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【新型コロナ】国産ワクチン・治療薬の開発は、なぜ遅れているのか? 塩野義製薬社長が語る

財界オンライン 2022年1月1日 7時0分

個人が訴えられた「薬害エイズ訴訟」

 ── 新型コロナの国産ワクチン・治療薬開発に向けて努力している塩野義製薬社長の手代木功さん、新薬開発の現状と課題について聞かせて下さい。

 手代木 難しい課題に直面しています。現在、日本で承認を受けた薬やワクチンというのは「特例承認」という、海外で承認を受けたものを特例的に日本で承認するという制度で承認されたもの以外、1つもありません。

 すなわち、日本国内で研究開発して、データを作って、厚生労働省なりPMDA(医薬品医療機器総合機構)にデータを出して、日本として判断して承認した薬が現時点で1つもないということです。これは、非常に大きな問題点を将来に残していると思います。

 審査のレベルに関して、日本はとても高いと思うのですが、国内で開発して販売をするということに対して、今回のパンデミックを契機として、欧米とずいぶん差が付いてしまった印象はあります。

 2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)以来、4~5年に一度、大小含めたパンデミック(世界的流行)が起きていますので、今後も起こる可能性がある中で、日本での研究開発、並びに審査制度をどのように改善をしていくかは非常に大きな課題だと思っています。
 
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 ── 日本で新薬の承認が進まない理由とは?

 手代木 日本の製薬企業が欧米の製薬企業の開発スピードに劣後したという点はもちろんあり、忸怩たる思いがあります。一方で、審査という面で見ると、かつての薬害エイズ訴訟の際に、当時の厚生省の方々が個人訴追をされたことが尾を引いていると思います。1つの審査を丹念に行って、公として答えを出しても、後日何かが起きれば個人として訴追されるのであっては、審査する側が躊躇するのは当然です。。

 一方、FDA(米食品医薬品局)は約1700件の訴訟を抱えているそうですが、全て対FDAで、個人訴追は1件もありません。今のままでは、日本では、国民のためにリスクを取って薬の研究開発を行い、それを審査・承認していこうというところに進んでいくのは難しいと思います。この問題は国会も含めて議論していただきたいと思います。

 ── 経済安全保障の観点からも国産ワクチンは重要ですね。

 手代木 我々は国内工場にかなりの経営資源を割いていますし、調達している部材もほとんどが日本メーカーのものです。そこでできたワクチンを、例えば国が資金を出して買い取るということになれば、国内に国産ワクチンをつくるエコシステムができます。

 今回は時間優先で海外からの調達は間違いなかったと思いますが、今後を考えると国のお金が海外に流れていってしまう。国民を守ると同時に産業育成の見地から、命を守る産業に関しては国内で一定以上のエコシステムを持つことが、今後ますます重要ではないかと思います。

 ── 手代木さんは2030年に向けて「HaaS」(ヘルスケア・アズ・ア・サービス)という概念を提唱していますね。

 手代木 日本の国民皆保険は世界でも圧倒的にレベルが高く、夢の制度と言っていいほどです。一方、少子高齢化が進む中で、今のままの形で、制度を維持していくことは困難になってきています。サービスに対して応分の負担というのを議論していかないと、私どもの子ども・孫の時代に、この制度を残していくことは難しいと思います。

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