『サンセット・サンライズ』(1月17日公開)
新型コロナウイルスのパンデミックにより日本中がロックダウンや活動自粛に追い込まれた2020年。東京の大企業に勤める釣り好きの西尾晋作(菅田将暉)はリモートワークをきっかけに、南三陸に見つけた4LDKで家賃6万円の物件に“お試し移住”することに。
仕事の合間には海に通って釣り三昧の日々を過ごす晋作だったが、地元住民たちはよそ者の彼のことが気になって仕方がない。晋作は一癖も二癖もある住民たちとの交流に戸惑いながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力で次第に人々の中に溶け込み、移住先の大家で町のマドンナ的存在でもある関野百香(井上真央)のことも気になり始めるが…。
岸善幸監督が、脚本家のクドカンこと宮藤官九郎とタッグを組み、楡周平の同名小説を映画化したヒューマンコメディー。中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、小日向文世らが共演。
宮城県出身のクドカンは、昨年「不適切にもほどがある!」「季節のない街」「新宿野戦病院」といったテレビドラマで、自身の震災やコロナ禍への思いを癖のある人物たちに仮託して脚本を書いたが、この映画の脚本も同一線上にあると言ってもいいだろう。そのテーマは喪失と再生。そして地方創生だ。
この映画では、今振り返れば、失笑することもあるコロナ禍での規制、リモートによる在宅勤務に加えて、震災が残した傷、地方の過疎化による空き家などの社会問題をユーモアとペーソスを交えて描いている。菅田の個性が光り、自身も宮城県女川町出身で百香の義父役を演じた中村がいい味を出している。
もう一つの見どころは、晋作が食す南三陸のグルメの数々。「孤独のグルメ」の松重豊同様、菅田のあまりの食べっぷりの良さに目を奪われる。これも立派な南三陸のアピールになる。
惜しむらくは、全体がいささか長くなったこととギャグにくどさがあった点。三谷幸喜同様、クドカンも本来は舞台やテレビドラマの人なので、映画になるとやり過ぎが目立ち、ちょっとテンポや間が悪くなるところがある。
『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』(1月17日公開)
1970年代。気弱で繊細な若き実業家ドナルド・トランプ(セバスチャン・スタン)の父が営む不動産会社が政府から訴えられ破産寸前に追い込まれていた。
そんな中、トランプは政財界の実力者が集まる高級クラブで、悪名高き弁護士のロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)と出会う。勝つためには手段を選ばない冷酷な男として知られるコーンは意外にもトランプを気に入り、彼の顧問弁護士となる。
コーンによって服装から生き方まで洗練された男に仕立て上げられたトランプは数々の大事業を成功させるが、やがてコーンの想像をはるかに超える“怪物”へと変貌していく。
米大統領に再選されたトランプの若き日を描く。監督はアリ・アッバシ。この映画の原題は「アプレンティス=徒弟」。つまりトランプはコーンの徒弟だったということ。何しろ初対面のときにコーンはトランプを「哀れな坊や」と呼ぶのだ。今のトランプからは想像もつかない。
そしてコーンは、「アメリカの精神は資本主義、強権、真実、正義」「アメリカが一番」と豪語し、勝利のための三つのルールとして、その1「攻撃」、その2「非を認めない」、その3「決して負けを認めない」をトランプに伝授する。
これらは前回の大統領時のトランプの政策や行動、そして今回の大統領選の姿勢とも通じていて驚くが、何よりトランプ陣営がよくこの映画の公開を許したものだと別の意味で感心させられたし、トランプを演じたスタンがだんだんと似てくるところにも驚かされた。
70年代の荒れたニューヨークの再現に加えて、「ロック・ユア・ベイビー」(ジョージ・マクレー)や「誘惑のブギー」(バカラ)といった懐メロが流れ、アンディ・ウォーホル、メディア王ルパート・マードック、ニューヨーク・ヤンキースの名物オーナー・ジョージ・スタインブレナー、エド・コッチニューヨーク市長らに扮(ふん)した俳優が姿を見せるのも面白かった。
それにしても、まるで大統領就任式に合わせたかのような日本公開はいささかでき過ぎの感がある。蛇足だが、『グレムリン2 新・種・誕・生』(90)ではトランプをモデルにした“ダニエル・クランプ”が登場し、『ホームアローン2』(92)にはトランプ本人が顔を出す。
(田中雄二)