次世代の事業の柱を生み出すことができるか?
2021年7月24日、結成20周年を迎えたバンド・サンボマスターのツアー「サンボマスター 真 感謝祭~ホール&レスポンス~」が最終日を迎えた。会場は大阪城音楽堂。だが、コロナ禍で足を運べないファンが多い状況だったこともあり、リアルタイムで自宅から楽しめる「ライブ配信」も同時に行った。
このライブ配信基盤「Smart vLive for Music」を提供したのがNTTコミュニケーションズ。「コロナで多くの産業がダメージを受ける中、ITの会社ができることがあるのではないか議論していた」と話すのはサービス開発に携わった、NTTコムビジネスソリューション本
部ソリューションサービス部第二マネージドソリューション部門担当部長の金子憲史氏。
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このサービスは、金子氏が社内のビジネスコンテスト「DigiCom」に応募したことから生まれた。このコンテストは19年まではスマートフォンのアプリケーションを開発して、そのデモンストレーションを行い、技術や新たな世界観を提案するという色彩が強かった。
だが、コロナ禍など社会情勢が大きく変わり、NTTコム自体も事業構造を見直す必要に迫られた。音声関連事業やデータ通信を支えるインフラ事業が縮小傾向にある中、より付加価値の高い事業をつくっていくことが求められたのだ。そのため「DigiCom」も、会社の次世代の事業の柱をつくるという目的に変わった。
20年の応募は緊急事態宣言下の5月に始まった。金子氏は19年に続いて手を挙げたが「社会情勢に対するソリューションを出すことが、次世代のNTTコムの事業の柱を生むことにつながる」という思いがあった。
なぜ、ライブ配信だったのか? 金子氏は映像配信・映像コミュニケーションの仕事に長く携わってきた経験がある。その強みを生かせる分野を探す中で音楽、特にライブに着目した。
ぴあ総研の調べによると、19年のライブ・エンタテインメントの市場規模は約6300億円だったが、20年はコロナ禍の影響で約1300億円にまで落ち込んだ。「最初は、この状況をオンラインでサポートできないか? という発想だった」(金子氏)
コロナ禍でリアルのライブが開催しづらく、開催したとしても満員にできないという状況下、サザンオールスターズやBz、星野源といった人気アーティストも無観客による配信ライブを開催していた。だが、数秒から数分のタイムラグが生じることが最初から謳われていた。
「ライブ配信はいきなり始まってしまったという状況だったので多くの場合、品質面でうまく回っていないという話は業界の方々からお聞きしていた。『参入してくれるなら一緒にやりましょう』というお話もあった」
NTTコムのサービスは、同社が持つウェブ上のリアルタイムコミュニケーション技術を活用して、1秒未満という低遅延のライブ配信を可能とした。
だが、すぐに数万人単位のイベントを手掛けるのは難しいため、最初は実証実験的に小規模予算でテスト配信をすることから始めた。
そこでの感触を得て、サービスのリリースと同時に前述のサンボマスターのライブで基盤を担うことになった。ライブではボーカル・ギターを担当する山口隆さんが観客を盛り上げるのが定番。会場はもちろん盛り上がったが、今回はライブ配信で参加していた観客もテキストでリアルタイムに、山口さんへの反応を書き込むことができた。
遅延なくリアルタイムに音と映像が入ってくることに音楽関係者は驚いた。ライブ配信は30秒程度遅れるのが当たり前だと思っていたからだ。
実は当初、金子氏は「音楽ライブのDX」を掲げて社内にプレゼンしていた。ライブを撮影して配信するだけでなく、場面ごとに検索できるようにしたり、視聴履歴、ユーザー属性でニーズを探るといったデータ利活用ができるのではないか、といった可能性を探っていた。
しかし、これらは足元の音楽業界の現場のニーズとは乖離していた。とにかく無事にユーザーに映像や音声が届き、アクセスが集中してもサーバーがダウンしないといった、イベントの品質を担保するサービスが求められていたのだ。
コロナ禍が落ち着いた後は、ますます会場でのライブが復活することが予想される。その時にライブ配信サービスはどうなるのか。「リアルタイム性を生かしてファンとの交流に使ったり、特別料金を支払ったファンの方がライブ終わりの楽屋を覗けるようにするなど、ライブ収益を伸ばす手段となっていく」
前述の星野源の配信ライブは10万人が視聴し、約3.5億円の興行収入を得たが、同規模の集客をするためには従来、東京ドームを2日間借りなければならなかった。それが配信ライブであれば小さく、安い会場で済む。リアルとの融合で、収益機会が拡大する可能性がある。
さらに今、オンライン販売とライブ配信を組み合わせた「ライブコマース」が中国で急激に拡大している。双方向でコミュニケーションができるため自動車や家具、化粧品などの高額商品も売れているというが、テレビ通販と親和性の高い日本でも普及が見込まれている。これにNTTコムの配信基盤が活用できる可能性がある。
「検討中ではあるが、当社がこうした市場を支えるインフラとなる可能性はある」と金子氏。
1人の提案から生まれたサービスが、NTTコムが新たな市場を切り開くための武器になりつつある。
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2021年7月24日、結成20周年を迎えたバンド・サンボマスターのツアー「サンボマスター 真 感謝祭~ホール&レスポンス~」が最終日を迎えた。会場は大阪城音楽堂。だが、コロナ禍で足を運べないファンが多い状況だったこともあり、リアルタイムで自宅から楽しめる「ライブ配信」も同時に行った。
このライブ配信基盤「Smart vLive for Music」を提供したのがNTTコミュニケーションズ。「コロナで多くの産業がダメージを受ける中、ITの会社ができることがあるのではないか議論していた」と話すのはサービス開発に携わった、NTTコムビジネスソリューション本
部ソリューションサービス部第二マネージドソリューション部門担当部長の金子憲史氏。
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このサービスは、金子氏が社内のビジネスコンテスト「DigiCom」に応募したことから生まれた。このコンテストは19年まではスマートフォンのアプリケーションを開発して、そのデモンストレーションを行い、技術や新たな世界観を提案するという色彩が強かった。
だが、コロナ禍など社会情勢が大きく変わり、NTTコム自体も事業構造を見直す必要に迫られた。音声関連事業やデータ通信を支えるインフラ事業が縮小傾向にある中、より付加価値の高い事業をつくっていくことが求められたのだ。そのため「DigiCom」も、会社の次世代の事業の柱をつくるという目的に変わった。
20年の応募は緊急事態宣言下の5月に始まった。金子氏は19年に続いて手を挙げたが「社会情勢に対するソリューションを出すことが、次世代のNTTコムの事業の柱を生むことにつながる」という思いがあった。
なぜ、ライブ配信だったのか? 金子氏は映像配信・映像コミュニケーションの仕事に長く携わってきた経験がある。その強みを生かせる分野を探す中で音楽、特にライブに着目した。
ぴあ総研の調べによると、19年のライブ・エンタテインメントの市場規模は約6300億円だったが、20年はコロナ禍の影響で約1300億円にまで落ち込んだ。「最初は、この状況をオンラインでサポートできないか? という発想だった」(金子氏)
コロナ禍でリアルのライブが開催しづらく、開催したとしても満員にできないという状況下、サザンオールスターズやBz、星野源といった人気アーティストも無観客による配信ライブを開催していた。だが、数秒から数分のタイムラグが生じることが最初から謳われていた。
「ライブ配信はいきなり始まってしまったという状況だったので多くの場合、品質面でうまく回っていないという話は業界の方々からお聞きしていた。『参入してくれるなら一緒にやりましょう』というお話もあった」
NTTコムのサービスは、同社が持つウェブ上のリアルタイムコミュニケーション技術を活用して、1秒未満という低遅延のライブ配信を可能とした。
だが、すぐに数万人単位のイベントを手掛けるのは難しいため、最初は実証実験的に小規模予算でテスト配信をすることから始めた。
そこでの感触を得て、サービスのリリースと同時に前述のサンボマスターのライブで基盤を担うことになった。ライブではボーカル・ギターを担当する山口隆さんが観客を盛り上げるのが定番。会場はもちろん盛り上がったが、今回はライブ配信で参加していた観客もテキストでリアルタイムに、山口さんへの反応を書き込むことができた。
遅延なくリアルタイムに音と映像が入ってくることに音楽関係者は驚いた。ライブ配信は30秒程度遅れるのが当たり前だと思っていたからだ。
実は当初、金子氏は「音楽ライブのDX」を掲げて社内にプレゼンしていた。ライブを撮影して配信するだけでなく、場面ごとに検索できるようにしたり、視聴履歴、ユーザー属性でニーズを探るといったデータ利活用ができるのではないか、といった可能性を探っていた。
しかし、これらは足元の音楽業界の現場のニーズとは乖離していた。とにかく無事にユーザーに映像や音声が届き、アクセスが集中してもサーバーがダウンしないといった、イベントの品質を担保するサービスが求められていたのだ。
コロナ禍が落ち着いた後は、ますます会場でのライブが復活することが予想される。その時にライブ配信サービスはどうなるのか。「リアルタイム性を生かしてファンとの交流に使ったり、特別料金を支払ったファンの方がライブ終わりの楽屋を覗けるようにするなど、ライブ収益を伸ばす手段となっていく」
前述の星野源の配信ライブは10万人が視聴し、約3.5億円の興行収入を得たが、同規模の集客をするためには従来、東京ドームを2日間借りなければならなかった。それが配信ライブであれば小さく、安い会場で済む。リアルとの融合で、収益機会が拡大する可能性がある。
さらに今、オンライン販売とライブ配信を組み合わせた「ライブコマース」が中国で急激に拡大している。双方向でコミュニケーションができるため自動車や家具、化粧品などの高額商品も売れているというが、テレビ通販と親和性の高い日本でも普及が見込まれている。これにNTTコムの配信基盤が活用できる可能性がある。
「検討中ではあるが、当社がこうした市場を支えるインフラとなる可能性はある」と金子氏。
1人の提案から生まれたサービスが、NTTコムが新たな市場を切り開くための武器になりつつある。
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