今週のけいナビは、5月に放送した「気になる」事業特集の第二弾。今回は札幌市営地下鉄東西線を手稲区まで延伸しようと求めている地域の動きと、津軽海峡に貨物列車専用のトンネルを新たに設けることを目指す第2青函トンネル構想に着目した。
地下鉄の手稲区への延伸は、JR手稲駅周辺の町内会や医療法人、大学などの関係者でつくる地下鉄東西線手稲区延伸期成会連合会(平川登美雄会長)が中心となって求めている。手稲駅の利用者数は1日当たり約2万5000人で、JRの駅の中では札幌駅、新千歳空港駅、新札幌駅に次いで道内で4番目に多い。人口も1989年の西区からの分区当初に比べ3割増えた。
こうした状況から期成会はことし6月、札幌市の秋元克広市長に延伸を求める要望書と約2万8000人分の署名を提出。荒天の影響でJRがたびたび運休してしまうこと、冬場の大雪時にはJR、バスともに運休し、代替となる公共交通機関がないことから住民の暮らしに大きな影響が出ている実態を説明した。
要望の中身は、現在の東西線の終点の宮の沢駅から手稲方向へ約8キロ延伸する内容。手稲駅と北海道科学大のそばにそれぞれ駅を設けるべきだとしている。
連合会の事務局長を務めるのが、北海道科学大の加藤智彦専務理事(左)。加藤専務理事は、大学と付属高校の生徒、教員ら約2000人が毎日、公共交通機関を利用して通学・通勤していると説明。延伸の効果は大きいとし、延伸が叶えば現在要望している2つの駅のほかに、宮の沢駅と手稲駅の間にも新駅を設けることが妥当だとする。
連合会は、国内で最も新しい仙台市の地下鉄整備事例をもとに、収支について試算した。それによれば建設費は約2080億円で、年間66億円の運賃収入が見込まれることから、30年で費用を償還することが可能だとする。開業後30年での黒字化が、国が地下鉄整備を認可する目安となっている。
ただ、実現へのハードルは高い。市総合交通計画部の小仲秀知交通計画課長は、札幌の人口が減少局面を迎えていることを踏まえ、「大量の輸送機関を導入しなければならないような需要は今後生じないことが確認されている。延伸の事業採算性を検証する状況には至っていない」とした。
連合会の平川会長は、「冬場は市内中心部までバスだと2時間もかかってしまう。このような状況では地域の活性化を図ることは難しい」とし、「延伸が実現するまで要望活動を続ける」と意欲を見せる。
もうひとつの第2青函トンネル構想とは、津軽海峡に現在の青函トンネルとは別の新たなトンネルを設けることを目指すもの。大手ゼネコンや総合商社などからなる日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)がまとめた。
トンネルが2つあれば、現トンネルを新幹線専用、新たなトンネルを貨物列車と自動運転車の専用トンネルとすることが可能になり、新幹線と貨物列車の供用走行により生じる問題を解決することにもつながるとする。
プロジェクトの中心人物は、北大公共政策大学院の石井吉春客員教授だ。石井教授は、第2青函トンネルの整備費は約7000億円と試算。「四国と本州を結ぶ3本の橋の整備費は合わせて2兆4000億円。第2青函トンネルは費用対効果もかなり期待できるプロジェクト」と説明する。
第2青函トンネル構想実現へと動いているのが、道南の福島町。過去の青函トンネル整備の際に、町内の多くの人が工事に携わった。構想実現を目指す会も設立され、町内の800を超える法人、個人が会員となっている。
鳴海清春町長は、札幌延伸後は東京へ行く手段が飛行機から新幹線へと変わるとし、「供用走行の問題があるので今は最高速度で新幹線を運転できないが、利用者が増えてくればその必要性は高まる。そのためにも第2青函トンネルは必要だ」と訴える。
福島町の津軽海峡を挟んで対岸にある青森県今別町も、第2青函トンネル構想の実現へと取り組みを加速する。
町内には本州最北の新幹線の駅、奥津軽いまべつ駅があり、福島町を中心に道内自治体との関係も深い。第2青函トンネルに関する講演会やイベントもたびたび開かれ、今年度は北海道と青森県選出の国会議員に対し、道内の自治体と連携して要望活動を行う方針だ。
今別町総務企画課の坂本柊太主幹は、「国策レベルのプロジェクトなので慎重な判断が必要だと思う反面、地元の声が実現に向けては大きな要因になるので機運醸成に努めることが大事だと考えている」と話す。
番組コメンテーターの平本健太北大経済学研究院教授は、地下鉄の手稲延伸について、「地下鉄だけに捉われず人口減少時代だからこその公共交通の在り方を考えるべき」と提言。第2青函トンネルに関しては、「課題はあるものの経済効果は大きい。現在の青函トンネルには様々な光ケーブルも敷設されていて、既に空きがほとんどない状況だと聞くので、そうした観点からの整備の必要性も考えるべき」と指摘した。
(2024年10月12日放送、テレビ北海道「けいナビ~応援!どさんこ経済~」より)