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【週末映画コラム】今時代劇が熱い 多くの人々を疫病から救った実在の町医者『雪の花 -ともに在りて-』/初めて武士階級として一揆を起こした男『室町無頼』

エンタメOVO 2025年1月24日 8時0分

『雪の花 -ともに在りて-』(1月24日公開)

 江戸時代末期、有効な治療法がなく多くの人の命を奪ってきた痘瘡(とうそう=天然痘)。福井藩の町医者・笠原良策(松坂桃李)は、痘瘡に有効な「種痘(予防接種)」という予防法が異国から伝わったことを知り、京都の蘭方医・日野鼎哉(ていさい=役所広司)に教えを請い、私財を投げ打って必要な種痘の苗を福井に持ち込む。

 だが、天然痘のうみをあえて体内に植え込むという種痘の普及には、さまざまな困難が立ちはだかる。それでも良策は、妻の千穂(芳根京子)に支えられながら疫病と闘い続ける。

 『雨あがる』(00)『蜩ノ記』(14)『散り椿』(18・脚本)『峠 最後のサムライ』(22)などで、時代劇を通して人間の美しい在り方を問うてきた小泉堯史監督が、吉村昭の小説『雪の花』を映画化。

 今回は、多くの人々を疫病から救った実在の町医者の姿を描いているため、どうしてもコロナ禍を意識したものとして捉えられがちだが、小泉監督が「コロナ禍を意識していないわけではないが、どちらかといえば笠原良策という人物に引かれて撮った。歴史と伝統を大切に、医者として病に対峙(たいじ)し、いかに生きるか。その生き方を問う作品」と語るように、種痘を広めた無名だが素晴らしい医師のことを世に知らしめたいという思いが強かったのだろう。

 そして、その結果として、監督いわくの「時代劇、要するに歴史といっても人間の営みは現代と全く同じ。その時代に生きている人たちが今の自分たちにつながる」ところが大きいのだ。

 面白いのは、鼎哉と良策の師弟関係や良策の行動などに、小泉監督の師匠・黒澤明監督の小石川養生所を舞台にした『赤ひげ』(65)をほうふつとさせるシーンがあるところ。また、原作は吉村昭なのに、妻の千穂の人物像などに山本周五郎的なものを感じさせるところが小泉監督の真骨頂だ。

 良策と千穂をはじめ、登場人物のほとんどが“いい人”なのはいささか出来過ぎの感もあるが、「爽やかな気持ちになって劇場を後にしてもらえたらうれしい」という小泉監督の言葉通りの映画にはなっていると思う。

『室町無頼』(1月17日公開) 


 1461年、応仁の乱前夜の京。人々は大飢饉と疫病に襲われ、人身売買や奴隷労働も横行していた。だが、時の将軍・足利義政(中村蒼)は享楽にふけっていた。そんな中、己の腕と才覚だけで乱世を生きる自由人の蓮田兵衛(大泉洋)はひそかに倒幕と世直しを画策し、立ち上がる時を見計らっていた。

 一方、天涯孤独で夢も希望もない日々を過ごしていた才蔵(長尾謙杜)は、兵衛に武術の才能を見いだされて鍛えられ、彼の手下となる。やがて兵衛のもとに集った無頼漢たちは、巨大な権力に向けて暴動を仕掛ける。そんな彼らの前に、兵衛のかつての悪友・骨皮道賢(堤真一)率いる幕府軍が立ちはだかる。

 日本史上で初めて武士階級として一揆を起こした男の知られざる戦いをドラマチックに描く。垣根涼介の時代小説を映画化した戦国アクション。監督・脚本は入江悠。

 昨年『碁盤斬り』と『十一人の賊軍』が公開された白石和彌監督に続いて、入江監督も時代劇に参戦。

 この映画のユニークなところは、ほとんど時代劇の舞台にはならない室町時代を背景にし、実在したが無名の男を主人公としたため、物語の自由度が高くなった点にある。それ故、アクションや設定にマカロニウエスタンや香港の武侠映画の要素を取り入れながら、独自の世界を構築している。大泉も長尾もみごとな殺陣を見せる。

 上記2作の白石監督と、『雪の花 -ともに在りて-』の小泉堯史監督にインタビューした際に、時代劇の魅力について尋ねると、どちらも「時代劇の魅力は自由なところで、そこに現代性を持たせることもできる」と語ってくれたが、この映画の入江監督に尋ねても同じような答えが返ってくるのではないかという気がした。

 その一方、『十一人の賊軍』とこの映画の製作・配給はかつて時代劇を量産し黄金時代を築いた東映で、『侍タイムスリッパー』にも協力している。そう考えると、これらの映画は“新たな時代劇”ではあるが、ちゃんと伝統も継承しながら作られていることが分かる。こうしてさまざまな形で時代劇が復活し、さまざまな展開を見せるのはうれしい限りだ。

(田中雄二)

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