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【政界】安定政権の確立に向けた参院選 岸田政権にとっての鍵は対中外交

財界オンライン 2021年12月24日 18時0分

※2021年12月22日時点

2010年に続き、新型コロナウイルス禍で幕を開けた21年が間もなく終わる。政界でも20年に続く首相交代劇があり、岸田文雄政権が誕生して2カ月が過ぎた。岸田は臨時国会の予算委員会で就任後初めての本格論戦に臨み、「成長と分配」などの実現を力強く訴えた。新型コロナで打撃を受けた経済の回復が最優先であることは論をまたないが、激変する国際情勢の中で岸田が日本の針路を示すためには22年夏の参院選での自民党の勝利が最低条件となる。

異例の言及

「国民の皆さんから頂いた信任を背に新型コロナを克服し、新しい時代を切り拓くという極めて難しい課題に、同僚議員、国民の皆さんと共に挑んでいきます」

 岸田は12月6日の所信表明演説で、こう呼びかけた。10月4日の就任から2カ月余り。この短期間で2回も所信表明演説を行った首相は珍しい。

 衆院選を無難に乗り切った岸田の政権運営は順風満帆といえる。新型コロナの新規感染者は低位で推移し、新しい変異株「オミクロン株」の感染拡大を阻止するための水際対策にも速やかに取り組んだ。いったんは通知した「国際線到着便の新規予約一律停止」を撤回する不手際はあったが、外国人の入国を原則全面禁止したことに9割が評価した世論調査結果もある。

 岸田は周辺に「危機管理の要諦は最悪を想定し、大きく構えることだ」と語る。まずは大げさと思えるほどの対策を素早く、幅広く打ち出し、必要がなければ対応を縮小させるとの趣旨だ。安倍晋三、菅義偉両政権の新型コロナ対策が後手と非難され、退任に追い込まれた要因となった教訓を生かした形だ。

 所信表明演説では「新しい資本主義の実現」を掲げ、「成長と分配の好循環」といった「岸田カラー」の政策が並んだ。官邸には、新しい資本主義関連以外に、経済安全保障、デジタル田園都市国家構想などに関する協議体が次々と立ち上がり、乱立気味に見える。

「企業への3%賃上げ要請」といった打ち出しもあるが、安倍のアベノミクスや、菅のデジタル庁創設といった看板政策と比べ、やはり具体性は乏しい。「面白みはないが、手堅い」という岸田の性格を反映したような政権運営ともいえる。

 とはいえ、霞が関のある高級官僚は、6日の所信表明演説について「画期的な内容が入っていた」と興奮気味に語る。それが次の一文だ。

「国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます」

 国会で「敵基地攻撃能力」に言及した歴代首相は珍しい。安倍は予算委員会などで質問され、「保有の検討」と答えたことはあったが、施政方針演説や所信表明演説では触れなかった。20年9月の退任直前に発表した談話でも明言せず、「ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針」との表現にとどめた。
 
 22年末には、外交・安保政策の根幹となる戦略3文書(国家安全保障戦略= NSS =、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画)が改定される予定だ。岸田はミサイル技術を高度化させる北朝鮮や、東・南シナ海で挑発行為を続ける中国に対抗する措置が不可欠と判断したことになり、岸田の側近は、敵基地攻撃能力への言及を「不退転の決意だ」と説明する。

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対公明党が課題

 そんな岸田を、連立政権を組む公明党が牽制した。代表の山口那津男は12月6日の岸田の演説後、記者団に「そこ(敵基地攻撃能力)に主眼があるのではない」と述べた。

 7日の記者会見では、公明党の見解が軟化したのかどうかを問われ、「後退したとか前進したとか、そういう決め付けはやめなさい! 」と声を荒げた。

「平和の党」を掲げる公明党にとって、敵基地攻撃能力の保有を認めることは、かなりハードルが高い。新型コロナ対応に注力していたとはいえ、公明党とのパイプが太い菅も、保有の検討に着手しないまま退任した。岸田が目標を実現させるためには、与党・公明党の理解が欠かせないが、岸田の公明党との人脈は細い。

 同じことは、岸田が自民党総裁任期中の実現を目指す憲法改正でも言える。公明党は改憲に積極的とはいえず、自民党が改憲4項目の一つに挙げる9条への「自衛隊明記」に反対することは必至だ。

 公明党の理解を得るため、自民党内には「岸田が菅に頭を下げるしかない」との声も漏れる。岸田とそりがあわない菅は、岸田が勝利した9月の党総裁選でも、腹心の党広報本部長・河野太郎を支援した。しかし、今や世界トップ級となったワクチン接種の加速化に象徴されるように、目の前の課題に懸命に取り組む菅は「仕事師」とも称される。

 菅に近い自民党議員は「国のために必要なことならば、恩讐を超えて岸田を支えるだろう」と語る。22年はこれらの項目の与党間調整に注目が集まることになりそうだ。

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立民新体制の行方

 そんな中、野党第一党の顔が変わった。盛り上がりに欠けた立憲民主党の代表選は泉健太氏が勝利し、新代表に就任した。

 泉のほか、政調会長の小川淳也、国対委員長の馬淵澄夫、選対委員長の大西健介は希望の党出身で、代表代行の逢坂誠二は立民発足直後だった17年の衆院選は無所属だった。

 立民創設時からのメンバーは幹事長の西村智奈美ぐらいで、党創設者の前代表・枝野幸男の個性が強かった時代から、雰囲気はずいぶんと変わった。

 一方で、変わったのは「表紙」だけともいえる。泉は憲法改正の議論に前向きな姿勢を示しつつ、「憲法改正を目的とする憲法改正ではいけない」としている。枝野の路線と同じであり、泉は自民党改憲案についても「国民からの要請とは言いがたい」と否定的だ。

 枝野が進めた衆院選での共産党などとの選挙区候補者調整は、結果的に立民も共産党も議席を減らした。泉は共産党との共闘の在り方を見直す考えは示すが、22年夏の参院選で32ある1人区での野党候補一本化は否定していない。

 なぜなら、衆院選の結果を基にした参院選のシミュレーションが、あまりにも衝撃的だったからだ。衆院選で共闘した立民や共産党などの野党5党の比例票を合算し、参院選の改選数1の1人区にあてはめると、野党側の2勝30敗との計算になった。衆院選の野党5党などの候補の選挙区の得票を基にした試算でも4勝28敗となった。

 野党が1人区で初めて本格的に統一候補を擁立した16年の参院選は野党の11勝21敗、前回の19年は10勝22敗だった。立民と共産党が1人区で別々の候補を擁立すれば票を食い合い、大惨敗になりかねない。立民議員は「今さら共産党との連携は解消できない」と話す。

 しかも野党5党の中には、衆院選後に立民と距離を置きつつある国民民主党も含まれている。衆院選で議席を伸ばした国民民主は「提案型」を強調し、日本維新の会と国会運営で連携し始めた。参院選で立民や共産党と連携するかどうかは不透明で、その場合、立民などの議席はさらに減ることになり得る。

 参院選で勝利すれば岸田の足元は盤石となる。野党の弱体ぶりをみれば、それも実現可能にみえるが、課題は多い。

 新型コロナの感染状況が引き続き落ち着くことを大前提とし、岸田にまず訪れる外交課題は22年2月に行われる北京冬季五輪への対応だろう。

 米政府は12月7日、中国当局による新疆ウイグル自治区などでの人権侵害に抗議する姿勢を示すため、「外交ボイコット」を正式に表明した。大統領報道官のサキは記者会見で「北京五輪・パラリンピックに外交的、公式的な代表を派遣しない」と明言した。

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対中外交が焦点に

 中国政府は直ちに「強烈な不満と断固とした反対」(外務省副報道局長の趙立堅)を表明し、対抗措置を取ると明言した。

 独裁体制を盤石にしつつある国家主席の習近平にとって、世界の注目が集まる北京五輪は国家と自らの威信をかけた一大プロジェクトだ。是が非でも成功させなければならないイベントであり、中国は28年の米ロサンゼルス夏季五輪への外交ボイコットもちらつかせる。

 経済や軍事面で激化している米中の対立が、スポーツの祭典にも影響した格好で、12月8日には、米国に続いてオーストラリアや英国なども外交ボイコットを表明し、同様の動きはさらに広がる気配を見せている。

 岸田は7日、記者団に「国益の観点から自ら判断していきたい」と述べるにとどめた。岸田政権は新たに国際人権問題担当の首相補佐官を設けた。一連の経済安全保障策も、もとはといえば中国などに依存しがちなサプライチェーン(供給網)の在り方を見直し、日本が同盟国などと連携して自立した経済を確立していく狙いがある。

 ましてや同盟国・米国と反対の行動を北京五輪に際してとるとは考えにくいが、岸田はなお慎重だ。

 はっきりしない対応の理由として、一部には岸田が「親中派」だからだと批判する向きもある。こうした指摘に対し、岸田自身は周辺に「決して親中派ではない」と否定する。

 岸田率いる宏池会(岸田派)の会長を務めた元首相の大平正芳は、盟友の田中角栄が首相として1972年に成し遂げた日中国交正常化当時の外相だった。加藤紘一や古賀誠ら宏池会の歴代幹部は確かに「親中派」が目立つ。

 第2次岸田政権で外相に起用された宏池会所属の林芳正も、就任前まで超党派の日中友好議員連盟会長を務めていた「親中派」と位置付けられる。

 だが、岸田がよく持ち出すエピソードとして、安倍政権の下で約4年8カ月務めた外相時代、中国国務委員兼外相の王毅に何度も面会を断られたとの話がある。軍拡や人権問題について抗議する岸田を嫌ったためだとされ、岸田は周辺に「何度言っても会ってくれない。こちらが厳しいことを言うことが分かっているからだ」とこぼしていた。

 今度はトップとして毅然とした対応がとれるかどうかが試されている。 (敬称略)

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