PC内にデータを保存せずに業務を行えるようにする「データレスクライアント(DLC)」ソリューションの国内主要ベンダー5社が11月20日、東京都内でパネルディスカッションを開催した。DLCの国内市場を調査したMM総研によれば、DLCライセンス販売金額は2027年度に23年度比で3.8倍に伸びる見込みで、DLCの新規導入に加えて、デスクトップ仮想化基盤(VDI)やリモートデスクトップからの置き換えも進むと見られている。パネルディスカッションには当初見込みの2倍近い来場者があったといい、IT業界におけるDLCへの関心の高さをうかがわせた。
(取材・文/安藤章司)
パネルディスカッションに先立って行われた基調講演では、DLC国内市場の調査を担当したMM総研の中村成希・取締役研究部長が登壇。DLCの定義を「ユーザーがPC上に作成、もしくは閲覧・利用するファイル(データ)を、他者が利用しうる形式で一部または全部を保存できない仕組みを提供するソフトウェアサービス」と位置づけ、DLCベンダー8社を調査した結果を公表した。
調査結果によれば、24年度の国内DLCのライセンス販売金額は前年度比31.3%増の33億1800万円の見込みで、27年度には23年度比で3.8倍の96億4100万円に伸びる見通しだという。販売本数ベースでは27年度には同3.3倍の37万8000本に達し、ライセンス1本あたりの月額平均単価は2100円程度になると予想。調査対象の期間となった23年度から27年度の5カ年の年平均成長率は販売金額ベースで34%増、ライセンスの販売本数ベースで27%増の見込み。
DLCが伸びる背景には、▽PCからの情報漏えいを危惧するセキュリティー意識の高まり▽VDIの維持費が高止まりしていること▽広く普及しているリモートデスクトップ(社内設置PCの遠隔操作)は手軽に使える半面、セキュリティー面で不安―などが挙げられる。VDIは一部の仮想化基盤ソフトのライセンス高騰に加え、サーバー側の計算資源に限りがあることからPCに割り当てられるリソースが限定され、「PCが本来もっている能力を生かせない」(中村研究部長)課題がある。
この点、DLCはファイルを複数のストレージに断片化する「秘密分散方式」や、ファイルを常にクラウド上に保存してPC上に残さない「リダイレクト方式」、PCにファイルを書き込ませない「ROM化方式」などの仕組みで、PCからの情報漏えいを防ぐため、維持費が安く抑えられる。また、PCの処理能力をそのまま使うことができるため、今後主流になるとみられる「AI機能を実装した“AI PC”の能力を生かせる」と中村研究部長は指摘した。
パネルディスカッションでは、中村研究部長がモデレーターを務めるかたちで各社が意見を交わした。e-Janネットワークスの坂本史郎代表取締役は、PCを踏み台として組織全体のシステムに侵入されるリスクを考えると「PCに生データを入れないのはセキュリティーの観点からもはや常識になっている」と話し、DLCのアプローチの普及を図ることが必要とした。
NECの伊藤直宏・パートナーセールス統括部パートナー共創グループプロフェッショナルは、VDIやDaaSなども提供する同社から見たDLCの特徴を、「運用管理の負担が軽いのが魅力。専任の情報システム部員が限られる中堅・中小企業ユーザーに適している」と説明。
横河レンタ・リースの五十嵐猛雄・事業統括本部ITソリューション事業本部ソフトウェア&サービス部FWP課長によると「ここ数年でDLCの知名度が徐々に高まり、今年は昨年比で2割ほど問い合わせが増えた」という。同社はPCレンタル事業を手がけているが、DLC導入に伴うPCレンタルの案件もあるとしている。
サイエンスパークの和田康幸・取締役は「当社はデバイスドライバー開発を手掛けていることから、PCのハードウェア制御が求められるようなタイプのDLC開発に協力できる」と述べ、DLCベンダーと連携するビジネスが拡大していることを紹介。
アップデータの小川敦社長は、「コロナ禍を経てリモートワークが定着する中、使い勝手の良くないセキュリティー機構が邪魔をして生産性が上がらない課題をDLCは解決できる」と話し、当初は中堅・中小企業向けの案件が多かったが、近年はPC台数で数百台から数千台の規模に拡大していると説明した。
ディスカッションでは、DLCベンダーの海外進出の可能性についても言及があった。各社のコメントは以下の通り。「DLCは業務ソフトのような商慣習の壁がない商材なので、海外展開は十分に可能。多言語対応を進めアジアや欧州への進出を視野に入れている」(アップデータ・小川社長)、「VDIは海外勢に圧倒されたが、DLCは国内勢が強い領域。チャンスはある」(サイエンスパーク・和田取締役)、「DLC事業の海外展開を検討する時期に来ている。日系企業の海外拠点へのサポートを行ったり、海外のビジネスパートナーに販売してもらうなどの可能性を模索していく」(横河レンタ・リース・五十嵐課長)、「国内でユースケースを積み上げれば、海外へも進出しやすくなる。DLCは用途が明確であり海外で売りやすい商材だと感じている」(NEC・伊藤プロフェッショナル)、「インドに現地法人を開設している。ゼロトラストネットワークとDLCを組み合わせて、より総合的なPCのセキュリティー対策を安価に提供できる点を強みとして、海外ビジネスを伸ばしていく」(e-Janネットワークス・坂本代表取締役)。
(取材・文/安藤章司)
●27年度は23年度比で3.8倍の市場規模に
パネルディスカッションに先立って行われた基調講演では、DLC国内市場の調査を担当したMM総研の中村成希・取締役研究部長が登壇。DLCの定義を「ユーザーがPC上に作成、もしくは閲覧・利用するファイル(データ)を、他者が利用しうる形式で一部または全部を保存できない仕組みを提供するソフトウェアサービス」と位置づけ、DLCベンダー8社を調査した結果を公表した。
調査結果によれば、24年度の国内DLCのライセンス販売金額は前年度比31.3%増の33億1800万円の見込みで、27年度には23年度比で3.8倍の96億4100万円に伸びる見通しだという。販売本数ベースでは27年度には同3.3倍の37万8000本に達し、ライセンス1本あたりの月額平均単価は2100円程度になると予想。調査対象の期間となった23年度から27年度の5カ年の年平均成長率は販売金額ベースで34%増、ライセンスの販売本数ベースで27%増の見込み。
DLCが伸びる背景には、▽PCからの情報漏えいを危惧するセキュリティー意識の高まり▽VDIの維持費が高止まりしていること▽広く普及しているリモートデスクトップ(社内設置PCの遠隔操作)は手軽に使える半面、セキュリティー面で不安―などが挙げられる。VDIは一部の仮想化基盤ソフトのライセンス高騰に加え、サーバー側の計算資源に限りがあることからPCに割り当てられるリソースが限定され、「PCが本来もっている能力を生かせない」(中村研究部長)課題がある。
この点、DLCはファイルを複数のストレージに断片化する「秘密分散方式」や、ファイルを常にクラウド上に保存してPC上に残さない「リダイレクト方式」、PCにファイルを書き込ませない「ROM化方式」などの仕組みで、PCからの情報漏えいを防ぐため、維持費が安く抑えられる。また、PCの処理能力をそのまま使うことができるため、今後主流になるとみられる「AI機能を実装した“AI PC”の能力を生かせる」と中村研究部長は指摘した。
●DLC市場の伸びに期待、展望を語る
パネルディスカッションでは、中村研究部長がモデレーターを務めるかたちで各社が意見を交わした。e-Janネットワークスの坂本史郎代表取締役は、PCを踏み台として組織全体のシステムに侵入されるリスクを考えると「PCに生データを入れないのはセキュリティーの観点からもはや常識になっている」と話し、DLCのアプローチの普及を図ることが必要とした。
NECの伊藤直宏・パートナーセールス統括部パートナー共創グループプロフェッショナルは、VDIやDaaSなども提供する同社から見たDLCの特徴を、「運用管理の負担が軽いのが魅力。専任の情報システム部員が限られる中堅・中小企業ユーザーに適している」と説明。
横河レンタ・リースの五十嵐猛雄・事業統括本部ITソリューション事業本部ソフトウェア&サービス部FWP課長によると「ここ数年でDLCの知名度が徐々に高まり、今年は昨年比で2割ほど問い合わせが増えた」という。同社はPCレンタル事業を手がけているが、DLC導入に伴うPCレンタルの案件もあるとしている。
サイエンスパークの和田康幸・取締役は「当社はデバイスドライバー開発を手掛けていることから、PCのハードウェア制御が求められるようなタイプのDLC開発に協力できる」と述べ、DLCベンダーと連携するビジネスが拡大していることを紹介。
アップデータの小川敦社長は、「コロナ禍を経てリモートワークが定着する中、使い勝手の良くないセキュリティー機構が邪魔をして生産性が上がらない課題をDLCは解決できる」と話し、当初は中堅・中小企業向けの案件が多かったが、近年はPC台数で数百台から数千台の規模に拡大していると説明した。
●海外進出のチャンスが大きい商材
ディスカッションでは、DLCベンダーの海外進出の可能性についても言及があった。各社のコメントは以下の通り。「DLCは業務ソフトのような商慣習の壁がない商材なので、海外展開は十分に可能。多言語対応を進めアジアや欧州への進出を視野に入れている」(アップデータ・小川社長)、「VDIは海外勢に圧倒されたが、DLCは国内勢が強い領域。チャンスはある」(サイエンスパーク・和田取締役)、「DLC事業の海外展開を検討する時期に来ている。日系企業の海外拠点へのサポートを行ったり、海外のビジネスパートナーに販売してもらうなどの可能性を模索していく」(横河レンタ・リース・五十嵐課長)、「国内でユースケースを積み上げれば、海外へも進出しやすくなる。DLCは用途が明確であり海外で売りやすい商材だと感じている」(NEC・伊藤プロフェッショナル)、「インドに現地法人を開設している。ゼロトラストネットワークとDLCを組み合わせて、より総合的なPCのセキュリティー対策を安価に提供できる点を強みとして、海外ビジネスを伸ばしていく」(e-Janネットワークス・坂本代表取締役)。