ナイトタイムエコノミーという言葉をご存知でしょうか。夜の観光消費を促す試みで、全国的にも注目が集まっています。札幌での取り組みを取材しました。
光に照らされ、暗闇に浮かび上がる紅葉。水面に映った光景は幻想的で、見る人を魅了します。イベントが行われたのは札幌の繁華街・ススキノから徒歩10分ほどにある中島公園です。先月末から今月上旬まで、およそ100メートルにわたるイチョウ並木や日本庭園など4カ所がライトアップされました。SNS上で「京都の紅葉にも引けを取らない」などと反響を呼び、すれ違うのも大変なほどの盛況。初めて試みに、市民はもちろん大勢の観光客が訪れました。中には海外から来た人も。
アメリカ人観光客「とても美しくて素晴らしい。今夜は本当に楽しめています。もっと多くのアメリカ人を連れて来てこの美しい景色を見せたい」インドネシア人観光客「札幌の夜は本当に素敵。活気にあふれているし、おいしい食べ物もたくさんある」と口々に魅力を語ります。
しかも、とても親切な人ばかり来園者を楽しませていたのは紅葉だけではありません。中島公園内にあり、重要文化財に指定されている豊平館では「さっぽろ名妓連」の芸者たちが 日本舞踊を披露していました。三味線の音色や唄に合わせた、あでやかな舞が観客を楽しませました。一連のイベントを企画したのは札幌商工会議所です。
札幌商工会議所国際観光部の西川公大さんは狙いについて「冬はさっぽろ雪まつり、夏はYOSAKOIソーラン祭りなど、大型のイベントが非常に多いけれど、秋はそこまで大きなイベントがないという印象で、秋に新しい魅力をつくりたいという思いで紅葉をテーマにしたイベントを企画した」と話します。周辺の飲食店などの利用につなげる狙いもあります。
去年、商業施設・モユクサッポロ内にオープンした都市型水族館のAOAO SAPPORO(アオアオ・サッポロ)。夜遅くまで営業しているのが最大の特徴です。地元客や観光客のニーズに応えられると考え、夜10時までの営業に踏み切りました。夕方からは「月あかりの水辺」をイメージした演出で、徐々に照明が落とされ、ペンギンやクラゲを間近に見ながら幻想的な風景を楽しむことができます。1周年を迎えた今年7月からは午後5時以降限定で、夜の海をイメージした飲み物や札幌発祥のシメパフェの提供を始めました。イワトビペンギンパフェは、イワトビペンギン特有の飾り羽を意識して作ったパフェです。夜の水族館と札幌名物を同時に楽しめるとあって、観光客から人気を集めています。繁華街ススキノが近くにあることもこの水族館の魅力の一つです。
昨年度、札幌を訪れた観光客はおよそ1450万人と前の年度と比べて11%増加し、コロナ禍前のにぎわいを取り戻しつつあります。しかし、札幌市が昨年度、観光客を対象に行った調査では、滞在中の目的や楽しみについて「夜間観光」と答えた割合は、国内客、訪日客とも10%未満にとどまっていて、夜の魅力あるコンテンツの不足が指摘されています。
札幌市は、夜間観光は経済活性化につながると期待しています。札幌市観光地域づくり担当部の大内賢一郎課長は「夜間観光を磨き上げることによって、札幌の魅力がさらに向上していく。市としても支援を進めていきたい」と前向きな姿勢を示します。
観光客に夜の魅力あるコンテンツを提供することで経済効果を高めるナイトタイムエコノミー。その効果について、地域経済に詳しい札幌大学の武者加苗教授専門家は「夜間観光は昼間の観光よりも単価が高いことが一番のメリット。単価が高いということは、地域に落ちるお金の量も大きくなるから、地元にとってもメリットが大きい」と分析します。一方で、治安に対する懸念が課題だとして「音がうるさい、匂いが出る、酔っ払いが集まり騒がしいなど海外に比べて、日本では特に夜遅くまで営業するということに対して嫌悪感がある」と指摘しつつも「24時を過ぎても遊べるような仕組みづくりは必要かもしれないと話します。
ナイトタイムエコノミーの取り組みは観光を盛り上げる要素であることは確かで、これからの展開に注目です。