世界中で二酸化炭素削減が叫ばれる中、化石燃料や再生可能エネルギーに次ぐ「第3のエネルギー」で二酸化炭素削減を目指す研究が進んでいます。日本で唯一病院にその仕組みを取り入れているところが北海道内にあるということで取材しました。
帯広厚生病院では世界でも珍しいと言われる二酸化炭素削減のための先進的な設備が導入されていると言います。
帯広厚生病院は650床ほどの病床をもつ道東で最大規模の医療機関です。災害時に3日分ほどの発電用燃料を確保しておく必要がある十勝地方で唯一の災害拠点病院でもあります。
病院は同じ広さ当たりでのエネルギー消費量がオフィスなどの事務所用ビルと比べて多いためより省エネが求められますが、事務所用ビルと比べて進んでいない実態があります。事務所用ビルでの省エネ技術は商業ビルや学校などに応用できる一方、病院はエネルギーの利用形態が特殊であることが背景にあると言います。具体的には事務所用ビルが夏は冷房・冬は暖房が中心である一方、病院は1年を通してお湯をたくさん使ったり熱が発生する機器を冷やしたりと冷暖房どちらも年間を通して需要があるという違いがあります。そこで2018年の建て替え時に病院に適した省エネ技術を導入しました。それがリサイクルエネルギーです。
「これまでの方法だとお湯を沸かすのにボイラーでガスを使ったり石油を使ったりするんですけれど、それの代わりに例えばスマホから出てくる熱を使ったり、照明から出てくる熱を使うので、それでCO2の削減することができます」そう話すのは東海大学建築都市学部の山川智教授です。
本来空気中に放出される熱の再利用を「リサイクルエネルギー」と名づけ、その活用を提唱しています。
例えばスマートフォンやパソコンなどを使用すると熱が発生します。何もしなければ空気中に捨てられるこの熱を利用して給湯や暖房に活用する仕組みです。
病院のすぐ隣にはエネルギーセンターという施設が建っています。ここに捨てられる熱をエネルギーに変える仕組みがあると言います。
「こちらが熱回収ヒートポンプです。病院の排熱がすべてこちらに集約されてきております。その排熱を使って加熱し、温水にして病院に供給しています」(エネルギーセンターを管理する日本ファシリティ・ソリューションの村山和広所長)
もともと空気中に放出されていた大量の排熱がこの熱回収ヒートポンプに送られてきます。これを利用して、集められた熱が暖房や冷房・給湯へとつながります。身近なものではエアコンにもこの仕組みが使われています。
(※熱回収ヒートポンプの仕組みについては「ヒートポンプWEB講座」のサイトでくわしく説明されています)
病院では一年中大量に熱が発生します。大量の電力を消費するMRIなどの検査機器や手術室、入院患者の給食などや病室での照明やシャワー室、さらには電子カルテのデータなどが保存されているサーバー室などです。
これらの排熱を病院中から集めて、地下のパイプを通ってエネルギーセンターへ送られます。それが、先ほどの熱回収ヒートポンプへと繋がる仕組みです。ここで回収された熱が、各部屋の暖房や冷房・給湯に再び使われます。
このリサイクルエネルギーと従来のガスや電気といったエネルギーとを組み合わせることにより、帯広厚生病院ではCO2年間約800トンの削減に成功しました。
これは従来の給湯・空調設備と比べて2割以上の削減になります。
山川教授はこの帯広厚生病院のリサイクルエネルギーをテーマにした実証研究により、ことし1月に空調技術分野で最も権威のあるアメリカの学会で世界最優秀賞を受賞しました。
しかし、実はこの熱回収の仕組み自体は昔からあると言います。コストも初期投資はかかるものの、ランニングコストが抑えられるため数年で回収可能な範囲とのこと。実際に一部のオフィスビルやデータセンターでは使われているそうですが、なぜまだ広く普及していないのでしょうか。山川教授に問い掛けてみると…
「いま冷房とか暖房しようとすると部屋ごとにエアコン付けたり給湯機は別に設けてというのが普通のやり方。全部まとめてセントラル(一括での管理)でやる考え方が普及していないのでそこがハードル」との答えが。
山川教授はこの技術が普及して、ゆくゆくは家庭でも使えるようになればますますCO2削減に寄与するだろうとも述べています。今後は「リサイクルエネルギー」の普及に向けて勉強会も立ち上げたいということです。