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【わたしの一冊】『新しい経営体としての東京大学 未来社会協創への挑戦』 五神 真 著

財界オンライン 2021年12月4日 11時30分

「運営から経営へ」と転換を進める東京大学
 国内大学の競争力低下が取り沙汰されて久しい。東京大学もその例外ではない。英タイムズ・ハイアー・エデュケーションが発表する世界大学ランキングで、東大は2014年以降順位を20以上落とし、18年には46位に甘んじている。

 この間、先進国で研究力において顕著な成長を見たスタンフォード大学等は産業の知識集約化シフトに対応し、最先端の知の創造拠点としての利点を最大限に活用、収入規模の拡大とそれを利用した研究レベル上昇の好循環を実現した。まさに「経営」の勝利である。

 五神真氏は、「東大の凋落」が騒がれ始めた2015年に東大総長に就任し、「社会変革を駆動する大学」「運営から経営へ」を掲げて改革を主導。本書は、6年間の改革の成果を、そこに込めたビジョンや思いとともに記した著作である。

 特筆すべきは、著者自身が鋭い経営感覚を持つ「経営者」であることだ。例えば、著者は東大による国内初の大学債発行を主導し、改革資金200億円の調達を成功させたが、実はその前に財務の見える化による細かな資金繰り改善も行っている。まず足元の資金繰りを見直し、次に将来投資のための資金調達を行うプロセスは民間企業の財務戦略の基本だ。

 また15年に策定した「東京大学ビジョン2020」には「二一世紀の地球社会に貢献する」とあるが、これはESG、SDGsの理念そのものだ。経団連の企業行動憲章にSDGsが初登場するのは17年だから、ここでも著者の先見性は光る。

 若手研究者雇用の拡大、国内外のトップ企業との100億円オーダーの共同プロジェクト始動など、東大は変わり始めた。冒頭の世界ランキングでも東大の順位は19年以降上昇傾向だ。

 民間企業もこの変化と無関係ではない。DXとESGの時代においては、大学と同様に「知」をマネタイズする能力が企業の勝敗を分けるからだ。その意味で、本書は多くのビジネスマンにも読んでいただきたい一冊である。


冨山 和彦  経営共創基盤グループ会長/日本共創プラットフォーム社長

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