Infoseek 楽天

大和ハウス社長の決意「かつて開発した住宅団地にコミュニティを蘇らせる」

財界オンライン 2021年11月15日 7時0分

「街に戻って、いろいろなことをご相談していただける位置に戻りたい」──こう話す、大和ハウス工業社長の芳井敬一氏。今、大和ハウスはかつて開発した住宅団地「ネオポリス」でコミュニティを蘇らせる「リブネスタウン」に取り組んでいる。今、少子化、高齢化で街に住む人達は隣人との付き合い、空き家問題など様々な悩みを抱える。これに応える活動をしていきたいという芳井氏である。

【関連記事・写真あり】大和ハウスの「リブネスタウン」、かつて開発した街を「再耕」

事業の見直しとコロナ禍が重なる
 ─ 2年近く、日本及び世界はコロナ禍にあったわけですが、芳井さんはこの間、どのように取り組んできましたか。

 芳井 最初は当社の社内もそうでしたが、世の中全体がコロナにかかると命がなくなるのではないか? と臆病になっていましたよね。しかし当初はよくわからない状況だったものが、少しずつ兆しが見えてきました。

 当社も、社員の皆さんがいろいろと創意工夫をしながら、少しずつ前に出ていくことができるようになっていきました。工夫というと簡単に聞こえるかもしれませんが、改革であったり、改善であったり、業務の見直しであったりと、いろいろなことが見直された時期だったのかなと、今振り返って思います。

 ─ 自らの足元を見つめ直す時期でもあったと。

 芳井 ええ。当社はコロナが始まった時期、様々な問題があって事業の見直しをしようとしている時でした。

 それは会社のタテ軸、ヨコ軸を変える、支店長制から、もっと一気通貫でリスク管理ができる事業本部制へと移行している時期だったんです。

 そうした時期に、ちょうどコロナ禍が来たのです。ですから物事を変えることを受け入れやすかったといいますか、どう改革していくかという動きが、各事業本部で速かったということは言えるかもしれません。

 ─ 事業構造の改革中だったということですが、住宅事業、流通店舗事業、マンション事業など、バランスを意識したものに見えます。

 芳井 そうですね。バランスはいいとは思っていますが、こうした時期にポートフォリオを見てみると、2022年度から開始予定の第7次中期経営計画では、各事業の立ち位置や成長戦略を少し変えていかなければならないかもしれません。

 ─ 現時点でどの事業を変えていこうという考えはありますか。

 芳井 全てです。グループ会社を含めて考えていきます。当社には住宅事業、賃貸住宅事業、マンション事業、流通店舗事業、建築事業という柱に加えて、海外事業、環境エネルギー事業、関連事業など様々な事業がありますが、例えば関連事業に属しているグループ企業でも、流通店舗事業に組み入れる可能性もあります。

 そうした事業の見直しと共に再成長を目指していく。グループ会社の中で機能会社と、成長していく会社とを分けなければならないと思っています。

 ─ 特に成長が期待される分野はどこになりますか。

 芳井 1つは大和リビングが手掛けている賃貸住宅管理の分野です。今、新築と住宅ストックとが逆転していますから、このストック型のビジネスをもっと充実させていくことが必要かもしれないと考えています。

 また、大和ライフネクストがマンション管理を手掛けていますが、今後はこの管理の仕事を通じて、古いマンションの建て替えといった仕事に届いていくだろうとも思っています。

 実際に住まわれている方々からすれば、日常的に管理している会社が一番相談しやすいですよね。もし、普段の仕事が評価されていなければ、あの会社にはやらせたくないとなると思いますが、行き届いているとご相談していただけます。

 そうしたことを大事にして、単に土地を購入してマンションを建てる事業から、今お住まいになっている方が、再度そこに戻ってくることを前提に、建て替え、またはリニューアルしていくことが大事になってきます。

 ─ ストックが活用できるようになってきたと。

 芳井 そうです。世の中全体が、いろいろな意味でモノを大事するようになって、ストック型になってきています。これは政府方針もありますから、そうした部分を大事にしていきたい。

 ─ ESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)が大きな潮流になっていますね。そんな中で大和ハウスは、かつて開発した住宅地を「再耕」すると言っていますね。どういう仕事を手掛けているんですか。

 芳井 元々、当社が開発してきた住宅団地「ネオポリス」を再び耕す、再び輝かせるというイメージです。

 我々はこれまで、自分達が開発してきた街をほったらかしにしてきたわけではないのですが、戸建て住宅の住宅団地ではマンションのように管理組合があるわけでなく、共用部の管理を請け負うというわけではありません。住宅開発では、ある一定の時期が来ると、自治会にお返しするわけです。

 別に私達が退場したわけではないのですが、どうしても街は自治会、町内会の方々で運営をしていくことになります。

 それを今、もう一度いろいろな街に戻って、皆さんが今困っていることを解決しようと。例えば住み心地はどうなっているか、将来近所で空き家が出そう、家をリフォームしたい、あるいは仕事をどうしようかといった、様々なご相談をしていただけるような立ち位置に、大和ハウスは戻りたいと思っています。

 ─ 住民の皆さんの反応はどうですか。

 芳井 我々への期待とともに、住民の皆さんには今、我々にして欲しいこともあると思います。そうしたことに対して、我々が様々な形でお手伝いができるようにしようというのが「再耕」なんです。

 ─ 街を再耕する時に、大和ハウスが生かせる強みは何ですか。

 芳井 経験ですね。今後、持続的な街づくりが求められる時に、多くの人から「大和ハウスさんがこれまでつくってきた街はどうなっていますか? 」と聞かれることもあると思います。

 そこをほったらかしにして、新しい街づくりをするというのは個人的に私の常識の中にないんです。これまで手掛けてきた街を再耕してこそ、私達自身、次の新しい街に対する入場券をいただけるのだと思うんです。

 SDGsの目標の1つに「つくる責任 つかう責任」があります。街においては「つかう責任」は住民の皆さんですが、私達は街をつくってきて、大半のお約束を果たしてきました。

 しかしながら、少子化、高齢化になったり、それによって空き家が増えてくるといった状況は、当時としては読めていません。どのカタログを見ても、そんなことは書いていないんです。

 人生にはいろいろなことがあります。私自身も母親の最期を看取るなど、いろいろな経験をしてきましたが、「ありがとう」という言葉、人生を「よかった」と思えるかは、目をつぶる時だと思うんです。それまでがいくらよくても、最期がそうじゃなければ、「ありがとう」と思わないかもしれません。

 我々、大和ハウスは、その住まいの部分で、しっかりお手伝いしたいと思っているんです。

 ─ よく、都会にはコミュニティがなくて寂しいという一方で、あまり周囲から干渉されず便利だという意見もあります。このバランスが大事ですね。

 芳井 ええ。今、いろいろな街に我々のメンバーが行っていますが、住民の皆さんが一番求めているのはコミュニティです。昔ほどコミュニティがなくなっていますが、どうやってつながるか。これが一番の問題になっています。

 お隣さんも昔から住んでいる人ではなく、違う人になっていてつながらない。昔から共に、子供達も同じ世代でつながっていた人達が引っ越してしまう。だからつながり方がわからない。

 では、単純に自治会をやりましょうかではつながらないんです。そこには創意工夫が必要です。ですから、社内のメンバーには場所場所にあった方法でやりなさいと言っています。いろいろ取り組んでいますが、まだまだこれからですね。

ネットで研究、最後はリアルで
 ─ ネットが様々な場面で活用される今ですが、大和ハウスが手掛ける、ネットで販売する戸建て住宅「ライフジェニック」が好調だそうですが、この要因は?

 芳井 まず、お客様自身が展示場に行かなくてもいいという点です。今はコロナ禍ですから、展示場に行くと、ともすれば混雑していて、どうしてもいろいろな方と接触してしまいます。

 お客様は元々、大和ハウスの評判はどうだろう、他社はどうだろうということを事前にネットで調べられていたんです。今はこの見せ方、中身が当社も含めて非常に充実しています。

 コロナ前のネット上のカタログと、コロナ後、特にごく最近のものは当社も他社さんも全く違うものになっています。お客様に、この本気度が伝わっているのだと思います。それによって、コロナ前は月2万PVだったものが、コロナが始まってからは6万PVに増え、今は安定的に10万PVになっています。

 これはネットでの情報に皆さんが満足されている表れだと思いますし、その時点で選別される方が増えてきたということだと思います。

 ─ 実際に、ネット経由で住宅を購入するのは20代、30代、40代ですか。

 芳井 そうですね。つくり手の意図以上によくご存知ですね(笑)。

 ─ 今やネットは住宅事業においても重要なツールになっていると。

 芳井 完全に重要ツールになっています。今後は、ネット経由で展示場に来られて購入に至るという形がさらに多くなっていくかもしれません。

 ─ ただ、最終的には展示場などリアルで見たいという欲求もあるわけですね。

 芳井 リアルも大事です。住宅展示場がお客様にとって都合がいいのは、1カ所に車を停めれば、ご自身が見たいところを3つくらい回ることができることです。それがバラバラに各社の物件を見ていくと大変です。その意味で今後は展示場の役割も、少し変わってくるかもしれません。

 ─ 研究はネットで、最後はリアルでという流れですね。

 芳井 研究は十分されていますね。ネット上の口コミもあり、皆さんよく見られていますね。リアルとデジタルの融合が大事だと思います。

 ─ 今、全産業的に人手不足が言われています。大和ハウスはどう対応していますか。

 芳井 例えば大和物流などの物流事業では高齢化などもあって人手不足になっていますね。ただ、政府ももっと女性に活躍してもらおうと言っていますが、私も本当にそう思っています。

 特に建築の分野では、女性の活躍は労働力としてのみならず、競争力につながるものと期待をしています。

 おそらく住宅業界で、当社は女性の工事監督者数でナンバーワンではないかと思います。先日も、当社の東京本社近くのホテル建築で女性社員が監督を務めました。

 ─ 現場をまとめる力もあるということですね。

 芳井 ありますね。男性陣もよく言うことを聞いています(笑)。

「大和ハウスにいてよかった」という辞め方を
 ─ ところで岸田政権は「所得倍増」と言っていますが、この政策をどう見ますか。

 芳井 実現すればみんな、タンスに入れずに消費に回すと思いますから非常にいいことだと思います。

 こうしたスローガンのように、我々も社員に対して、目標をきちんとつくっていかなければならないと思っています。それが今回の事業本部制だと考えています。今後、それぞれの本部ごとに濃淡も出てくる可能性もあると見ています。

 ─ 働き方に関して、従来のメンバーシップ型からジョブ型へとの意見も出ています。芳井さんの考え方は?

 芳井 難しいところです。日本人は終身雇用に慣れています。ただ、キャリアをつくって、次はこういうことがやりたいから転職していくのがいいことだという時代に早くしなければいけないと思っています。

 私も転職組ですが、転職を繰り返すことは悪だと思われる方はおられます。しかし当社としては、卒業して出て行かれる方をポジティブに考えた方がいいといつも言っています。

 特に若年層で、どうしても仕事が合わずに辞める人もいます。こうした人達も、いずれ戸建て住宅を建てたり、マンションを買ったり、賃貸住宅に住みます。辞める人達に「大和ハウスグループにいてよかった」という辞め方をしてもらって下さい、と話しているんです。

よしい・けいいち
1958年大阪府生まれ。81年中央大学文学部卒業後、神鋼海運(現・神鋼物流)入社。90年大和ハウス工業入社。2011年取締役上席執行役員、16年取締役専務執行役員、17年11月社長、19年6月社長兼CEO。

【関連記事】なぜ今、大和ハウスは 「データセンター」に注力するのか?

この記事の関連ニュース