2015年創業のベンチャー・Relicと大企業のタッグで続々と新規事業が生まれている。創業者の北嶋貴朗氏は新規事業開発のプロ。創業直後から実績を認められ、事業を拡大させてきた。組織や人の”挑戦を促す”プラットフォームを提供するRelic。成長が求められる今、日本の産業界にどんな影響を与えているのか──。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
新規事業育成のプロ
取引先企業数はベンチャーから大企業まで2500社以上。支援した新規事業アイデア・プランは12000以上、支援先の上場実績は15件──。
これは、2015年創業のベンチャー・Relicの実績。
Relic自身も年平均成長率125%、6期連続黒字を続けている。創業6年のベンチャーだが、取引先にはソニー、京セラ、日本経済新聞社、NTTドコモ、ライオンなど大企業が名を連ねる。
Relic創業者の北嶋貴朗氏は1986年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2008年、当時人気のベンチャーだったワイキューブに入社。
だが、リーマンショックで経営が傾き、計らずも、既存事業が落ち込む中で新規事業を手掛ける部署のメンバーになった。
「優秀な方の多い会社でしたが、それでも0から事業を創ることは難しい。新卒で入った会社が経営破綻した現実、また将来起業したいという思いもあり、0から事業を創る力を付けたいと、新規事業開発専門のコンサルティングファームに転職しました」
新卒から新規事業開発に携わり、コンサルティングファームでは大企業やベンチャーの新規事業開発を支援してきた北嶋氏だが、「各社の課題は様々」で「外部からの支援には限界がある」ことも感じていた。
独立を考えていた26歳の時、DeNAからヘッドハンティングされ、新規事業開発のeコマース関連の責任者に。
2015年4月、ベビー用品大手・西松屋チェーンの公式ECサイトを協業で立ち上げた。この事業は立ち上げ直後から軌道に乗り、西松屋のEC事業拡大に大きく貢献した。
こうした経験から「デジタルイノベーションが起きていない巨大リアル産業のほうが課題は大きく、かつ、うまくいったときのインパクトが大きい」ことを実感。さらに、様々な立場、アプローチで事業開発をしてきた経験から、エコシステムが確立しているベンチャーより「大企業や経営資源のある会社のほうが新規事業開発に困っているのではないか」という課題に気付く。
だが、既存の新規事業開発支援会社はコンサルタントに終始していたり、自らの成功体験を伝えるだけで再現性がない。
「コンサルタント、新規事業のリーダーとして、成功体験も失敗体験も積んだ自分にしかできない支援のあり方があるのではないか」とRelicを起業した。
挑戦者を支援するプラットフォーム
成功も失敗も経験しているからこそ、重視したのは「提供価値の広さ」と「再現性」。そこで「新規事業開発のプロセスや取り組みを、ある程度システム化すること」にこだわって生まれたのが、現在の3つの事業。
まず、ITスタートアップとして、自社開発の新規事業開発に特化したSaaS型プラットフォームを提供する〈インキュベーションテック事業〉。
事業アイデアの創出や構想・プラン策定を支援するイノベーションマネジメントプラットフォームの『Throttle(スロットル)』。
事業アイデアを検証し、テストマーケティングを行えるクラウドファンディングとeコマースのプラットフォーム『ENjiNE(エンジン)』。
手応えのあった事業を成長させ、ファン獲得を支援するマーケティングオートメーション機能を持つ『Booster(ブ ースター)』などがある。
ベンチャーがこぞって参入するSaaS(Software as a Service)事業だが、『Throttle』『ENjiNE』は国内シェア№1のサービスだ。
2つ目は〈事業プロデュース・ソリューション事業〉。「オーダーメイドでプロジェクトを組み、トータルで新規事業開発のソリューションを提供する」コンサルタント事業。
3つ目は、スタートアップ投資や大企業との共同事業/JVなど、パートナーとRelicが共に事業を創っていく〈オープンイノベーション事業〉。
様々な形の支援をするのは各社各様の課題に対応するため。
ユニークな例を紹介すると、『DUALii(デ ュアリー)』というスキームがある。北嶋氏いわく新規事業の「代理出産」モデルだ。
大企業の新規事業を阻害する要因に「自分たちの名前でよくわからない事業を始めて失敗したらどうするのか」という”レピュテーションリスク”や「新規事業の品質が悪いと既存事業の品質まで疑われる」と”ブランド毀損リスク”を恐れ、駆け出しの新規事業で既存事業と同じ品質基準を求めて高コストで採算が取れないことなどがある。
だが、どんな新規事業でも、最初は不確実性が高いもの。
そこで、不確実性のフェーズはRelicが運営主体としてスピーディに事業開発や検証を進め、事業が軌道に乗ったタイミングで大企業主導の事業に変え、規模拡大で成長を図るという。
「いろんな会社といろんな事業をやっていると、全体最適が難しく、1個1個の事業の可能性を引き出せないケースが出てくることがある。そこでホールディングス体制にして、柔軟に会社を作れるようにしました」
今年9月には持株会社体制に移行。1つの会社で複数の事業を手掛けると「1億円稼ぐ事業と50億円稼ぐ事業で軋轢が生まれてしまうこともある」。1つひとつの事業が最良の経営判断をできるようにするためのHD化だ。
「僕自身が1個の事業を立ち上げてうまくいくより、日本の多くの会社がうまくいったほうがインパクトは大きい。リスクを取って挑戦する人が正しく評価され、正しく報われる社会を創ることを目指している。そのためにも、挑戦者を支えるインフラ、プラットフォームになりたい」(北嶋氏)
30年近く成長が止まった状態の日本。活性化のためには、新たな事業を創出し、新たな需要を生む必要がある。2020年末の企業の内部留保は484兆円。チャレンジの文化が企業に根付けば投資にまわる資金も増えていくだろう。
【酸素泥棒】
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako
新規事業育成のプロ
取引先企業数はベンチャーから大企業まで2500社以上。支援した新規事業アイデア・プランは12000以上、支援先の上場実績は15件──。
これは、2015年創業のベンチャー・Relicの実績。
Relic自身も年平均成長率125%、6期連続黒字を続けている。創業6年のベンチャーだが、取引先にはソニー、京セラ、日本経済新聞社、NTTドコモ、ライオンなど大企業が名を連ねる。
Relic創業者の北嶋貴朗氏は1986年生まれ。慶應義塾大学卒業後、2008年、当時人気のベンチャーだったワイキューブに入社。
だが、リーマンショックで経営が傾き、計らずも、既存事業が落ち込む中で新規事業を手掛ける部署のメンバーになった。
「優秀な方の多い会社でしたが、それでも0から事業を創ることは難しい。新卒で入った会社が経営破綻した現実、また将来起業したいという思いもあり、0から事業を創る力を付けたいと、新規事業開発専門のコンサルティングファームに転職しました」
新卒から新規事業開発に携わり、コンサルティングファームでは大企業やベンチャーの新規事業開発を支援してきた北嶋氏だが、「各社の課題は様々」で「外部からの支援には限界がある」ことも感じていた。
独立を考えていた26歳の時、DeNAからヘッドハンティングされ、新規事業開発のeコマース関連の責任者に。
2015年4月、ベビー用品大手・西松屋チェーンの公式ECサイトを協業で立ち上げた。この事業は立ち上げ直後から軌道に乗り、西松屋のEC事業拡大に大きく貢献した。
こうした経験から「デジタルイノベーションが起きていない巨大リアル産業のほうが課題は大きく、かつ、うまくいったときのインパクトが大きい」ことを実感。さらに、様々な立場、アプローチで事業開発をしてきた経験から、エコシステムが確立しているベンチャーより「大企業や経営資源のある会社のほうが新規事業開発に困っているのではないか」という課題に気付く。
だが、既存の新規事業開発支援会社はコンサルタントに終始していたり、自らの成功体験を伝えるだけで再現性がない。
「コンサルタント、新規事業のリーダーとして、成功体験も失敗体験も積んだ自分にしかできない支援のあり方があるのではないか」とRelicを起業した。
挑戦者を支援するプラットフォーム
成功も失敗も経験しているからこそ、重視したのは「提供価値の広さ」と「再現性」。そこで「新規事業開発のプロセスや取り組みを、ある程度システム化すること」にこだわって生まれたのが、現在の3つの事業。
まず、ITスタートアップとして、自社開発の新規事業開発に特化したSaaS型プラットフォームを提供する〈インキュベーションテック事業〉。
事業アイデアの創出や構想・プラン策定を支援するイノベーションマネジメントプラットフォームの『Throttle(スロットル)』。
事業アイデアを検証し、テストマーケティングを行えるクラウドファンディングとeコマースのプラットフォーム『ENjiNE(エンジン)』。
手応えのあった事業を成長させ、ファン獲得を支援するマーケティングオートメーション機能を持つ『Booster(ブ ースター)』などがある。
ベンチャーがこぞって参入するSaaS(Software as a Service)事業だが、『Throttle』『ENjiNE』は国内シェア№1のサービスだ。
2つ目は〈事業プロデュース・ソリューション事業〉。「オーダーメイドでプロジェクトを組み、トータルで新規事業開発のソリューションを提供する」コンサルタント事業。
3つ目は、スタートアップ投資や大企業との共同事業/JVなど、パートナーとRelicが共に事業を創っていく〈オープンイノベーション事業〉。
様々な形の支援をするのは各社各様の課題に対応するため。
ユニークな例を紹介すると、『DUALii(デ ュアリー)』というスキームがある。北嶋氏いわく新規事業の「代理出産」モデルだ。
大企業の新規事業を阻害する要因に「自分たちの名前でよくわからない事業を始めて失敗したらどうするのか」という”レピュテーションリスク”や「新規事業の品質が悪いと既存事業の品質まで疑われる」と”ブランド毀損リスク”を恐れ、駆け出しの新規事業で既存事業と同じ品質基準を求めて高コストで採算が取れないことなどがある。
だが、どんな新規事業でも、最初は不確実性が高いもの。
そこで、不確実性のフェーズはRelicが運営主体としてスピーディに事業開発や検証を進め、事業が軌道に乗ったタイミングで大企業主導の事業に変え、規模拡大で成長を図るという。
「いろんな会社といろんな事業をやっていると、全体最適が難しく、1個1個の事業の可能性を引き出せないケースが出てくることがある。そこでホールディングス体制にして、柔軟に会社を作れるようにしました」
今年9月には持株会社体制に移行。1つの会社で複数の事業を手掛けると「1億円稼ぐ事業と50億円稼ぐ事業で軋轢が生まれてしまうこともある」。1つひとつの事業が最良の経営判断をできるようにするためのHD化だ。
「僕自身が1個の事業を立ち上げてうまくいくより、日本の多くの会社がうまくいったほうがインパクトは大きい。リスクを取って挑戦する人が正しく評価され、正しく報われる社会を創ることを目指している。そのためにも、挑戦者を支えるインフラ、プラットフォームになりたい」(北嶋氏)
30年近く成長が止まった状態の日本。活性化のためには、新たな事業を創出し、新たな需要を生む必要がある。2020年末の企業の内部留保は484兆円。チャレンジの文化が企業に根付けば投資にまわる資金も増えていくだろう。
【酸素泥棒】