米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)は11月28日から12月2日(米国時間)までの5日間、毎年恒例の同社最大のイベント「AWS re:Invent 2022」を米ラスベガスで開催した。無数の新たな機能が発表されたが、その中で特に強調されていたのは、データ活用のためのツールと、特定の目的のための専用サービスだ。パブリッククラウド市場ではもはや、インフラではなく、より上位のレイヤーが主戦場になろうとしている。
(取材・文/日高 彰)
「世界中に広がっているインフレ、半導体不足などサプライチェーンの混乱、エネルギー価格、そして(ウクライナでの)戦争、さらにパンデミックが多くの人々に影響を与えている。このような不確実な時代には“削減・減速”したくなるもの。しかし多くのユーザーが、経済が不確実だからこそクラウドに投資すべきであると考えている」
AWSのアダム・セリプスキーCEOは、3年ぶりにコロナ禍以前と同じ規模で開催したre:Inventの冒頭でこのように述べ、先行き不透明な時代だからこそクラウドの果たす役割は重要度を増しているとアピールした。AWSの大手顧客である民泊サービスの米Airbnbは、新型コロナで旅行業界が大きな打撃を受けた際、クラウドへの支出を直ちに27%削減し、宿泊需要の回復に合わせてITインフラを再起動することで、サービスの改善を継続しながら厳しい時期を乗り越えることができた。「正しいツールを使えば、どのような環境でも生き残り、成功することができる」(セリプスキーCEO)。
多くの企業にとって、爆発的に増加するデータをいかに活用し、ビジネスにおいて有益な情報を得るかが課題となっている。セリプスキーCEOは、データ活用を成功させるためには、「正しいツール」「(データの)統合」「ガバナンス」「洞察」が必要とし、同社はそれぞれのテーマに対して適切なクラウドサービスを提供すると強調。例えば、正しいツールとしては、サーバーの運用やキャパシティの設計に頭を悩ませることなくデータを管理できるよう、サーバーレスのデータ分析サービスを充実させている。今回のre:Inventでは、非構造化データの検索や可視化が可能な「OpenSearch Service」もサーバーレスに対応すると発表された。
データの統合に関しては、データベースサービスの「Aurora」と、データウェアハウスサービスの「Redshift」の「ゼロETLインテグレーション」を発表した。従来はデータを分析する場合、データのETL(抽出・変換・ロード)処理を行うために大量のカスタムコードを書き、必要なパフォーマンスが得られるようインフラを設計する必要があったため、データの準備ができるまでに数日を要することもあった。今回のインテグレーションにより、複数のAuroraデータベースからETLなしでRedshift上にデータを統合し、AWSの機能や、サードパーティのアプリケーションや他のクラウドで分析クエリーを実行できるようになったという。
ガバナンスでは、組織全体のデータの共有や管理を支援する「DataZone」を発表。事業部門がデータを扱う際に適切なガバナンスがなくシャドーITなどが用いられた場合、セキュリティやコンプライアンス上の危険が高まるだけでなく、データが不完全になりビジネス上の目的も果たせなくなることがある。しかし、逆に厳格に管理しすぎると、データ活用のアイデアや、データを起点にしたビジネス変革などにとって障害となる。DataZoneは複数の部門、サービス、データベース、サードパーティーアプリケーションに分散するデータに対して一元的なポリシーを適用できるサービスで、部門間でのデータを介したコラボレーションも促進するとしている。
洞察については、自然言語での分析が可能なBIサービス「QuickSight Q」の強化を発表。機械学習技術によるビジネス予測が可能になったほか、「なぜ2022年1月の売上高が伸びたのか?」といった、ユーザーの「なぜ」に対して理由を答える機能を追加した。
今回のre:InventでAWSがデータ活用に加えて多くのソリューションを発表したのが、特定の目的のための専用サービスだった。中でも大型のサービスが、機械学習によってサプライチェーンの可視化・最適化を支援する「AWS Supply Chain」だ。
購買管理、注文管理、倉庫管理などのデータをこのサービスに接続することで、それぞれのシステム間で互換性のないデータを理解・抽出し、統一されたデータモデルに自動的に変換する。得られたデータからリアルタイムでビジュアルなダッシュボードが生成され、サプライチェーン上のボトルネックや潜在的な在庫切れリスクを自動的に発見し、問題の深刻度をランク付けすることが可能という。ECサービスである「Amazon.com」のノウハウが投入されているため、特に小売業のユーザーにとって強力なサービスとなっている。
AWS独自のハードウェアを用いた「Nitro V5」など、インフラのレイヤーでも多数の新発表が行われたが、いずれの発表もデータの爆発的な増加によって発生している問題を解決し、データをビジネスに活用するためのツールを提供するという点でテーマは共通していた。データ活用のためのサービスは米Google(グーグル)などの競合他社も前面に出して訴求に力を入れており、パブリッククラウド市場における競争の主軸になったと言えるだろう。
(取材・文/日高 彰)
「世界中に広がっているインフレ、半導体不足などサプライチェーンの混乱、エネルギー価格、そして(ウクライナでの)戦争、さらにパンデミックが多くの人々に影響を与えている。このような不確実な時代には“削減・減速”したくなるもの。しかし多くのユーザーが、経済が不確実だからこそクラウドに投資すべきであると考えている」
AWSのアダム・セリプスキーCEOは、3年ぶりにコロナ禍以前と同じ規模で開催したre:Inventの冒頭でこのように述べ、先行き不透明な時代だからこそクラウドの果たす役割は重要度を増しているとアピールした。AWSの大手顧客である民泊サービスの米Airbnbは、新型コロナで旅行業界が大きな打撃を受けた際、クラウドへの支出を直ちに27%削減し、宿泊需要の回復に合わせてITインフラを再起動することで、サービスの改善を継続しながら厳しい時期を乗り越えることができた。「正しいツールを使えば、どのような環境でも生き残り、成功することができる」(セリプスキーCEO)。
多くの企業にとって、爆発的に増加するデータをいかに活用し、ビジネスにおいて有益な情報を得るかが課題となっている。セリプスキーCEOは、データ活用を成功させるためには、「正しいツール」「(データの)統合」「ガバナンス」「洞察」が必要とし、同社はそれぞれのテーマに対して適切なクラウドサービスを提供すると強調。例えば、正しいツールとしては、サーバーの運用やキャパシティの設計に頭を悩ませることなくデータを管理できるよう、サーバーレスのデータ分析サービスを充実させている。今回のre:Inventでは、非構造化データの検索や可視化が可能な「OpenSearch Service」もサーバーレスに対応すると発表された。
データの統合に関しては、データベースサービスの「Aurora」と、データウェアハウスサービスの「Redshift」の「ゼロETLインテグレーション」を発表した。従来はデータを分析する場合、データのETL(抽出・変換・ロード)処理を行うために大量のカスタムコードを書き、必要なパフォーマンスが得られるようインフラを設計する必要があったため、データの準備ができるまでに数日を要することもあった。今回のインテグレーションにより、複数のAuroraデータベースからETLなしでRedshift上にデータを統合し、AWSの機能や、サードパーティのアプリケーションや他のクラウドで分析クエリーを実行できるようになったという。
ガバナンスでは、組織全体のデータの共有や管理を支援する「DataZone」を発表。事業部門がデータを扱う際に適切なガバナンスがなくシャドーITなどが用いられた場合、セキュリティやコンプライアンス上の危険が高まるだけでなく、データが不完全になりビジネス上の目的も果たせなくなることがある。しかし、逆に厳格に管理しすぎると、データ活用のアイデアや、データを起点にしたビジネス変革などにとって障害となる。DataZoneは複数の部門、サービス、データベース、サードパーティーアプリケーションに分散するデータに対して一元的なポリシーを適用できるサービスで、部門間でのデータを介したコラボレーションも促進するとしている。
洞察については、自然言語での分析が可能なBIサービス「QuickSight Q」の強化を発表。機械学習技術によるビジネス予測が可能になったほか、「なぜ2022年1月の売上高が伸びたのか?」といった、ユーザーの「なぜ」に対して理由を答える機能を追加した。
今回のre:InventでAWSがデータ活用に加えて多くのソリューションを発表したのが、特定の目的のための専用サービスだった。中でも大型のサービスが、機械学習によってサプライチェーンの可視化・最適化を支援する「AWS Supply Chain」だ。
購買管理、注文管理、倉庫管理などのデータをこのサービスに接続することで、それぞれのシステム間で互換性のないデータを理解・抽出し、統一されたデータモデルに自動的に変換する。得られたデータからリアルタイムでビジュアルなダッシュボードが生成され、サプライチェーン上のボトルネックや潜在的な在庫切れリスクを自動的に発見し、問題の深刻度をランク付けすることが可能という。ECサービスである「Amazon.com」のノウハウが投入されているため、特に小売業のユーザーにとって強力なサービスとなっている。
AWS独自のハードウェアを用いた「Nitro V5」など、インフラのレイヤーでも多数の新発表が行われたが、いずれの発表もデータの爆発的な増加によって発生している問題を解決し、データをビジネスに活用するためのツールを提供するという点でテーマは共通していた。データ活用のためのサービスは米Google(グーグル)などの競合他社も前面に出して訴求に力を入れており、パブリッククラウド市場における競争の主軸になったと言えるだろう。