハンナとその姉妹』(86)と『サイダーハウス・ルール』(99)でアカデミー助演男優賞を受賞したケインと、『恋する女たち』(69)と『ウィークエンド・ラブ』(73)でアカデミー主演女優賞を受賞したジャクソンの、『愛と哀しみのエリザベス』(75)以来、約50年ぶりの共演が大きな見どころ。図らずも、ケインの引退作、ジャクソンの遺作となった。

 このケインとジャクソンを見ていると、『愛、アムール』(12)で老夫婦を演じたジャン・ルイ・トランティニャンとエマニュエル・リバと同様に、もはやどこまでが地でどこからが演技なのかの区別がつかない。これは老名優にして初めて達することができる境地だ。

 そして、ノルマンディー上陸作戦を描いた映画といえば、『史上最大の作戦』(62)や『プライベート・ライアン』(98)が有名だが、この映画は、バー二―とレネの若き日とバーニーの戦場体験をフラッシュバックの形で見せる。

 そんなこの映画の核となるのは、もちろんバーニーとレネの夫婦愛だが、もう一つの大きなテーマは、戦場体験によるバーニーのPTSD(心的外傷後ストレス障害)と「贖罪と許し」について。

 バーニーの道中に、同じく退役軍人で心に傷を持つアーサー(ジョン・スタンディング)や、現地で知り合ったドイツの退役軍人たち、アフガンで傷を負った若い帰還兵らを登場させることによって、敵も味方も時代差もない戦争が生む共通の罪を明らかにしていく手法が秀逸だ。

 かつてロバート・デ・ニーロは「映画はずっと残るから舞台よりも好きだ」と語ったが、この映画を見ると、ケインもジャクソンも映画の中で生き続けていく喜びが感じられる。

(田中雄二)

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