居酒屋がハンバーガーに参入──。全国で600店超の焼き鳥居酒屋「鳥貴族」を展開する鳥貴族ホールディングス(HD)がハンバーガー専門店の「トリキバーガー」を開業した。社長の大倉忠司氏はこれを「第二の創業」と位置付ける。国内を皮切りに、アジアでの展開も見据えるが、ハンバーガーを巡ってはマクドナルドやファミレスの参入などライバル企業が多く、ハンバーガーはまさに〝戦国時代〟の様相だ。どのような差別化を図るのか?
スピードを重視した厨房づくり
平日のランチタイム。東京・JR大井町駅から徒歩1分の新築ビルの1階にある店舗に続々と人が入店していく。ハンバー
ガーに羽が生えたロゴが飾られたこの店舗はチキンバーガー店「トリキバーガー」だ。
トリキバーガーを運営するのは焼き鳥専門居酒屋「鳥貴族」を展開する鳥貴族HDだ。同社はコロナ禍の8月23日、新業態としてファストフードに参入した。社長の大倉忠司氏は「一番大きな市場を狙うことが一番大きな社会貢献につながる。安さは最大の魅力。価格と質にこだわって店舗を広げていきたい」と意気込みを語る。
1枚ものの鳥のむね肉をジューシーに揚げた「トリキバーガー」を主力に、「焼鳥バーガー」「つくねチーズバーガー」「サラ
ダチキン」など8種類のハンバーガーが並ぶ。いずれも単品390円で、チキン、野菜、肉を挟むバンズに使う小麦は国産だ。
ファストフードの中でもハンバーガー業態は最大手のマクドナルドを筆頭に、モスバーガーとロッテリアで市場の大半を占めている。そんな激戦市場に居酒屋を主力としてきた鳥貴族が参入する勝算はどこにあるのか。
大倉氏は次のように語る。「ビーフ(牛肉)で参入する余地はないが、チキンに特化していることは大きな武器になる。世界で最も消費されている食肉は鶏肉だ。安価で宗教の影響も少なく、低カロリーで高たんぱく。日本でも米国でもチキンの消費量はビーフを上回っている」
大倉忠司・鳥貴族ホールディングス社長
加えて、大倉氏が重視したのが「スピード」だ。ファストフードの醍醐味は注文から受け渡しまでの時間が短いということ。単価が安くても、短時間で多くの顧客を捌くことによって回転率を高め、売り上げと利益の最大化を図ることができる。
そこでトリキバーガーでもスピードを重視した厨房づくりを実現。フライヤーやオーブン、コーヒーマシン、ソフトクリームマシンなどは欧米の製品を導入した。大倉氏は「欧米の厨房機器メーカーは世界中のファストフードを顧客とし、研究開発費などでは日本のメーカーを遥かに凌ぐ投資をしている。欧米の厨房機器は進んでいる」
大倉氏が「工場のようだ」と例えるように、トリキバーガーの厨房では流れ作業のようにハンバーガーが作られる。足元では3分で商品を提供できるが、「1分半」を目指し、人の修練を積み上げているところだ。同氏は1000店舗のチェーンを将来像として描き、「第二の創業という気持ちだ」と決意を語る。
そもそも鳥貴族と言えば、焼き鳥、揚げ物、サラダ、ご飯物、ビール、カクテル、ワイン、デザートが全品298円(税込327円)均一で、焼き鳥には国産チルドの鶏肉を使用するなど使う素材は100%国産がウリの居酒屋だ。セントラルキッチンを持たず、焼き鳥も店内での手作業による串打ちにこだわる点が消費者を惹きつけていた。
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コロナ禍が後押しした業態開発
ところがコロナ禍で600を超える店舗の大半が営業時間短縮や休業を迫られ、「まともに営業ができない状況が続いた」(同)。さらにコロナ前から積極出店を重ねていたことで、近隣店舗間で顧客を奪い合うカニバリゼーション(共食い)に悩まされることにもなっていた。
大倉氏は不採算店を閉鎖すると共に、京セラ創業者の稲盛和夫氏が実践したアメーバ経営を導入。大倉氏は「店長レベルにも落とし込み、あらゆる部門で採算管理の意識を高め、水道光熱費レベルでも増益につなげた」と話す。店舗数はピーク比で約1割減ったが、損益分岐点売上高はコロナ前の約8割の水準まで下がったという。
そんな矢先にコロナが発生。大倉氏は「感染症は今後も10年単位で起きるかもしれない。居酒屋業態だけでは経営基盤は貧
弱だ。感染症にも強いファストフード業態も持つべきだと思った」。ただ、ハンバーガー構想はコロナ前から既に頭にあった。
鳥貴族の海外進出を見据え、米国に出張した際、米国のチキンバーガー専門店の繁盛ぶりを目の当たりにしていたからだ。チキン・分かりやすい価格・国産──。「鳥貴族のブランドを活用すればチャンスがある」(同)。コロナ禍を受け動き出した。
もちろん、居酒屋とファストフードでは店舗運営は違う。大倉氏にとって恵まれていたのは日本マクドナルド出身者が幹部として在籍していたこと。店舗づくりをはじめ、鶏肉は工場で手切りし、ジューシーかつ歯応えを楽しめるようにするなど、居酒屋業態では培うことができなかった発想を持ち込めた。
一方、居酒屋業態が不要かと言えば大倉氏は明確に否定する。「本来人は人とつながりたい、人と接したい、交わりたいという欲求を本能的に持っている。お酒をツールにコミュニケーションの場となる居酒屋はアフター・コロナでも求められる」
大倉氏は創業時から激戦市場に挑むという歩みを続けてきた。鳥貴族を創業した1980年代は総合居酒屋が一世を風靡していた時代だった。その中で「家庭では味わえない料理」として焼き鳥に焦点を当て、価格と質で差別化を図って成長してき
た。今回も共通する点が多い。
ハンバーガー市場は約7300億円の市場だが、コロナ禍でも好調な業態なだけに、ファミレス大手やベンチャーなどの参入が相次いでいる。その中で鳥貴族との共同調達など同社独自の課題もある。文字通り羽ばたけるかどうかの命運はトリキバーガーが担っている。
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スピードを重視した厨房づくり
平日のランチタイム。東京・JR大井町駅から徒歩1分の新築ビルの1階にある店舗に続々と人が入店していく。ハンバー
ガーに羽が生えたロゴが飾られたこの店舗はチキンバーガー店「トリキバーガー」だ。
トリキバーガーを運営するのは焼き鳥専門居酒屋「鳥貴族」を展開する鳥貴族HDだ。同社はコロナ禍の8月23日、新業態としてファストフードに参入した。社長の大倉忠司氏は「一番大きな市場を狙うことが一番大きな社会貢献につながる。安さは最大の魅力。価格と質にこだわって店舗を広げていきたい」と意気込みを語る。
1枚ものの鳥のむね肉をジューシーに揚げた「トリキバーガー」を主力に、「焼鳥バーガー」「つくねチーズバーガー」「サラ
ダチキン」など8種類のハンバーガーが並ぶ。いずれも単品390円で、チキン、野菜、肉を挟むバンズに使う小麦は国産だ。
ファストフードの中でもハンバーガー業態は最大手のマクドナルドを筆頭に、モスバーガーとロッテリアで市場の大半を占めている。そんな激戦市場に居酒屋を主力としてきた鳥貴族が参入する勝算はどこにあるのか。
大倉氏は次のように語る。「ビーフ(牛肉)で参入する余地はないが、チキンに特化していることは大きな武器になる。世界で最も消費されている食肉は鶏肉だ。安価で宗教の影響も少なく、低カロリーで高たんぱく。日本でも米国でもチキンの消費量はビーフを上回っている」
大倉忠司・鳥貴族ホールディングス社長
加えて、大倉氏が重視したのが「スピード」だ。ファストフードの醍醐味は注文から受け渡しまでの時間が短いということ。単価が安くても、短時間で多くの顧客を捌くことによって回転率を高め、売り上げと利益の最大化を図ることができる。
そこでトリキバーガーでもスピードを重視した厨房づくりを実現。フライヤーやオーブン、コーヒーマシン、ソフトクリームマシンなどは欧米の製品を導入した。大倉氏は「欧米の厨房機器メーカーは世界中のファストフードを顧客とし、研究開発費などでは日本のメーカーを遥かに凌ぐ投資をしている。欧米の厨房機器は進んでいる」
大倉氏が「工場のようだ」と例えるように、トリキバーガーの厨房では流れ作業のようにハンバーガーが作られる。足元では3分で商品を提供できるが、「1分半」を目指し、人の修練を積み上げているところだ。同氏は1000店舗のチェーンを将来像として描き、「第二の創業という気持ちだ」と決意を語る。
そもそも鳥貴族と言えば、焼き鳥、揚げ物、サラダ、ご飯物、ビール、カクテル、ワイン、デザートが全品298円(税込327円)均一で、焼き鳥には国産チルドの鶏肉を使用するなど使う素材は100%国産がウリの居酒屋だ。セントラルキッチンを持たず、焼き鳥も店内での手作業による串打ちにこだわる点が消費者を惹きつけていた。
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コロナ禍が後押しした業態開発
ところがコロナ禍で600を超える店舗の大半が営業時間短縮や休業を迫られ、「まともに営業ができない状況が続いた」(同)。さらにコロナ前から積極出店を重ねていたことで、近隣店舗間で顧客を奪い合うカニバリゼーション(共食い)に悩まされることにもなっていた。
大倉氏は不採算店を閉鎖すると共に、京セラ創業者の稲盛和夫氏が実践したアメーバ経営を導入。大倉氏は「店長レベルにも落とし込み、あらゆる部門で採算管理の意識を高め、水道光熱費レベルでも増益につなげた」と話す。店舗数はピーク比で約1割減ったが、損益分岐点売上高はコロナ前の約8割の水準まで下がったという。
そんな矢先にコロナが発生。大倉氏は「感染症は今後も10年単位で起きるかもしれない。居酒屋業態だけでは経営基盤は貧
弱だ。感染症にも強いファストフード業態も持つべきだと思った」。ただ、ハンバーガー構想はコロナ前から既に頭にあった。
鳥貴族の海外進出を見据え、米国に出張した際、米国のチキンバーガー専門店の繁盛ぶりを目の当たりにしていたからだ。チキン・分かりやすい価格・国産──。「鳥貴族のブランドを活用すればチャンスがある」(同)。コロナ禍を受け動き出した。
もちろん、居酒屋とファストフードでは店舗運営は違う。大倉氏にとって恵まれていたのは日本マクドナルド出身者が幹部として在籍していたこと。店舗づくりをはじめ、鶏肉は工場で手切りし、ジューシーかつ歯応えを楽しめるようにするなど、居酒屋業態では培うことができなかった発想を持ち込めた。
一方、居酒屋業態が不要かと言えば大倉氏は明確に否定する。「本来人は人とつながりたい、人と接したい、交わりたいという欲求を本能的に持っている。お酒をツールにコミュニケーションの場となる居酒屋はアフター・コロナでも求められる」
大倉氏は創業時から激戦市場に挑むという歩みを続けてきた。鳥貴族を創業した1980年代は総合居酒屋が一世を風靡していた時代だった。その中で「家庭では味わえない料理」として焼き鳥に焦点を当て、価格と質で差別化を図って成長してき
た。今回も共通する点が多い。
ハンバーガー市場は約7300億円の市場だが、コロナ禍でも好調な業態なだけに、ファミレス大手やベンチャーなどの参入が相次いでいる。その中で鳥貴族との共同調達など同社独自の課題もある。文字通り羽ばたけるかどうかの命運はトリキバーガーが担っている。
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