昨年末の全国のインフルエンザ患者報告が現行の集計方法になった1999年以降で最多となり、年が明けてもさらなる感染拡大が続いている。仕事においても、体調が思わしくない人の出勤を避けることが必要になるが、無理をして職場で働く人に早退を進めたり、休むように伝える場合、その仕事に対して〝やる気〟を示す相手の気持ちも配慮しながら、どのような言葉をかけるべきだろうか。「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏がその対応策を提言した。
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【今回のピンチ】
隣の席の後輩が、さっきから激しくせき込んで、熱もありそうだ。「体調が悪いなら帰った方がいいよ」と言ったが、「いえ、まだ仕事が残っているので」と動こうとしない……。
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インフルエンザが記録的な勢いで猛威をふるっています。感染するときは感染してしまいますけど、できる予防は小まめにしつつ、防げるリスクは全力で防ぎましょう。
隣の席の若い後輩が、さっきから激しくせき込んだり熱がある様子だったりで、明らかに体調がよくありません。当人も心配ですが、正直なところそれ以上に心配なのが、何らかのウイルスをうつされないかということ。
一刻も早く帰ってほしいのに、本人は「まだ仕事が」と言っています。仕事熱心なのはけっこうですけど、自分や同じオフィスの人間にとってはけっこうなピンチです。どう言えば、さっさと帰ってくれるのか。
本人は苦しい思いをしているだけに、強い口調で「いいから帰れ!うつされちゃ迷惑なんだよ」とストレートに言うのは、たとえツンデレな表現のつもりだとしても、やめた方がいでしょう。後輩はどうでもよくて、自分のことしか考えていないひどい先輩だと思われそうです。
相手は体調が悪くても仕事を続けている自分に、いささか酔っているのかもしれません。帰りやすい雰囲気にしてあげようと「仕事なんてどうにでもなるから」と言うだけでは、目を覚まさないでしょう。むしろ意地になって「いえ、大丈夫です」とか「いえ、これだけは片付けておかないと」と反論して、そのまま居続ける可能性が大です。
ここは、あくまで穏やかに「仕事よりもキミの身体の方が何倍も大事だから、なるべく早くゆっくり休んだほうがいいよ」と言ってみましょう。念入りに相手に寄り添う姿勢を見せれば、「あれ、先輩らしくないな」という違和感が呼び水となって、「あっ、早く帰らせたいのか」とピンと来そうです。
ただ、熱があってヘロヘロな状態だとしたら、当たり前の判断力が失われているかも。もう少しはっきり「今の君にとっていちばん大事な仕事は、一刻も早くお医者さんに行くことだよ」と諭してもいいでしょう。
それでもピンと来ていないようなら「みんなにうつさないうちに」まで言えば、さすがにこちらの真意に気づくはず。「みんな」を前面に出すことで、「自分のことしか考えていないひどい先輩」と思われずに済みます。
読者のみなさんにおかれましては、もし自分がこの後輩の状況になったら、周囲をハラハラさせる前に、さっさと帰りましょう。上司なり同僚なりが「帰った方がいいよ」と言ってきた場合、すでに相手は「おいおい勘弁してくれよ」と苦々しく思っています。
どんな場面でも「みなまで言わない」「みなまで言わせない」という大人の基本を心がけたいところ。そうすれば、ウイルスに対する免疫力のアップは期待できなくても、対人関係における免疫力はアップしそうです。
(コラムニスト・石原 壮一郎)