突然の非常戒厳や弾劾政局で混乱する中、韓国メディアのイーデイリーが、韓国の近現代史を振り返ることができる、歴史ドラマ6作品を紹介した。
偶然にも、これらの作品のほとんどは、地上波テレビの全盛期といえる、1990年代に制作されたものだ。特に「粛軍クーデター」「光州(クァンジュ)事件」などが、1990年代の俳優たちの演技により再現された。なぜ1970~1980年代を過ごした世代が「戒厳」という言葉に戦慄したのか、理解できるはずだ。
作品は、歴代の視聴率上位の韓国ドラマから選定。レビューサイト「WATCHA PEDIA」にまとめられているリストを参照した。
<砂時計>
地上波テレビ局の中でも、後発企業だったSBSは1995年、意欲作「砂時計」を発表。当時は、文民政権と呼ばれた金泳三(キム・ヨンサム)政権が発足し、社会的・経済的に成長を遂げていた時期だった。物質面が豊かになり、忘れられつつあった過去に対する関心が高まった。
本作はNetflixドラマ「イカゲーム」で、世界的スターとなったイ・ジョンジェが、本格的に注目されるきっかけとなったドラマでもある。密かに恋心を抱く相手のために、「竹刀」だけを手に戦う姿は当時、女性視聴者の心を動かした。そして、正東津(チョンドンジン)駅が、全国的に有名な観光地になったのも、本作の影響である。
時代背景となったのは、朴正煕(パク・チョンヒ)政権から、全斗煥(チョン・ドゥファン)政権の発足直前まで。そのため、1970年代から1980年代初期までを通して起こった、重大な事件が描かれている。代表的なものは、YH事件、光州事件、三清(サムチョン)教育隊などだ。本作は、タブー視されていた歴史的事件に対する、果敢なアプローチや描写、そして再評価が、本作を成功に導いた原動力だった。
なお同作は、YouTubeで全話視聴が可能だ。
<黎明の瞳>
1990年代、ドラマ王国と呼ばれていたMBCが、1991年10月から1992年2月まで放送した、全36話のドラマ。当時としては珍しく、海外ロケを行っている。原作は同名小説で、1970年代に日刊新聞で連載されていた作品だ。
本作の名場面は、ヨオク(チェ・シラ)と、デチ(チェ・ジェソン)の、鉄条網の上でのキスシーン。デチは、中国の戦線から東南アジアの戦線へ移ることとなり、慰安婦であるヨオクとの別れを強いられる。歴史的な悲劇を前に、犠牲になった朝鮮人たちの姿を描いている。
また、本作では「歴史的タブー」を直接的に取り上げている。軍出身の盧泰愚(ノ・テウ)大統領が再任した時期(1991年)であったにもかかわらず、「慰安婦」問題や、南北理念対立問題などを直接的に描いた。
<野人時代>
SBSで2002年から2003年9月まで放送された、全124話の大河ドラマ。日本統治時代からの解放、朝鮮戦争、第4共和国の時代に至るまでを背景に、実在した金斗漢(キム・ドゥハン)の一代記を描いた。
本作は、1部と2部に分かれている。1部は若かりし頃の金斗漢、2部は政治家としての金斗漢の物語だ。若い頃の金斗漢は、2000年代の若手スター、アン・ジェモが、政治家となった金斗漢は、キム・ヨンチョルが演じている。
「暴力団を美化している」という批判があったものの、四月革命、5・16軍事クーデター、第三共和国の登場、維新体制の確立まで、重要な現代史を扱った。これらの事件を、金斗漢の視点から描いている点が、異色の作品だ。
<コリアゲート>
1995年10月から12月まで放送された、SBSの政治ドラマ。1976年に起こった「コリアゲート事件」を描き、朴正煕政権と全斗煥政権の前半を背景としている。
「コリアゲート」とは、在米韓国人の実業家である朴東宣(パク・ドンソン)などが、アメリカ議会に違法ロビー活動を行ったことが、アメリカ国内メディアを通して報じられたことから始まった、政治スキャンダルだ。
本作の前半では、朴正煕暗殺事件をはじめ、粛軍クーデター、光州事件、全斗煥元大統領の執権などを描いた。後半では、朴正煕政権による兵器の国産化や、韓国政府の米ロビー活動などを扱っている。
<第3共和国、第4共和国>
MBCの「共和国ドラマ」のうち、1990年代を代表するシリーズ。タイトルのとおり、歴史的現実を最大限に考察することを目指し、当時を生きた男性視聴者から多くの関心を集めた。しかし、ドラマに登場する人物が放送当時も存命だったため、物議をかもした。
「第3共和国」は、5・16軍事クーデターを経て、政権を手にした朴正煕政権にスポットを当てている。対して「第4共和国」は、十月維新以降の10.26軍事反乱、粛軍クーデターなどを扱った。光州事件を描いた部分も話題を集めた。
MBCの共和国シリーズは、1981年の「第1共和国」から始まった。その後2005年の「第5共和国」を最後に、続編は制作されていない。最大の理由は、続編となるであろう「第6共和国」の時代が、現在も進行中であることだと推測される。憲法改正に成功して初めて、第7共和国が始まるのだ。
もし、第6共和国を描いたドラマが制作されるとすれば、1980年代から2020年代までの、約40年の間に起こった歴史的事件を扱うことが期待される。
ただし、ドラマ「第6共和国」の最後のエピソードは、「非常戒厳と弾劾」になると予想できる。それ自体が、歴史に残る前代未聞の事件だった。
(よろず~ニュース特約・moca)