NHKで好評放送中の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。1月12日に放送された第二回「吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』」では、主人公・蔦屋重三郎(横浜流星)が、吉原に客を呼ぶアイデアとして、ガイドブック「吉原細見」の序文の執筆を、有名人の平賀源内(安田顕)に依頼しようと尽力する様子が描かれた。
まだ二話なので、物語の行方はこれから見極めていくとして、軽快でテンポのいい展開を含め、早くも目が離せなくなっている。その大きな要因は、魅力的な俳優陣の顔触れだ。
まず何といっても気持ちいいのが、横浜流星演じる蔦重の陽気な江戸っ子ぶり。横浜といえば、これまで映画などではシリアスな芝居の印象が強く、カラッと明るい蔦重役は新境地を見た思いがする。さまざまな所作や仕草、吉原独特のしきたりなどもあるはずだが、その上「べらんめえ調」の江戸弁も違和感なく話しており、かなり時間をかけて準備をした様子がうかがえる。
また、蔦重の幼なじみの花魁・花の井を演じる小芝風花は、これまでも多彩な役を演じてきたが、今回も花魁役をきっちりとこなし、新たな一面を披露している。発売中のガイドブックのインタビューを読むと、「花魁道中の外八文字(つま先で八の字を描くようにする歩き方)を、高下駄を借りて、人目のつかないところで練習した」という主旨の発言をしており、こちらも努力の跡がうかがえる。
そしてもう一人、印象的なのが平賀源内役の安田顕。その芸達者ぶりは今さら言うまでもないが、蔦重を煙に巻く、人を食ったような源内のキャラクターはまさにはまり役だ。
第二回では、この3人のアンサンブルが出色だった。自分を探している蔦重と出会った源内は、正体を明かさず、「吉原に連れていってくれ。気に入ったら源内に会わせる」と持ち掛ける。案内された女郎屋で好き放題していたところ、正体がバレ、たちまち蔦重が「平賀源内先生だったんですかー!」と駆け寄ることに。
ここからの2人の駆け引きは、まさに喜劇。「じゃあ、もう書けますよね? 吉原のいいところ、その目で見たんですから」と迫る蔦重と、「俺、男一筋なのよ」と明かして断ろうとする源内。
やがて源内が「お前さん、改めて見ると、相当いい男だね」と蔦重に迫ると、一転して攻守交代。突然のことに「え?」と戸惑う蔦重に、「いいじゃない、いいじゃない…」と横から迫る源内。それをかわそうとして、座ったままそっぽを向いて逃げる蔦重。さらに源内が「なあ、お前さんが、花魁の格好をしとくれよ。そうしたら、俺、書けんじゃないかな?」と提案すると、蔦重は「じゃあ、やりましょうか…?」と、渋々引き受けようとする。
この横浜と安田の喜劇的な掛け合いは、セリフのトーンや間、2人の息もぴったりで、テレビを見ながら思わずうなった。
だがこの直後、男装をした花の井が部屋に現れ、ムードがガラッと変わる。源内が「女郎が男の格好をして、俺の気を引こうって魂胆かい?」と突っかかると花の井は、「男。果たして、男かどうか。今宵のわっちは“瀬川”でありんす」と答える。源内の求める相手が、亡き思い人の瀬川菊之丞であることに気付き、自分をそう呼んでほしいと機転を利かせた、というわけだ。花の井の粋な計らいを気に入った源内は、「諸国大名、弓矢で殺す、松葉の瀬川は目で殺す、ってなとこかな」と言葉をかける。このとき、小芝の目がクローズアップになったが、その色っぽさは、源内の言葉を裏付けるだけの説得力があった。
こうして花の井と一夜を過ごした源内は、「序」の執筆という蔦重との約束を果たす。蔦重と源内の喜劇的な駆け引きを経て、源内と花の井のしっとりとした一夜へ…。このスムーズな場面転換も鮮やかだった。
脚本家の森下佳子が執筆した脚本が磨き抜かれていることは言うまでもないが、それをしっかりと伝える俳優陣の力量にはうなるばかりだ。そして彼らがアンサンブルを奏でることで、その魅力が何倍にも増していく。もちろん、魅力的な俳優はこの3人だけではなく、他にも数多くいる。この先、彼らがどんな芝居を見せてくれるのか。楽しみで仕方ない。
(井上健一)