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課題解決に向けて対話を【私の雑記帳】

財界オンライン 2021年11月28日 11時30分

諍いの多い時代に
 対話のできる人─。価値観や立場の違いを乗り越えて、物事をまとめる際に、相手の存在を認めて解決策を見出していく。

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 諍い、争い事は人類に付き物だが、先人たちはそれを体験しながら必死に解決策(ソリューション)を求め、奮闘してきた。

 米中対立という国家間の対立の中で、気候変動・温室効果ガス削減門題という人類共通のテーマにどう関わっていくか。

 こうした課題の解決へ向かうのにも対話は欠かせない。

 経済安全保障面では、中国とどう付き合うかという課題。

 1972年(昭和47年)に登場した田中角栄政権の手で日中国交回復が成った。田中首相自ら訪中し、周恩来首相と日中戦争の体験を踏まえながら、粘り強い交渉の末、国交回復策をまとめ上げた。

 田中角栄、周恩来という傑出したリーダーがいたからこそ、日中国交回復は実った。

 中国の時の最高実力者、毛沢東(国家主席)も2人の交渉成果を承認し、日中国交回復は成った。

 それから約50年。中国は鄧小平の改革開放(1978)の採用で、経済成長路線をひた走り、2010年、米国に次ぐ世界2位の経済大国になった。

 社会主義の国から国家資本主義といわれる国になった中国とどう関わっていくかという命題である。

聖徳太子の知恵
 中国大陸との交流は実に古い。6世紀の仏教伝来にしても、大陸経由である。それまで神道の国だった大和(日本)は仏教を受け入れるかどうかで朝廷内に争いが起きた。蘇我、物部という豪族間の権力争いまで生じた。

 そういう中、対話路線で仏教をうまく取り入れ、神道との〝共存〟を図っていったのが聖徳太子。いわば神仏習合の生みの親と言っていい。

 太子が制定した『十七条の憲法』も、諍い、対立の中から『和』を求めてつくられたといわれる。

 その後、僧鑑真が求められて日本に来る。当時の唐の揚州(現江蘇省)に生まれ、洛陽、長安(現西安)で修行した後、日本に渡る。嵐などに遭い、来航は5度も失敗。6度目の挑戦の末に、やっと成功し753年(天平勝宝5年)に来日。奈良に唐招提寺を開いた。

 こうした交流の歴史を踏まえつつ、米中対立という世界構図の中で、中国とどう付き合っていくかという命題である。

リーダーの度量が……
「ただ一直線に、グローバル化を進める時代は終わった。ローカル化を同時に進め、グローバルとローカルが共存するグローカルの知恵をひねっていかなくてはならない」と某経済人の述懐。

 政治的対立を解きほぐしていくのは経済的交流であろう。

 ただ、無原則な交流であってはならない。かつての『政経分離』は通用しない現実の中で、知恵をひねり出していく。

 米中対立と言っても、米国にとって中国は最大の貿易相手国。今を時めく、EV(電気自動車)の米テスラは中国で生産・販売を行い、高収益をあげている。

 中国にとっても、米国は貿易でメリットがある存在。改革開放から40余年が経ち、経済減速が目立つ中国にとって、米国を失うことは大変な痛手となる。

 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)に中国の参加は困難な情勢だが、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)には中国も参加している。対立の中で調和を求める手段、ツールはある。

 ここは、対話能力が求められるし、またリーダーの度量、包摂力が試される時である。

本年度『財界賞・経営者賞』
 本誌恒例の令和3年度『財界賞経営者賞』選考委員会が11月4日(木)、東京のザ・キャピトルホテル東急で開かれた。

『財界賞』は信越化学工業会長の金川千尋さん(1926年生まれ)が選ばれた。

『財界賞』は経済活動や事業構造モデルで産業界全般に大きな影響を与えたリーダーに授賞するもので、今回は66回目。『経営者賞』は好業績をあげた経営者に授賞するもので、今回は64回目という歴史ある賞。

 9人の選考委員の厳正な審査の下、今年度の『財界賞』は金川千尋さんに決定。金川さんは1990年から2010年まで20年間社長を務め、同社を、日本を代表する化学会社に育て上げた中興の祖。

 同社の時価総額は社長就任時と比べて10倍の7兆数千億円に拡大。塩化ビニル、半導体シリコン、シリコーンの三本柱に事業を集約し、世界規模で高シェアを獲得。高収益企業に育て上げた。

 社内の誰よりも早く出社し、世界の市況に目を凝らし、常に『現場』に居続けるトップ。しかし、その姿勢は至って謙虚だ。

「これも小田切新太郎さんや技術担当の副社長を務めた小柳俊一さんがいてくれたからです」と金川さん。先輩社長の小田切氏は当時新社長の金川さんをバックアップし、「一切の雑音を取り払ってもらいました」と当時会長の小田切氏の支援があってこその事業改革だったと振り返る。

 経営は先人から受け継ぎ、今の自分の責務を果たし、そして次の人にバトンタッチする。

 米国に拠点、シンテックをつくり、そこで33年間働き、グローバル経営に携わった現社長・斉藤恭彦さん(1955年生まれ)も「さらなる事業の進化を図っていきたい」と語る。

対話の名手がズラリ
『財界賞特別賞』は、今回のコロナ禍で地域医療を守った信州・松本の相澤病院最高経営責任者の相澤孝夫さん(1947年生まれ)。

 信州大付属病院など公的病院と民間の病院との連携を平時から取り、今回の危機時にそれを発揮、松本モデルと評された。相澤さんは日本病院会会長も務められ、病院間連携の推進にも熱心だ。

『経営者賞』は長尾裕(ヤマトホールディングス社長)、島村琢哉(AGC会長)、西川徹(プリファード・ネットワークス最高経営責任者)、山本明弘(広島市信用組合理事長)、垣内俊哉(ミライロ社長)の各氏が受賞。

 長尾さんのネット通販時代の〝置き配〟など新しい手法は、互いの信頼感の上に成り立つもの。新しいライフスタイルをつくり出したことが評価された。

 祖業ガラスから半導体関連やバイオ医薬品など新規事業を開拓したAGC・島村さん、人工知能を活用しての新たな産業の仕組みづくりに貢献しているプリファード・ネットワークスの西川さんも高い評価を受けた。

 また、地域経済の振興に融資先の経営者の資質を見定め、融資を敢然と進める広島市信組の山本さん、そして身体的障害を価値に変える『バリアバリュー』を企業理念に掲げるミライロの垣内さんと世の中を明るくする人たちの受賞。

 今年度の受賞者は、世の中との対話を見事にこなしている人たちで、大いに勇気づけられる。

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