気を配る『寅年』で
2022年(令和4年)は『寅年』で、36年に1度やって来る『五黄の寅』といわれる年。
『五黄の寅』は運気が高いとされる。この年に生まれた人は、強運の持ち主だとか、生命力も強いとされ、個性的な人が多いという。
〝猛虎〟だとか、〝騎虎の勢い〟などという言葉に象徴されるように勢いのある年だということか。
もっとも、古いにしえの人は、虎を使った諺(ことわざ)で、暴走して身を破壊させないようにと戒めも込めている。
『虎の威を借る狐』は、力のない者が有力者の権威を借りることの愚かさを言っているし、『虎の尾を踏む』は、危ない事に手を出すなという戒め。しかし、虎は本来、勢いのある生きもので、『虎視眈々』と勝負を狙うのも大事。
また、リスクを取らずして物事の成就もあり得ないし、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』で使命感の下、難しい事にも挑戦していく気概も求められる。
何事も大局観、バランス感が求められるということであろう。『寅年』もいろいろ考えさせられる。
エネルギー確保は万全か
2050年には地球温暖化ガス(CO2)の排出を実質ゼロにする─という国家目標の実現にどう立ち向かうか。
「実現するには、なまさかの努力では難しい。かなりの努力を要求される」とエネルギー関係者は気を引き締める。2030年には2013年対比で46%減─という〝中間目標〟にも相当な努力が要求されるのは事実。
太陽光発電や風力発電は日が陰ったり、風が吹かない時は発電できず、蓄電池などの補助電源が不可欠。どうしても、原子力発電の活用は現状では避けられないという考え方も強まってきた。
しかし、2011年の東日本大震災では、東京電力福島第一原子力発電所が被災。メルトダウンが起き、地域住民が避難を余儀なくされた現実が重くのしかかる。
国の行方を決める政治家が〝思考停止〟状態に入り、原子力行政を担う官庁も口をつぐんだままの状態がずっと続く。
原発稼働という場合でも、もちろん、安全を担保した上での稼働だが、もし稼働させないのならば、CO2の削減目標、さらには排出実質ゼロという2050年目標とも絡めて、具体的な道筋を国民に提示しなければならない。
その意味で、目標達成へ向けての〝トランジション(Transition、移行)〟が大事になってくる。
中間目標の2030年まであと8年。発電システムをどう変え、産業や国民生活に必要なだけの電力をどう確保していくのか─。
「石油(ガソリン)や天然ガス不足が今後も続く可能性が高い。無資源国・日本の社会運営コストは高くなるばかり」というエネルギー関係者の声を真摯に受けとめ、日本経済の再生を図っていかなければならない。
牧本次生さんの提言
『国の意思』が問われている。
いま半導体不足が深刻で、自動車生産をはじめ、産業界の生産活動に支障をきたしている。
かつて1980年代、日本は半導体王国とされ、世界での生産シェアは約50%を占めた。この日本の台頭に危機感を燃やした米国は日米半導体戦争を仕掛け、日本はそれに押し込まれることになった。この時は政府間交渉と共に民間企業同士も話し合う官民並列の交渉形式が取られた。
元日立製作所専務で、その後、ソニーに招聘され同社専務となった牧本次生さん(1937年生まれ)。日立で半導体一筋に生き、半導体産業人協会理事長なども務め、半導体事情に詳しい人物である。
元々、半導体産業は米国で起きた。米国は世界で最初にトランジスタを発明し、それに続いて集積回路(IC)を発明、先導的役割を果たしてきた。
牧本さんは自らの著作『日本半導体復権への道』の中で、「米国では国民の間で広く、『半導体は国防の要である』という認識が共有されている」と指摘。大陸間弾道ミサイルなどの軍需用や宇宙ロケットなど宇宙開発での活用が中心だったと、日本との開発の違いを歴史的に叙述する。
ロボットで半導体復活を
半導体の民生用活用ということで言えば、日本はソニーが1955年(昭和30年)にトランジスタ・ラジオを発売。間もなく世界中で好評を博し、敗戦国・日本の『安かろう・悪かろう』のイメージを一変させた。
続いて白黒テレビ、電卓、時計、カラーテレビ、VTR、ウォークマンなどの製品が世界市場に投入され、日本の半導体産業も勃興。
しかし、日米半導体交渉で敗北。以後、凋落の道をたどった。
日本はテレビやVTRなど家電系生産では世界をリードしたが、80年代後半から90年代前半のパソコンの登場、そして2000年代に入ってのスマートフォン時代になると、アップルなど米企業が世界をリード。
半導体の需要先であるパソコン、スマホ分野で日本は劣勢に立たされ、日本の半導体弱体化につながった。半導体の次の主要な需要先はロボットとされる。
「ロボット分野は、日本にも地の利があります。ロボットと人間の共生へ向けて、世界トップのロボットをつくり、それに必要なAIチップを開発していくという国家目標が必要です」と牧本さんは語る。
戦略的政策づくりと共に国の役割も問われている。
藤井・東大総長の対話路線
東京大学第31代総長の藤井輝夫さん(1964年=昭和39年4月生まれ)は対話を重視する大学運営を訴える。
藤井さんは東大工学部船舶工学科を卒業(1988)後、大学院工学系研究科へ進学、経歴からも分かる通り、産学連携を推進。大学の使命、役割として研究、教育(人材育成)があるが、「物質的、経済的発展だけでは、人類のさらなる繁栄・幸福は実現できない」という基本理念で大学運営を図っていきたいという。
大学運営に3つの視点(パースペクティブ)を藤井さんは掲げる。
「知をきわめる、人をはぐくむ、そして場をつくるの3つです。場とは、自ら起点となって社会との架け橋を創っていく。そのためには対話で包摂していくという多様性を重視していきたい」
東大の年間予算規模は約2500億円。国からの交付金だけでは間に合わず、学内の知的資産を活かし、産学共創で「多様な財源の効果的な活用を図っていく方針だ」と言う。
昨年秋には、200億円の大学債を初めて発行。近く、2号債を発行する予定。この他にも1000億円程度の『法定基金(仮称)』を創出するなど、東京大学基金の拡充を図りたいとする。
藤井さんは、「対話が創造する未来」を大学運営理念に掲げる。「知るために問う」、「問いを共有する」といった言葉に藤井色が表れる。東京大学の対話力が注目される。
2022年(令和4年)は『寅年』で、36年に1度やって来る『五黄の寅』といわれる年。
『五黄の寅』は運気が高いとされる。この年に生まれた人は、強運の持ち主だとか、生命力も強いとされ、個性的な人が多いという。
〝猛虎〟だとか、〝騎虎の勢い〟などという言葉に象徴されるように勢いのある年だということか。
もっとも、古いにしえの人は、虎を使った諺(ことわざ)で、暴走して身を破壊させないようにと戒めも込めている。
『虎の威を借る狐』は、力のない者が有力者の権威を借りることの愚かさを言っているし、『虎の尾を踏む』は、危ない事に手を出すなという戒め。しかし、虎は本来、勢いのある生きもので、『虎視眈々』と勝負を狙うのも大事。
また、リスクを取らずして物事の成就もあり得ないし、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』で使命感の下、難しい事にも挑戦していく気概も求められる。
何事も大局観、バランス感が求められるということであろう。『寅年』もいろいろ考えさせられる。
エネルギー確保は万全か
2050年には地球温暖化ガス(CO2)の排出を実質ゼロにする─という国家目標の実現にどう立ち向かうか。
「実現するには、なまさかの努力では難しい。かなりの努力を要求される」とエネルギー関係者は気を引き締める。2030年には2013年対比で46%減─という〝中間目標〟にも相当な努力が要求されるのは事実。
太陽光発電や風力発電は日が陰ったり、風が吹かない時は発電できず、蓄電池などの補助電源が不可欠。どうしても、原子力発電の活用は現状では避けられないという考え方も強まってきた。
しかし、2011年の東日本大震災では、東京電力福島第一原子力発電所が被災。メルトダウンが起き、地域住民が避難を余儀なくされた現実が重くのしかかる。
国の行方を決める政治家が〝思考停止〟状態に入り、原子力行政を担う官庁も口をつぐんだままの状態がずっと続く。
原発稼働という場合でも、もちろん、安全を担保した上での稼働だが、もし稼働させないのならば、CO2の削減目標、さらには排出実質ゼロという2050年目標とも絡めて、具体的な道筋を国民に提示しなければならない。
その意味で、目標達成へ向けての〝トランジション(Transition、移行)〟が大事になってくる。
中間目標の2030年まであと8年。発電システムをどう変え、産業や国民生活に必要なだけの電力をどう確保していくのか─。
「石油(ガソリン)や天然ガス不足が今後も続く可能性が高い。無資源国・日本の社会運営コストは高くなるばかり」というエネルギー関係者の声を真摯に受けとめ、日本経済の再生を図っていかなければならない。
牧本次生さんの提言
『国の意思』が問われている。
いま半導体不足が深刻で、自動車生産をはじめ、産業界の生産活動に支障をきたしている。
かつて1980年代、日本は半導体王国とされ、世界での生産シェアは約50%を占めた。この日本の台頭に危機感を燃やした米国は日米半導体戦争を仕掛け、日本はそれに押し込まれることになった。この時は政府間交渉と共に民間企業同士も話し合う官民並列の交渉形式が取られた。
元日立製作所専務で、その後、ソニーに招聘され同社専務となった牧本次生さん(1937年生まれ)。日立で半導体一筋に生き、半導体産業人協会理事長なども務め、半導体事情に詳しい人物である。
元々、半導体産業は米国で起きた。米国は世界で最初にトランジスタを発明し、それに続いて集積回路(IC)を発明、先導的役割を果たしてきた。
牧本さんは自らの著作『日本半導体復権への道』の中で、「米国では国民の間で広く、『半導体は国防の要である』という認識が共有されている」と指摘。大陸間弾道ミサイルなどの軍需用や宇宙ロケットなど宇宙開発での活用が中心だったと、日本との開発の違いを歴史的に叙述する。
ロボットで半導体復活を
半導体の民生用活用ということで言えば、日本はソニーが1955年(昭和30年)にトランジスタ・ラジオを発売。間もなく世界中で好評を博し、敗戦国・日本の『安かろう・悪かろう』のイメージを一変させた。
続いて白黒テレビ、電卓、時計、カラーテレビ、VTR、ウォークマンなどの製品が世界市場に投入され、日本の半導体産業も勃興。
しかし、日米半導体交渉で敗北。以後、凋落の道をたどった。
日本はテレビやVTRなど家電系生産では世界をリードしたが、80年代後半から90年代前半のパソコンの登場、そして2000年代に入ってのスマートフォン時代になると、アップルなど米企業が世界をリード。
半導体の需要先であるパソコン、スマホ分野で日本は劣勢に立たされ、日本の半導体弱体化につながった。半導体の次の主要な需要先はロボットとされる。
「ロボット分野は、日本にも地の利があります。ロボットと人間の共生へ向けて、世界トップのロボットをつくり、それに必要なAIチップを開発していくという国家目標が必要です」と牧本さんは語る。
戦略的政策づくりと共に国の役割も問われている。
藤井・東大総長の対話路線
東京大学第31代総長の藤井輝夫さん(1964年=昭和39年4月生まれ)は対話を重視する大学運営を訴える。
藤井さんは東大工学部船舶工学科を卒業(1988)後、大学院工学系研究科へ進学、経歴からも分かる通り、産学連携を推進。大学の使命、役割として研究、教育(人材育成)があるが、「物質的、経済的発展だけでは、人類のさらなる繁栄・幸福は実現できない」という基本理念で大学運営を図っていきたいという。
大学運営に3つの視点(パースペクティブ)を藤井さんは掲げる。
「知をきわめる、人をはぐくむ、そして場をつくるの3つです。場とは、自ら起点となって社会との架け橋を創っていく。そのためには対話で包摂していくという多様性を重視していきたい」
東大の年間予算規模は約2500億円。国からの交付金だけでは間に合わず、学内の知的資産を活かし、産学共創で「多様な財源の効果的な活用を図っていく方針だ」と言う。
昨年秋には、200億円の大学債を初めて発行。近く、2号債を発行する予定。この他にも1000億円程度の『法定基金(仮称)』を創出するなど、東京大学基金の拡充を図りたいとする。
藤井さんは、「対話が創造する未来」を大学運営理念に掲げる。「知るために問う」、「問いを共有する」といった言葉に藤井色が表れる。東京大学の対話力が注目される。