地名の由来の重要性がSNS上で大きな注目を集めている。
きっかけになったのは近代遊廓研究者の又春廓奴さん(@kiraharulab)が「小字が『サルメダ』というところの発掘調査があって、周りはなんとか垣内とか六反田みたいな平凡な名前なのに、ここだけ『サルメダ』ってなんやねんって思って発掘したら弥生中後期の祭祀跡が出てきて驚いた」と紹介した奈良県郡山市美濃庄町の事例。
江戸時代までの村名をあらわす大字(おおあざ)や、さらにその中の細かな区分をあらわす小字(こあざ)はその土地の歴史や風土、地形を反映していることが多い。
大和郡山市の小字・サルメダ(サルメ田)は調査の結果、「サルメ」は『古事記』『日本書紀』に登場する日本神話の神・猿田彦や古代より朝廷の祭祀に携わった一族・猿女君に由来しており、調査の結果、そのすぐ西に位置する賣太神社や稗田地区との関連が浮かび上がったということだ。
SNSユーザー達から数々の驚きの声が寄せられている今回の投稿について又春廓奴さんに話を聞いた。
ーーサルメダの由来をお知りになった際のご感想を。
又春廓奴:サルメダの発掘調査とともに、伝承でしか分からなかった稗田阿礼と、稗田地区、売太神社との関わりが具体的になったのでとてもワクワクしました。
ーー地名にやどる意味や歴史を知ることの意義は?
又春廓奴:そもそも地名はそこがどうだったか、何があったか、何が目印になっていたかを指すものでした。だからそう簡単に変えることができないものだったのです。また現代人は、今の地形が昔と変わっていないと思われる方も多いですが、実は長い時間をかけて、盆地は田畑の開墾で凸凹が平坦になり、丘は削られ、川の流れも変えられ、大きく変化しています。これは昔の地名を見るとよくわかることで、今は住宅地になっていても、小字名が堀の名前だったり、「フケ田(不毛田)」のような水捌けの悪い土地の名前だったりするのです。
しかし戦後、様々な理由で昔の地名は美しい響きの名称に書き換えられていってます。歴史好きな方や研究者からすると、誰かが書き残した史料から歴史を知るのと同じく、その土地の形状や地名から、昔の状態を知ることができます。つまりそれが失われると、情報の一つを失い、歴史の透明度が低くなります。
また、発掘調査の時に小字名を先に調べることで、かつてここに何があったかを推測することができます。そういう意味で、昔から伝わる小字名というのは大変重要なものです。特に今回のように、文字史料が残されていない時代のことだとすると、サルメダという地名がない場合、水の祭祀が誰によってどのように行われたのかがわかりません。
ーー投稿の反響へのご感想を。
又春廓奴:フォロワーさんが「地名は大事だなと思う」という内容の投稿をされていました。私も同感だったのでその実例を挙げただけだったのですが、こんなに反響があるとは思いませんでした。今回のことは、直接的でわかりやすい地名にまつわる古代ロマンの話だったので、多くの方が実感できる例だったのかなと思います。
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自治体の合併や過疎化、地名変更によって急速に失われつつある郷土の歴史。今一度その重要性に思いを致したいものだ。
なお今回の話題を提供してくれた又春廓奴さんは11月23日、奈良県大和郡山市にあった洞泉寺遊廓旧川本楼についての講演会「近代遊郭の中の川本楼」を開催。オンライン配信も予定しているので、ご興味ある方はぜひ又春廓奴さんのXやnoteをチェックしていただきたい。
(よろず~ニュース特約・中将タカノリ)