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「いろんなことを考えて感じられる映画。こんな映画はどこにもないと思います」久保史緒里、ファン・チャンソン 『誰よりもつよく抱きしめて』【インタビュー】

エンタメOVO 2025年2月10日 16時15分

 絵本作家の良城(三山凌輝)と書店員の月菜は、海沿いの街で一緒に暮らしている。学生時代から互いを大切にして交際を続けていたが、良城の強迫性障害による潔癖症で、2人は手もつなげずにいた。思い悩む月菜の前に、恋人と触れあっても心が動かないイ・ジェホンが現れる。『ミッドナイトスワン』の内田英治監督が、新堂冬樹の同名恋愛小説を映画化した『誰よりもつよく抱きしめて』が2月7日から全国公開された。月菜を演じた乃木坂46の久保史緒里とイ・ジェホンを演じた韓国の2PMのファン・チャンソンに話を聞いた。

-最初に脚本を読んだ印象は?

久保 とにかく苦しいというか、繊細な感じがしました。人間の本質を可視化する形で言葉にして全員がクロスしている感じというのはありそうでなかった人間模様なので、映像になった時にどうなるのだろうというワクワクした気持ちを持ちました。

チャンソン 最初にもらった脚本が翻訳されたものだったので、ちょっと理解ができなくて、イ・ジェホンはどういう人なんだろう、ちょっと曖昧で悪い人なのかなと思いました。

-実際に演じてみていかがでしたか。

久保 出てくる人がみんな不思議な感じがしました。でも、それが人間の本質を描いているということが理解できたので違和感なく撮影ができました。最初に脚本を読んだ時や撮影が始まる前は、自分が演じる月菜にフォーカスを当てて考えてしまっていたので、どうしても心情として苦しいなという思いが強かったんです。現場に入ってからも、ジェホンさんのことを思ったら行動はどうなるんだろうとか、逆によし(良城)くんのことを思ったらとか、いろんなことを考えました。(内田英治)監督とも、月菜は今どういう気持ちなのかというのをお話しながら、よしくんに気持ちを伝える時も、テストの段階でいろんなパターンを試してみて、「どれが一番しっくりきた?」と、最後は私に委ねてくださいました。

チャンソン 現場に行く前は、脚本を読む時間が少なかったので、イ・ジェホンという人物を理解するのに悩みました。それから本屋さんはこんな感じかなとか、月菜はどんな感じの人でどういう気持ちで出会うのかなとかを想像しながら、韓国で1人で練習していたので、現場に入って監督や久保さんたちといろいろと話してみて、自分の想像していたイメージが具体的なものに変わっていきました。脚本を読んだ印象とは全然違ったので、どうしょうとめちゃくちゃ慌てました。

-演じる上で、心掛けたことや気を付けたことはありましたか。

久保 心を中途半端な場所に置かないようにしました。今、月菜の心の中はどういう状態なのか、どういう気持ちに寄っているのかを常に心の中に置いて演じるようにしました。脚本を読んで怖かったのは、付き合っている人には触れられないという壁があって、それで自分に向いてくれる人の方に行ってしまうのは、世間のイメージとしてはよくないことで片付けられてしまうかもしれないということでした。でも、月菜として現場に立ってみると、その心情がよく分かる気がしました。相手に触れられないということがどれほど大きな壁なのかということが実感できたので、そういう意味では月菜は人間らしくて正直な人だし、人間には誰しもそういう部分があると思いました。

チャンソン いろいろと難しかったです。例えば、月菜と本屋で初めて出会うシーンでは、絵本を見ながら泣いてしまって、月菜に理由を聞かれると、いきなり「好きだから」と答えるんです。役としては、ジェホンが偶然に自分の初恋を見つけたということだと理解して、1人で練習している時は大丈夫だったんですけど、実際に現場で撮影している時に、何か変に見えないかな、大丈夫かなと不安になりましたが、監督を100パーセント信じて演じました。それから、月菜をお姫様抱っこするシーンは、実際は結構重くて大変だったけど「大丈夫。僕は強い」と自分に言い聞かせながらやりました(笑)。

-互いの印象や演技についてどう思いましたか。

チャンソン 最初に会った時の雰囲気がとても落ち着いた感じがして、せりふを聞いても違和感がなかったので、もともとこういう人なのかなと思いました。でも(三山)凌輝と3人でお弁当を食べながら1時間ぐらい話したときに、実はそうでもなかったと気付きました(笑)。だからすごく努力したんだなと思いました。

久保 とにかくチャンソンさんは日本語がうま過ぎます。現場でも、私だけじゃなくてほかの皆さんともたくさんコミュニケーションを取ってくださいました。チャンソンさんが、台本にないことや、その場で思ったことを出してくださるので、もう本当にジェホンさんだと思う瞬間がたくさんありました。2人の関係性についても、チャンソンさんが作ってくださる雰囲気があったので、私はすごく助けられました。

-三山凌輝さんとはダンスボーカルグループのメンバーという共通点もありますが、彼の印象は?

久保 実際は底抜けに明るい方で、映画の印象とは全然違うんですけど、人間らしい部分をちゃんと持っている方だからこそ信頼ができました。撮影当時はBE:FIRSTの活動がすごく忙しかったみたいですけど、それを隠さずに全部言ってくださいました。自分も同じようにライブをやっている人間だからこそ、その大変さみたいなものも少しは分かるので、そういう正直なところも魅力だと感じました。

チャンソン 難しい病気の役だったのにそれをちゃんと演じていました。撮影をしながら凌輝はすごい人だなと思いましたし、とても仲良くなりました。

-完成作を見た印象は?

久保 台本を読んでいた時に、月菜が人としてすごく黒く見えるんじゃないかなって不安でした。でも出来上がった映画を見て安心しました。みんなが本音で向き合っているからこそぶつかり合うというのがすごく描かれていて、自分がいないシーンを見て、現場で抱いた感情は間違っていなかったんだと納得できました。見てくださる方もいろんな立場に立って見てくださるのかなと思いました。

チャンソン 完成作を見るのは恥ずかしかったです。もともと自分の演技を見ることにアレルギーみたいなものがあります。個人的に一番よかったのは、最後に良城が月菜を抱き締めるシーンです。人と人との間にある縁が切れずにずっとつながっていたという。いろんな問題を抱えながらも、悪い気持ちを乗り越える。そこまでにどのぐらいの時間が必要なのか…。人間の中にあるそういうものが感じられて最高だなと思いました。

-最後に、読者や観客に向けて一言お願いします。

久保 皆さんが、ご自身の経験を踏まえた上で見ていただくと、人によって見え方の角度が変わる作品だと思います。今は言わないことが美しいとされる中で、これだけ自分たちの心と会話をして、それを表に出す登場人物たちは、ものすごい熱量で生きている人たちだと思うので、その会話を純粋に楽しんでいただけたらと思います。

チャンソン 見どころが多くて、いろんなことを考えて感じられる映画だと思います。こんな映画はどこにもないと思います。

(取材・文・写真/田中雄二)


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