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DXに取り組む自治体の現在 週刊BCN主催のセミナーでITベンダーなどが解説

週刊BCN+ 2023年8月3日 9時0分

 週刊BCN主催のセミナー「自治体DXの支援に役立つITソリューションとは?~課題や最新事例、そして広がる商機~」が7月14日に行われた。DXに取り組む北海道旭川市が現状や課題、今後の展望などを紹介したほか、ITベンダーや識者が自治体向けのソリューションやパートナー戦略などについて説明した。
(取材・文/大向琴音)

●ベンダーへの期待も変化



 基調講演では、北海道旭川市の森本登志男CDO(最高デジタル責任者)が登壇し、DX推進に取り組む自治体の今と課題について解説した。

 新型コロナ禍をきっかけに、ビジネスや消費のあり方自体を分散化する動きが広まっており、地方ではビジネスチャンスが生まれ、IT投資には積極化の兆しがみられる。

 一方で自治体のDXへの動きは鈍い。さらに森本CDOは「DX推進に踏み切ったとしても、ICTインフラの導入だけでは進まない。トップによる経営戦略や運用のための制度・ルールのほか、職場環境や組織風土も重要だ」とも指摘。DXではハード面の投資に関心が集まりがちだが、風土の醸成や経営戦略の構築ができていれば「インフラにそれほど投資をしなくてもDXの推進は可能」だという。

 旭川市は11月に新庁舎への移転が決まっており、2年後までに基幹情報システムの標準化対応も迫っている。変革に向けた大きなチャンスと捉え、窓口業務のDX推進と業務改善に注力する方針。ガバメントクラウドの導入のほか、個別の業務フローの見直しにも取り組んでいる。

 担当者がローコードやノーコードツールを使って自分自身でアプリを作る動きも出てきているとの理由から、自治体のDXにあたってベンダーへの期待も変化した。森本CDOは「担当者側の目線で提案をまとめることや、職員の業務効率化を盛り込んでいるか、業務コンサルを担うように伴走できるか」が重要だと強調した。


●リモートワーク導入で働き方改革を推進



 レコモットの東郷剛CEOは、自治体のデジタルトラストを推進する方法や、LGWANの環境下でテレワークやクラウド利用を推進する自治体専用のサービスを紹介した。

 DXにおいてテレワークは重要な要素の一つだ。しかし地方自治体では、テレワークを導入していても、導入率に比べて実際に利用している割合は低くなっているという。

 新型コロナ禍で職員の自宅からLGWAN接続系へのテレワークを実現する実証実験型でのテレワークシステムがスタートしたが、サポートがなかった。

 また、地方自治体の情報システムでは、マイナンバー利用事務系、LGWAN接続系、インターネット接続系をそれぞれ分離する三層の構えと呼ばれる対策が実施されてきたが、安全性が高い半面、庁内からのアクセスが前提で、働く場所の多様化に関する課題があった。

 レコモットは、自治体向けにリモートアクセスサービス「moconavi RDS」を提供。実証実験のテレワークシステムと同じ方式のシステムで、サポートにも力を入れている。また、クラウドゲートウェイサービス「moconavi」では、LGWANを通ってさまざまなクラウドサービスにアクセスできる仕組みを提供中とした。

 東郷CEOは「地方自治体におけるテレワークやハイブリッドワークを、働き方改革を目的として導入するということが重要。場所を選ばないで働けるようになることで働き方が変わり、優秀な人材の確保につながる」と話した。


●データ変換ツールで自治体情報システム標準化を支援



 データ・アプリケーションのマーケティング本部プロダクトマーケティンググループの黒渕達也・RACCOONプロダクトリーダーは、データ変換ツール「RACCOON」を活用した自治体情報システム標準化について解説した。

 現在、各自治体は自治体情報システムの標準化に取り組んでおり、住民サービスや利便性の向上、運営の効率化、情報システムの互換性などの効果が見込まれている。

 標準化対応の具体的な成果も出てきており、岡山県倉敷市と松山市では、2023年1~2月にガバメントクラウド上で住民記録などの基幹業務システムの本稼働を開始した。

 黒渕プロダクトリーダーは「システムの標準化において、データ移行は重要な要素だ」と述べた。同社が提供するデータ変換ツールのRACCOONを活用することで、システム連携のデータ変換や加工をノーコード化し、開発品質の向上や期間の削減に貢献するとした。

 また、RACCOONは、開発作業効率化を目的に、自治体システム標準化に準拠した変換テンプレートを業務ごとに用意している。変換テンプレートの提供は無償。

 黒渕プロダクトリーダーは「活用事例が増えている。課題をお持ちの方は、選択肢の一つとして検討してほしい」と語った。


●自治体とパートナーシップを築く



 特別講演では、イーグッドの榎本晋作代表取締役が、自治体DXの現場の課題やベンダーが求められる対策について解説した。

 自治体DXは、職員中心の「行政のDX」、住民中心の「暮らしのDX」、住民・顧客中心の「産業のDX」の三つに大きく分かれるという。一口にDXと言っても分野が分かれる上、自治体ごとに戦略も異なるため、ベンダーは自社で提供しているサービスや製品がどのDXに分類されるのか、自治体単位で考えることが重要だと訴えた。

 自治体のDX推進現場での課題は多岐にわたるが、特に「職場の上司の理解」「各種クラウドツールを利用できるPCやインターネットなどの機器整備」「技術の活用方法やデジタル活用事例の共有」などが課題になりやすい。

 このような課題に対して、榎本代表取締役は「ベンダーが役所内の文化を変えるための強力なパートナーシップ構築に取り組むことが解決策となる」とした上で、強力なパートナーシップを築くために「自社のツールだけでなく、DXに関する周辺知識を持ち、複合的にサポートできる体制を目指すのが理想だ」と語った。

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