※2022年1月12日時点
新年が始まった。首相の岸田文雄にとっては自らの足場を固める重要な年になる。夏の参院選さえ乗り切れば当面は国政選挙がなく、ショートリリーフという下馬評を覆して本格政権が視野に入ってくる。山積する内政・外交の課題に「岸田カラー」を出しやすくなるだろう。ただ、寅年の政治は混乱するというジンクスがあり、岸田も油断はできない。自民党内の実力者は互いにけん制し合いながら、万が一に備えて岸田政権を値踏みしようと目を光らせている。
「再建」巡る綱引き
「総裁選のいきさつがある。最初から支持してくれた麻生さんとは違うよ」。岸田に近い自民党のベテラン議員は、元首相・安倍晋三に対する岸田の思いを推し量った。数学に例えると、岸田、党副総裁の麻生太郎、安倍を三つの頂点にした三角形の各辺の長さが今後どう変わるかが、2022年の政界を占う重要なポイントだ。
昨年末、象徴的な場面があった。12月7日に開かれた自民党財政健全化推進本部の役員会で、最高顧問の麻生は「政調会長の下に同じく財政に関する機関が一つできた。そちらの最高顧問が安倍(元)総理で、こちらが麻生太郎。二つをおもしろく書いてやろうと考えるのがマスコミだ。党内でも安倍と麻生は近ごろ(関係が)おもしろくないとか(言う人がいる)。そういった方々のエサになるのは断固避けねばならん」とあいさつした。会合には岸田も出席していた。
その少し前、党政務調査会に財政政策検討本部が発足した。積極財政論者として知られる西田昌司参院議員を本部長に、安倍が最高顧問、政調会長の高市早苗が顧問を務める。安倍が昨年9月の総裁選で高市を全面支援したのは周知の通りだ。
2つの本部の成り立ちを整理しておく。もともと党政調には財政再建推進本部があった。高市は会長就任後、それを財政政策検討本部に衣替えした。「再建」の文字を消したことからわかるように、参院選に向けて歳出圧力を強めるのが狙いだ。党内では積極財政派が勢いを増している。「真水」で31・6兆円の経済対策を盛り込んだ21年度補正予算には、30兆円超を求めた安倍らの意向が色濃く反映された。
危機感を強めた党内の財政再建派は巻き返しを図る。元財務相の額賀福志郎が岸田のもとに駆け込み、財政健全化推進本部の設置が決まった。しかも同本部は総裁直轄の組織で、財政政策検討本部より格上。それを知った高市は「首相官邸が過剰反応した」と周囲に不快感を隠さなかったという。
もちろん「岸田・麻生」対「安倍・高市」という単純な図式ではない。麻生と安倍の盟友関係は続いている。ただ、岸田が党の財政政策を高市任せにしない姿勢を示したことは、背後にいる安倍へのメッセージでもあるだろう。岸田は「年明け(22年)から財政健全化目標を検証する」と明言している。
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「世の中甘くない」
岸田派と麻生派の間では「大宏池会」構想が長く取りざたされてきた。岸田政権の誕生を受けて合流を急ぐ考えは岸田にも麻生にもないが、両派と谷垣グループが連携すれば最大派閥の安倍派に匹敵する勢力になる。さらに岸田は衆院選後、幹事長の茂木敏充とも麻生を交えて会合を重ねている。
旧経世会の流れをくむ平成研究会は党参院議員会長を務めた青木幹雄の影響力が今も残り、前会長の竹下亘の死去に伴う後継選びはすんなりいかなった。しかし、岸田が茂木を幹事長に抜てきしたことで「茂木会長」の流れができ、「青木さんも最後はしぶしぶ了承した」(永田町関係者)とされる。
茂木派は昨年12月、2人が新たに入会して53人に増え、麻生派と並ぶ党内第2派閥になった。ただ、茂木派議員は「麻生派を追い抜くつもりはない。そこは幹事長も配慮している」と明かす。故小渕恵三以来の同派からの総裁誕生に向け、茂木自身も戦略を巡らし始めたようだ。
そうした中、12月13日に茂木派の政治資金パーティーが東京都内で開かれた。来賓の岸田は「宏池会は『お公家集団』、政策
には強いが政局には弱いと揶揄されてきた。政策にも政局にも強い宏池会を目指したいが、世の中甘くない。引き続き平成研にしっかり支えていただかなきゃいけない」と茂木派を持ち上げた。
外交面でも岸田と茂木の足並みはそろっている。
高市や日本ウイグル国会議員連盟会長の古屋圭司らは12月17日、党本部で茂木と面会し、中国の人権侵害を非難する国会決議を臨時国会中に採択するよう求めた。しかし、茂木は「決議の内容はいいが、北京冬季オリンピックに政府関係者を派遣するかどうか世論が注目している中でタイミングがよくない」と拒否。高市らの説得にも最後まで首を縦に振らず、通常国会に続いて採択は見送られた。その時点で政府は外交的ボイコットを公式に認めておらず、茂木が党側の圧力を押しとどめた形だ。
前首相の菅義偉も再始動した。新型コロナウイルス対策が後手に回って内閣支持率が急落し、衆院選を前に総裁再選の道が阻まれたものの、退陣後に新型コロナの新規感染者数は激減し、再評価する声が出ている。
総裁選のいきさつから菅と岸田には溝がある。そのため、菅が派閥を結成して二階派や森山派(旧石原派)と組むのではないかという臆測は絶えない。安倍は12月3日のインターネット番組で「菅さんが派閥を作ろうと思えば簡単に結成できるのではないか」と述べた。その前日に経済産業相の萩生田光一や前官房長官の加藤勝信と一緒に菅と食事をしたことも明かし、良好な関係をアピールした。
間もなく、菅は訪問先の沖縄県で、脱炭素やデジタル化、少子化対策などの課題を挙げ「理解をいただいている同志のみなさんと力を合わせて実現していきたい」と呼応した。菅を支援する若手議員でつくる「ガネーシャの会」などが念頭にある。
ただ、首相在任中に菅が窮地に陥った際には、そうした無派閥議員グループの限界が露呈した。菅は派閥結成に消極的との見方は党内に根強くあるが、失敗を教訓に慎重にチャンスをうかがっているようにも映る。
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過去には首相交代も
寅年政変説には根拠がある。12年前の2010年は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡る混乱で社民党が民主党などとの連立政権から離脱し、当時の鳩山由紀夫首相と民主党の小沢一郎幹事長が6月に辞任した。後継の菅直人首相のもと、翌月の参院選で民主党は大敗し、連立を組む国民新党と合わせても参院の過半数を割り込んだ。これを境に、民主党政権は発足から1年足らずで下り坂に転じた。98年は金融不況が日本を襲い、参院選での自民党惨敗を受けて橋本龍太郎内閣が総辞職している。
安倍政権時代の16年と19年の参院選では、政権幹部が衆院選との同日選をちらつかせて求心力を維持した。しかし、衆院選が終わったばかりの今回、岸田はこの手法を使えない。政権交代に直結しない分、有権者が参院選で与党におきゅうを据えやすいとも言える。7月で9カ月になる岸田政権が掛け値なしに評価されるわけだ。
最大の懸案は今年も新型コロナだろう。変異株「オミクロン株」は強い感染力を持つとされ、今冬の「第6波」に専門家は警戒を呼びかけている。デルタ株より重症化しにくいという研究結果はあるものの、予断を許さない。
岸田は昨年12月、医療従事者や高齢者ら計3100万人の3回目のワクチン接種を「2回目接種から8カ月後」から最大2カ月前倒しする方針を表明した。前倒しのため、国にあるモデルナ、ファイザー両社製のワクチン700万回分を追加配送し、自治体に残っているファイザー社製とモデルナ社製の計890万回分の在庫活用も求める。供給面の問題から、前倒しの対象者を絞らなければならなかったのが実情だ。首相官邸幹部は「自治体がワクチン不足で混乱しないようかなり意識している」と苦悩を語る。
政権発足から間もないとはいえ、政策決定のつたなさも目に付く。18歳以下への10万円相当の給付は、自民、公明両党幹事長の昨年11月の協議で「年内に現金5万円、来春にクーポンで5万円」の枠組みが決まったが、その後、クーポン配布に967億円の費用がかかることが判明。自治体の猛反発を受けて、政府は「現金5万円を2回給付」「現金10万円を一括給付」も認める方針に転じた。
公明党はもともと全額現金給付を主張していたが、バラマキ批判を恐れた自民党と財務省が半分をクーポンにするよう押し返した経緯がある。困窮者支援と消費喚起を組み合わせた妥協の産物だった。しかし、給付を3パターンに広げたことで、政策目的は一層あいまいになってしまった。「過ちては改むるに憚ること勿れ」(論語)と言われるが、「ぶれ」を繰り返すようだと政権の足元は揺らぐ。
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合従連衡の野党
野党では衆院選で41議席を獲得した日本維新の会が勢いを維持している。毎日新聞の昨年12月の定例世論調査で支持率は22%まで伸び、27%の自民党に迫った。維新とパイプのある菅は「参院選でも議席を増やすだろう」と周囲に語る。
一方、国民民主党と、都知事の小池百合子が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」は昨年12月、政策に関する意見交換会を始めた。国民代表の玉木雄一郎はかつて、小池が結成した旧希望の党に所属していただけに親和性は高い。
都民フは、先の衆院選には準備不足で間に合わなかったが、参院選に候補者を立てて国政進出を目指す方針だ。国民との意見交換会をその地ならしと見る向きもある。
自民党の閣僚経験者は「小池が玉木に接近したのは維新と組みたいからだ」と指摘する。維新、国民両党は衆院選後、国会で「第三極」として連携を強めており、組み合わせとしてはあり得る。ただ、維新は地盤の大阪から全国に展開するチャンスを迎えているだけに、都民フとの東西での単純なすみ分けには乗らない可能性がある。
泉健太を新代表に据えた立憲民主党は党勢回復に向けた試行錯誤が続いている。連合会長の芳野友子は立憲に共産党との決別を促す発言を繰り返すが、参院選の1人区(改選数1)で立憲が共産票を当てにせずに戦うのは難しい。泉はいずれ、連合か共産かの踏み絵を迫られるだろう。
今のところ岸田政権に大きな死角は見当たらない。「政高党低」ではなく「政高党高」を目指すというのが岸田の持論。自身が主導権を握りつつ、党の意向も尊重するという器用なさばきができれば、前政権までとはひと味違った宰相になる道が開ける。 (敬称略)
【政界】安定政権の確立に向けた参院選 岸田政権にとっての鍵は対中外交
新年が始まった。首相の岸田文雄にとっては自らの足場を固める重要な年になる。夏の参院選さえ乗り切れば当面は国政選挙がなく、ショートリリーフという下馬評を覆して本格政権が視野に入ってくる。山積する内政・外交の課題に「岸田カラー」を出しやすくなるだろう。ただ、寅年の政治は混乱するというジンクスがあり、岸田も油断はできない。自民党内の実力者は互いにけん制し合いながら、万が一に備えて岸田政権を値踏みしようと目を光らせている。
「再建」巡る綱引き
「総裁選のいきさつがある。最初から支持してくれた麻生さんとは違うよ」。岸田に近い自民党のベテラン議員は、元首相・安倍晋三に対する岸田の思いを推し量った。数学に例えると、岸田、党副総裁の麻生太郎、安倍を三つの頂点にした三角形の各辺の長さが今後どう変わるかが、2022年の政界を占う重要なポイントだ。
昨年末、象徴的な場面があった。12月7日に開かれた自民党財政健全化推進本部の役員会で、最高顧問の麻生は「政調会長の下に同じく財政に関する機関が一つできた。そちらの最高顧問が安倍(元)総理で、こちらが麻生太郎。二つをおもしろく書いてやろうと考えるのがマスコミだ。党内でも安倍と麻生は近ごろ(関係が)おもしろくないとか(言う人がいる)。そういった方々のエサになるのは断固避けねばならん」とあいさつした。会合には岸田も出席していた。
その少し前、党政務調査会に財政政策検討本部が発足した。積極財政論者として知られる西田昌司参院議員を本部長に、安倍が最高顧問、政調会長の高市早苗が顧問を務める。安倍が昨年9月の総裁選で高市を全面支援したのは周知の通りだ。
2つの本部の成り立ちを整理しておく。もともと党政調には財政再建推進本部があった。高市は会長就任後、それを財政政策検討本部に衣替えした。「再建」の文字を消したことからわかるように、参院選に向けて歳出圧力を強めるのが狙いだ。党内では積極財政派が勢いを増している。「真水」で31・6兆円の経済対策を盛り込んだ21年度補正予算には、30兆円超を求めた安倍らの意向が色濃く反映された。
危機感を強めた党内の財政再建派は巻き返しを図る。元財務相の額賀福志郎が岸田のもとに駆け込み、財政健全化推進本部の設置が決まった。しかも同本部は総裁直轄の組織で、財政政策検討本部より格上。それを知った高市は「首相官邸が過剰反応した」と周囲に不快感を隠さなかったという。
もちろん「岸田・麻生」対「安倍・高市」という単純な図式ではない。麻生と安倍の盟友関係は続いている。ただ、岸田が党の財政政策を高市任せにしない姿勢を示したことは、背後にいる安倍へのメッセージでもあるだろう。岸田は「年明け(22年)から財政健全化目標を検証する」と明言している。
【厚生労働省】こども家庭庁、23年度発足へ 担当相を配置し勧告権も
「世の中甘くない」
岸田派と麻生派の間では「大宏池会」構想が長く取りざたされてきた。岸田政権の誕生を受けて合流を急ぐ考えは岸田にも麻生にもないが、両派と谷垣グループが連携すれば最大派閥の安倍派に匹敵する勢力になる。さらに岸田は衆院選後、幹事長の茂木敏充とも麻生を交えて会合を重ねている。
旧経世会の流れをくむ平成研究会は党参院議員会長を務めた青木幹雄の影響力が今も残り、前会長の竹下亘の死去に伴う後継選びはすんなりいかなった。しかし、岸田が茂木を幹事長に抜てきしたことで「茂木会長」の流れができ、「青木さんも最後はしぶしぶ了承した」(永田町関係者)とされる。
茂木派は昨年12月、2人が新たに入会して53人に増え、麻生派と並ぶ党内第2派閥になった。ただ、茂木派議員は「麻生派を追い抜くつもりはない。そこは幹事長も配慮している」と明かす。故小渕恵三以来の同派からの総裁誕生に向け、茂木自身も戦略を巡らし始めたようだ。
そうした中、12月13日に茂木派の政治資金パーティーが東京都内で開かれた。来賓の岸田は「宏池会は『お公家集団』、政策
には強いが政局には弱いと揶揄されてきた。政策にも政局にも強い宏池会を目指したいが、世の中甘くない。引き続き平成研にしっかり支えていただかなきゃいけない」と茂木派を持ち上げた。
外交面でも岸田と茂木の足並みはそろっている。
高市や日本ウイグル国会議員連盟会長の古屋圭司らは12月17日、党本部で茂木と面会し、中国の人権侵害を非難する国会決議を臨時国会中に採択するよう求めた。しかし、茂木は「決議の内容はいいが、北京冬季オリンピックに政府関係者を派遣するかどうか世論が注目している中でタイミングがよくない」と拒否。高市らの説得にも最後まで首を縦に振らず、通常国会に続いて採択は見送られた。その時点で政府は外交的ボイコットを公式に認めておらず、茂木が党側の圧力を押しとどめた形だ。
前首相の菅義偉も再始動した。新型コロナウイルス対策が後手に回って内閣支持率が急落し、衆院選を前に総裁再選の道が阻まれたものの、退陣後に新型コロナの新規感染者数は激減し、再評価する声が出ている。
総裁選のいきさつから菅と岸田には溝がある。そのため、菅が派閥を結成して二階派や森山派(旧石原派)と組むのではないかという臆測は絶えない。安倍は12月3日のインターネット番組で「菅さんが派閥を作ろうと思えば簡単に結成できるのではないか」と述べた。その前日に経済産業相の萩生田光一や前官房長官の加藤勝信と一緒に菅と食事をしたことも明かし、良好な関係をアピールした。
間もなく、菅は訪問先の沖縄県で、脱炭素やデジタル化、少子化対策などの課題を挙げ「理解をいただいている同志のみなさんと力を合わせて実現していきたい」と呼応した。菅を支援する若手議員でつくる「ガネーシャの会」などが念頭にある。
ただ、首相在任中に菅が窮地に陥った際には、そうした無派閥議員グループの限界が露呈した。菅は派閥結成に消極的との見方は党内に根強くあるが、失敗を教訓に慎重にチャンスをうかがっているようにも映る。
【国土交通省】新たな変異株の拡大を警戒 訪日客モニターツアー見送り
過去には首相交代も
寅年政変説には根拠がある。12年前の2010年は、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題を巡る混乱で社民党が民主党などとの連立政権から離脱し、当時の鳩山由紀夫首相と民主党の小沢一郎幹事長が6月に辞任した。後継の菅直人首相のもと、翌月の参院選で民主党は大敗し、連立を組む国民新党と合わせても参院の過半数を割り込んだ。これを境に、民主党政権は発足から1年足らずで下り坂に転じた。98年は金融不況が日本を襲い、参院選での自民党惨敗を受けて橋本龍太郎内閣が総辞職している。
安倍政権時代の16年と19年の参院選では、政権幹部が衆院選との同日選をちらつかせて求心力を維持した。しかし、衆院選が終わったばかりの今回、岸田はこの手法を使えない。政権交代に直結しない分、有権者が参院選で与党におきゅうを据えやすいとも言える。7月で9カ月になる岸田政権が掛け値なしに評価されるわけだ。
最大の懸案は今年も新型コロナだろう。変異株「オミクロン株」は強い感染力を持つとされ、今冬の「第6波」に専門家は警戒を呼びかけている。デルタ株より重症化しにくいという研究結果はあるものの、予断を許さない。
岸田は昨年12月、医療従事者や高齢者ら計3100万人の3回目のワクチン接種を「2回目接種から8カ月後」から最大2カ月前倒しする方針を表明した。前倒しのため、国にあるモデルナ、ファイザー両社製のワクチン700万回分を追加配送し、自治体に残っているファイザー社製とモデルナ社製の計890万回分の在庫活用も求める。供給面の問題から、前倒しの対象者を絞らなければならなかったのが実情だ。首相官邸幹部は「自治体がワクチン不足で混乱しないようかなり意識している」と苦悩を語る。
政権発足から間もないとはいえ、政策決定のつたなさも目に付く。18歳以下への10万円相当の給付は、自民、公明両党幹事長の昨年11月の協議で「年内に現金5万円、来春にクーポンで5万円」の枠組みが決まったが、その後、クーポン配布に967億円の費用がかかることが判明。自治体の猛反発を受けて、政府は「現金5万円を2回給付」「現金10万円を一括給付」も認める方針に転じた。
公明党はもともと全額現金給付を主張していたが、バラマキ批判を恐れた自民党と財務省が半分をクーポンにするよう押し返した経緯がある。困窮者支援と消費喚起を組み合わせた妥協の産物だった。しかし、給付を3パターンに広げたことで、政策目的は一層あいまいになってしまった。「過ちては改むるに憚ること勿れ」(論語)と言われるが、「ぶれ」を繰り返すようだと政権の足元は揺らぐ。
経済安全保障担当大臣に聞く! 経済安全保障政策をどう構築するか?
合従連衡の野党
野党では衆院選で41議席を獲得した日本維新の会が勢いを維持している。毎日新聞の昨年12月の定例世論調査で支持率は22%まで伸び、27%の自民党に迫った。維新とパイプのある菅は「参院選でも議席を増やすだろう」と周囲に語る。
一方、国民民主党と、都知事の小池百合子が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」は昨年12月、政策に関する意見交換会を始めた。国民代表の玉木雄一郎はかつて、小池が結成した旧希望の党に所属していただけに親和性は高い。
都民フは、先の衆院選には準備不足で間に合わなかったが、参院選に候補者を立てて国政進出を目指す方針だ。国民との意見交換会をその地ならしと見る向きもある。
自民党の閣僚経験者は「小池が玉木に接近したのは維新と組みたいからだ」と指摘する。維新、国民両党は衆院選後、国会で「第三極」として連携を強めており、組み合わせとしてはあり得る。ただ、維新は地盤の大阪から全国に展開するチャンスを迎えているだけに、都民フとの東西での単純なすみ分けには乗らない可能性がある。
泉健太を新代表に据えた立憲民主党は党勢回復に向けた試行錯誤が続いている。連合会長の芳野友子は立憲に共産党との決別を促す発言を繰り返すが、参院選の1人区(改選数1)で立憲が共産票を当てにせずに戦うのは難しい。泉はいずれ、連合か共産かの踏み絵を迫られるだろう。
今のところ岸田政権に大きな死角は見当たらない。「政高党低」ではなく「政高党高」を目指すというのが岸田の持論。自身が主導権を握りつつ、党の意向も尊重するという器用なさばきができれば、前政権までとはひと味違った宰相になる道が開ける。 (敬称略)
【政界】安定政権の確立に向けた参院選 岸田政権にとっての鍵は対中外交