Infoseek 楽天

【週末映画コラム】ご当地映画と見せかけた怪獣映画『怪獣ヤロウ!』/移住と田舎暮らしのマイナス面をデフォルメしたスリラー『嗤う蟲』

エンタメOVO 2025年1月31日 8時0分

『怪獣ヤロウ!』(1月31日公開)

 岐阜県関市役所の観光課に勤める山田一郎(ぐんぴぃ)は、怪獣映画が大好きなだけの、何の役にも立たない男。ある日、ひょんなことから市長(清水ミチコ)に地元を盛りあげるための映画の製作を命じられる。

 ところがトラブルが発生し、普通のご当地映画を作ることに疑問を感じた一郎は、子どもの頃からの夢だった怪獣映画の製作を決意するが、そんな彼の思いが、市政を巻き込んだ大事件へと発展していく。

 YouTubeの「バキバキ童貞(バキ童)」として知られる、お笑いコンビ「春とヒコーキ」のぐんぴぃが映画初出演で主演を務めたコメディー映画。

 一郎と共に映画製作に取り組む麻衣を菅井友香、観光課の先輩・武藤を手塚とおる、同僚の古川を三戸なつめ、伝説の怪獣映画監督・本多英二を麿赤兒が演じた。監督、脚本は芸能事務所タイタンの社員で、映画監督としても活動する八木順一朗。

 全体的には、地方の行政が中心になって製作するいわゆる“ご当地映画”のパロディーなのだが、実はその裏には映画製作に携わる人たちへの敬意が込められているのが面白い。

 しかもそれは着ぐるみやミニチュアやセットを使ったアナログの世界。監督の名前も『ゴジラ』(54)などを監督した本多猪四郎と特技監督の円谷英二の合成だ。

 また、一郎は子どもの頃、怪獣映画を作ってばかにされるが、これは八木監督の実体験によるものだという。つまり一郎は監督の分身なのだ。そして一郎のモチベーションになるのが怒りの心。これが怪獣が物を破壊する動機と一致する。

 というわけで、ちゃんと関市をPRするご当地映画と見せかけながら、怪獣映画を作ってしまうしたたかさがこの映画の真骨頂。ところどころ稚拙なところもあるが、好きなことを貫く尊さや、作り手の熱が伝わってくる映画であることだけは間違いない。

 そんなこの映画は自主映画的なにおいもする。もしかして第二の『侍タイムスリッパー』になり得るか。ぐんぴぃ、清水ミチコ、麿赤兒の怪演も見ものだ。

『嗤う蟲』(1月24日公開)


 田舎でのスローライフに憧れるイラストレーターの杏奈(深川麻衣)は、脱サラした夫の輝道(若葉竜也)と共に麻宮村に移住する。自治会長の田久保(田口トモロヲ)を崇拝し、自分たちに過剰なおせっかいを焼く村民たちに閉口しながらも、2人は新天地での生活を満喫する。

 そんな中、村民の中に田久保を畏怖する者たちがいることを知った杏奈は、次第に不信感を抱くようになっていく。一方、輝道は田久保の仕事を手伝うことになり、隠された村の掟を知ってしまう。

 監督は城定秀夫。脚本は内藤瑛亮。移住と田舎暮らしのマイナス面をデフォルメしたスリラー。偶然だが、その対極にある宮藤官九郎脚本の『サンセット・サンライズ』と同時期に公開されたことは、描き方によってそのテーマがプラスにもマイナスにもなるという点で興味深いものがあった。

 そもそもホラーやスリラーを見て気分がよくなることはないのだが、この映画にしろ、公開中の『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』にしろ、見ながら嫌な気分になり、後味の悪さが残るように作られている。観客にそうした思いを抱かせることが作り手の狙いだとすれば、その点ではこの映画は成功しているといえるのかもしれないが、好みは分かれるだろう。

(田中雄二)

この記事の関連ニュース