2018年に「紀州のドン・ファン」と称された和歌山県田辺市の資産家野崎幸助さん=当時(77)=に覚醒剤を摂取させ殺害したとして、殺人罪に問われた元妻須藤早貴被告(28)の裁判員裁判が18日に和歌山地裁で開かれ、検察側は無期懲役を求刑した。元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は当サイトの取材に対して「非常に厳しい求刑」との見解を示し、その理由や無罪となる可能性についても言及した。
小川氏は「厳しい求刑」と捉えた背景に「野崎さんとの結婚に至る経緯が通常の結婚とは違う特殊なケースであること」を挙げた。
「須藤被告は公判で『お金目的の結婚』と語ったが、野崎さんもそれは了解しており、最初から『月100万円のお手当』や『30億の財産をもらってくれ』という話を持ちかけていた。さらに、離婚届を突きつけるという、野崎さんにも強引なところもあり、妻に対して『離婚が成立すれば財産をもらえないぞ』と暗に示すような言動があったということも取材を通して聞いていました。そういったことから情状の面を考慮して、求刑はおそらく懲役25年くらいの有期刑だと私は思っていました」
しかし、求刑は無期懲役。小川氏は「検察が強気の判決を出してきた中には、〝悪質〟と判断された犯罪方法がある」と指摘。検察側の〝見立て〟を次のように解説した。
「〝悪質〟というのは、殺害に覚醒剤を使ったということ。2階に8回も上がって野崎さんの様子見をしていたと思慮され、その間、野崎さんを救命することも可能だったにもかかわらず、通報していないこと。さらに、取調段階では黙秘を貫いていながら、公判になってから、出廷した証人の言動に合わせるように『社長から覚醒剤を買ってきてと頼まれた』とか『死にたいと言っていた』といった証言をしていること。取調中の黙秘について、被告は『検察に言っても信じてもらえないから』と話していたが、公判になってから証人等の出方を見ながら、何か口裏を合わせたような、言い訳のような答えを被告人質問でしている…と検察が捉えたと推察される」
さらに、小川氏は「警察としては検索ワードが時系列的にピタッとはまっていることも強い状況証拠になっている。本人が覚醒剤の売人と接触する方法として『裏掲示板』と検索していろいろ調べた…と言っているのですが、検察官の質問で『検索履歴の中に〝裏掲示板〟というワードの履歴は残っていないが』という質問には被告が答えに窮する場面もあった。また逆に弁護人からは『〝検索魔〟である被告の履歴の中に〝覚醒剤の飲ませ方〟等という検索履歴は残っていない』とも。後は家政婦さんが不在で2人きりになった約5時間の間に覚醒剤の経口摂取ができたこと。その間、防犯カメラ等で第三者の出入りが確認されていない点などからも、被告以外に犯人はいないという論理ではないかと思います」と付け加えた。
弁護側は最終弁論で、覚醒剤の摂取方法の立証が必須にもかわらず、それが尽くされていないことから「疑わしい証拠があるだけで、間違いなく犯人とは立証されていない」と改めて無罪を主張。弁論後の最終意見陳述で、須藤被告は「ちゃんと証拠を見て判断してほしい」と訴えた。
小川氏は「確かに、一番のポイントである『覚醒剤をどのように摂取させたか』ということが全く出ていない。胃に成分があったので、口から飲んだとしても、どのような方法で…ということが具体的に示されていない点からいくと、『疑わしきは罰せず』の推定無罪ということもあるので、無罪になる可能性はゼロではない」と指摘。その上で、同氏は「ただ、私はその可能性は非常に低いと思います」との見解を語った。
注目された裁判はこの日で結審。判決は12月12日に言い渡される。
(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)