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映画「ソウルの春」は実体験から始まった―キム・ソンス監督、歴史的事件の〝目撃者〟として思い明かす

よろず~ニュース 2024年8月18日 8時10分

 2023年、韓国で荘厳な歴史大作「ソウルの春」が誕生した。同作が公開されると、年間観客動員数第1位を記録。「パラサイト 半地下の家族」を上回る1300万人以上の観客動員で、歴代級の大ヒットとなった。そんな「ソウルの春」が、8月23日より新宿バルト9ほか全国公開が決定。日本公開を記念して、キム・ソンス監督がインタビューに応じた。キム監督は終始穏やかながら、その事件の〝目撃者〟として強い思いを明かしてくれた。

 キム・ソンス監督が「ソウルの春」を撮ろうと思ったきっかけは、実体験からだった。「粛軍クーデター」「12.12軍事反乱」などとも呼ばれるその〝事件〟が起きた当時、キム監督は受験を控えた学生だった。「その日、自宅には多くの来客があり、親から『家にいなくていい』と言われたので、街をふらふらと歩いていました。そしたら突然、装甲車が目に入ったんです。驚くとともに気になって、追いかけて行きました。さらにその途中、銃声を聞いたんですね。その後は友人宅へ行き、真っ暗闇の中で屋上から軍車が走るのを、身をひそめながら見物していました。とても寒くて怖かったことを覚えています」。屋上では銃声が聞こえるたび、自身に向かってくるのではという恐怖があったという。「なぜこんな街中で銃声が聞こえるのか、とても不思議でした。しかし翌日の新聞にはとても短く、この出来事が何てことないように書かれていたんです。私は流血している軍人を、この目で確かに見たのに」。

 キム監督が、その事件の事実を知ったのは、実に十数年後のことだった。「その時の記憶が一気に甦り、驚きと怒りが沸き起こりました。だから今回の作品を通して、自身の感じた当惑、怒り、それらの感情を伝えたかったんです」。

◆出演者、スタッフ全員が〝使命感〟を持って撮影に取り組んだ

 そんな衝撃作品には、ストーリーの力強さのみならず、ファン・ジョンミン、チョン・ウソンらそうそうたる俳優の名が並んだ。「本当にすばらしい俳優が集まってくれました。ほとんどが40代以上の俳優だったので、やはり事件の重大性を理解してくださっている方たちが多かったですね。撮影現場では、事件再現に対する情熱度の高さが感じられました」。

 作品の重厚さゆえ、撮影現場にも緊張感があふれていたかと言えば、「そんなこともなかった」と笑顔を見せる。「物語はとても重いものですが、現場は活気に満ちた明るい雰囲気でした。制作スタッフも、僕と10年以上一緒にチームを組んできたベテランだったし、俳優も何度か仕事をしたことのある方が多かったんです」。一方で、〝軍事反乱事件〟を再現するという一種の〝使命感〟があった。「優秀なプロ集団なので、現場で編集したものをみんなでモニタリングしながら互いに意見を出し合い、常に満足のいくものを作っていきました」。その結果が、大ヒットにつながったのだと自信を見せた。

 しかし、キム監督が撮影現場で「珍しい現象だな」と思ったことが。「反乱軍と鎮圧軍を演じた俳優同士が、同じ側の人同士でしか集まらず、対立するチームとは少し距離を置いているようでした。普段はとても仲が良いファン・ジョンミンさんとチョン・ウソンさんでさえも、メイクをした状態で撮影現場にいる時は、お互いに離れて座り、なかなか会話をしませんでした(笑)」。

◆ファン・ジョンミンの熱演が意外な現象を巻き起こした「面白い出来事」

 ファン・ジョンミンは〝独裁者の座を狙う男〟チョン・ドゥグァン役を演じ、これまでに見たことのない狂気に満ちた演技を披露。その結果、「第60回 百想芸術大賞」映画部門の男性最優秀演技賞に選ばれる。さらに劇中その憎らしさのあまり、ファン・ジョンミンが実名で主演を務め、ひどい目に遭わされる映画「人質 韓国トップスター誘拐事件」(2021年)が再上演されるという〝珍事〟が発生した。このことについて質問すると、意外な事実が発覚する。「『人質 韓国トップスター誘拐事件』のピル・カムソン監督は、実は僕の助監督を務めてくれていた人物なんです。『ソウルの春』では、ファン・ジョンミンさんの憎らしい演技が特徴的で、観客はその感情の怒りのやり場がない。結果的に意外な形で『人質』が再公開されるという、面白い思い出となりました。楽しい出来事でしたね、もちろんピル監督に電話して笑い合いました」。

 そんな韓国の歴史的事件を題材にした映画が、異国の地・日本で上映されることとなった。「日本の観客が、この映画をどのように見るのか、とても気になります。『ソウルの春』を韓国人以外の外国人が見た場合、『遠い国の昔話』に過ぎないと思うんです。しかし、韓国と日本はお互いの歴史を比較的よく知っているので、それほど遠くない1979年に起きた『12.12軍事反乱』をどのような視点で、どのように受け止めるのか、とても楽しみです」。

 50年も経たぬ前の韓国の地で、人々が日常生活を送る街で想像もつかない事件が発生していた。劇中には、K-POPアイドルや韓国俳優が好きな人には避けて通ることのできない、韓国軍に入隊中の若者も登場する。そのシーンだけでも、ぐっと身近な出来事のように感じられた。

◆キム・ソンス(きむ・そんす)1961年、韓国生まれ。世宗(セジョン)大学卒業後、パク・クァンス監督の元で映画を学び、1993年に短編映画「悲鳴の都市」でデビュー。以降「ビート」「太陽はない」「MUSA -武士-」「アシュラ」など話題作を生み出し、「ソウルの春」で「第22回 ディレクターズカットアワード」映画部門 今年の監督賞、「第60回 百想芸術大賞」映画部門 大賞&作品賞を受賞した。

「ソウルの春」
8月23日(金)新宿バルト9ほか 全国公開
監督:キム・ソンス
脚本:ホン・ウォンチャン、イ・ヨンジュン、キム・ソンス
出演:ファン・ジョンミン、チョン・ウソン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク、チョン・ヘイン、イ・ジュニョク
2023年/韓国/韓国語/142分/シネマスコープ/5.1ch/字幕翻訳:福留友子/字幕監修:秋月望
原題:서울의 봄(英題:12.12:THE DAY)/G/配給:クロックワークス
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(よろず~ニュース・椎 美雪)

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