”就社”か、”就職”か
日立製作所が本体の全社員を対象に、働き手が専門性を発揮できるよう職務内容を明確に定める「ジョブ型雇用」を導入する。欧米では一般的なジョブ型雇用への移行で、日本の雇用形態を見直す契機となるか――。
「ジョブ型」というのは、会社ありきではなく、まず仕事(ジョブ)ありきの制度。仕事に社員を割り当て、働く側もその仕事の専門家であることを意識して仕事を行う。職務を細分化して明確にし、その上で給料などの待遇が決まっていく。
一方、これまで一般的な日本企業が行ってきたのは「メンバーシップ型」と呼ばれ、まず会社があって、仕事を会社が社員に割り当てていく。いわゆる総合職のようなもので、会社の意向に沿って、時に転勤もあれば、様々な職務を遂行することが求められる。
イメージとしては、メンバーシップ型が”就社”、ジョブ型が”就職”と言ったところか。
ただ、メンバーシップ型とジョブ型にはそれぞれメリットもデメリットもある。メンバーシップ型では多様な仕事が求められる分、専門性が低くなりがちだし、ジョブ型では職務のレベルが上がらない限り、どんなに長年働いても昇給も昇進もできない。そうした厳しい現実があることも事実だ。
日立ではこの10年ほどの間に、全世界の人材(同社では人財という)情報を把握し、役割や仕事の基準を明確化するための人事制度や人事プラットフォームを構築してきた。すでに管理職にはジョブ型を導入。今後は本体の社員約3万人にもジョブ型制度を適用し、順次、国内の関連会社にも適用できるかを判断していく考え。
日立の改革に関して、日本共創プラットフォーム社長の冨山和彦氏は「日本でいう終身年功制とセットになったメンバーシップ型雇用みたいなものは、まともな先進国にはそもそもない。あれが成り立ったのは、産業的には加工貿易型の工業化モデルで右肩上がりの成長期と若い人が多い人口増期という組み合わせがあったからで、それが崩れたらそもそも成り立たない」と指摘する。
その上で、冨山氏は「製造業は活動のグローバル化を進めているので、大半の社員は日本型メンバーシップで働いてはいないし、情報化モデルの到来で事業の寿命は短くなり、組織能力の入れ替えスピードが速くなると終身年功モデルは競争力を失い、人口構成が逆ピラミッドでは上司2人に部下1人となって成り立たない。だから未だにそれが残っていることが異様で、日立がやっていることは時代の趨勢の中でおくればせながら当たり前のことをやっているだけ」と受け止めているようだ。
〈日本の原発政策はどうなる?〉日立とGEがカナダで小型原子炉を受注
日本的な雇用を見直す一つのきっかけに…
では、日本企業のこうした雇用形態の転換に関して、専門家はどのように考えているのか。
組織論が専門の同志社大学政策学部教授の太田肇氏は「今は大企業の多くがジョブ型を取り入れようとしているが、現実的に制度や慣行、法律の壁にぶつかって修正を余儀なくされている会社がほとんど。その結果、ハイブリッド型であるとか、日本式ジョブ型といった形を模索してきたわけだが、法律や慣行は国によって違うので、一様に海外と同じことを日本の企業に当てはめるのは難しい」という。
日本では海外に比べて解雇がしにくい。また、仕事時間ではなく、成果を重視するジョブ型においては、労働時間を管理する労働基準法などの壁もあるし、社会通念上、年齢や勤続年数によって給料が上がっていく従来のメンバーシップ型に慣れた国民が、職務レベルが上がらない限り、昇給や昇進ができないという現実を受け入れられるのかという問題など、様々な制約があるのも事実である。
「今後はジョブ型とメンバーシップ型が社内に混在するような働き方になるのではないか。メンバーシップ型を基本に特定の職種や中高年にはジョブ型を取り入れるとか、特に70歳定年という時代になってくると、ジョブ型を取り入れないともたないと思う。例えば60歳以上はジョブ型にするとか、早い段階でジョブ型を選んでもらえるような仕組みづくりが必要」(太田氏)
一方で、ジョブ型の雇用形態が定着すると、どうしても会社そのものに対する忠誠心や帰属意識のようなものは薄まってくるだろう。その辺のバランスはどう考えていけばいいのか。
太田氏は「ある意味でドライな関係になっていくので、今まで通りの忠誠心は期待できない。そこは割り切らないといけないだろう。会社にいることのメリットやキャリアアップにつながるとか、そういったもので惹きつけていくしかない。かつての運命共同体のような帰属意識を社員に求めるのは難しいと思う。今までの日本的な雇用を見直す一つのきっかけになるのではないか」と語る。
個々の企業がどこを目指し、従業員をどう育てていくか。そして、個々人は自分のキャリア形成をどのように考えていくのか。経営者のみならず、企業に所属する社員一人ひとりが自ら責任感と使命を持ち、それを実践していく時代を迎えたと言ってよい。
新政権の成長政策、 分配政策はどうあるべきか? 竹森俊平氏に聞く
日立製作所が本体の全社員を対象に、働き手が専門性を発揮できるよう職務内容を明確に定める「ジョブ型雇用」を導入する。欧米では一般的なジョブ型雇用への移行で、日本の雇用形態を見直す契機となるか――。
「ジョブ型」というのは、会社ありきではなく、まず仕事(ジョブ)ありきの制度。仕事に社員を割り当て、働く側もその仕事の専門家であることを意識して仕事を行う。職務を細分化して明確にし、その上で給料などの待遇が決まっていく。
一方、これまで一般的な日本企業が行ってきたのは「メンバーシップ型」と呼ばれ、まず会社があって、仕事を会社が社員に割り当てていく。いわゆる総合職のようなもので、会社の意向に沿って、時に転勤もあれば、様々な職務を遂行することが求められる。
イメージとしては、メンバーシップ型が”就社”、ジョブ型が”就職”と言ったところか。
ただ、メンバーシップ型とジョブ型にはそれぞれメリットもデメリットもある。メンバーシップ型では多様な仕事が求められる分、専門性が低くなりがちだし、ジョブ型では職務のレベルが上がらない限り、どんなに長年働いても昇給も昇進もできない。そうした厳しい現実があることも事実だ。
日立ではこの10年ほどの間に、全世界の人材(同社では人財という)情報を把握し、役割や仕事の基準を明確化するための人事制度や人事プラットフォームを構築してきた。すでに管理職にはジョブ型を導入。今後は本体の社員約3万人にもジョブ型制度を適用し、順次、国内の関連会社にも適用できるかを判断していく考え。
日立の改革に関して、日本共創プラットフォーム社長の冨山和彦氏は「日本でいう終身年功制とセットになったメンバーシップ型雇用みたいなものは、まともな先進国にはそもそもない。あれが成り立ったのは、産業的には加工貿易型の工業化モデルで右肩上がりの成長期と若い人が多い人口増期という組み合わせがあったからで、それが崩れたらそもそも成り立たない」と指摘する。
その上で、冨山氏は「製造業は活動のグローバル化を進めているので、大半の社員は日本型メンバーシップで働いてはいないし、情報化モデルの到来で事業の寿命は短くなり、組織能力の入れ替えスピードが速くなると終身年功モデルは競争力を失い、人口構成が逆ピラミッドでは上司2人に部下1人となって成り立たない。だから未だにそれが残っていることが異様で、日立がやっていることは時代の趨勢の中でおくればせながら当たり前のことをやっているだけ」と受け止めているようだ。
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日本的な雇用を見直す一つのきっかけに…
では、日本企業のこうした雇用形態の転換に関して、専門家はどのように考えているのか。
組織論が専門の同志社大学政策学部教授の太田肇氏は「今は大企業の多くがジョブ型を取り入れようとしているが、現実的に制度や慣行、法律の壁にぶつかって修正を余儀なくされている会社がほとんど。その結果、ハイブリッド型であるとか、日本式ジョブ型といった形を模索してきたわけだが、法律や慣行は国によって違うので、一様に海外と同じことを日本の企業に当てはめるのは難しい」という。
日本では海外に比べて解雇がしにくい。また、仕事時間ではなく、成果を重視するジョブ型においては、労働時間を管理する労働基準法などの壁もあるし、社会通念上、年齢や勤続年数によって給料が上がっていく従来のメンバーシップ型に慣れた国民が、職務レベルが上がらない限り、昇給や昇進ができないという現実を受け入れられるのかという問題など、様々な制約があるのも事実である。
「今後はジョブ型とメンバーシップ型が社内に混在するような働き方になるのではないか。メンバーシップ型を基本に特定の職種や中高年にはジョブ型を取り入れるとか、特に70歳定年という時代になってくると、ジョブ型を取り入れないともたないと思う。例えば60歳以上はジョブ型にするとか、早い段階でジョブ型を選んでもらえるような仕組みづくりが必要」(太田氏)
一方で、ジョブ型の雇用形態が定着すると、どうしても会社そのものに対する忠誠心や帰属意識のようなものは薄まってくるだろう。その辺のバランスはどう考えていけばいいのか。
太田氏は「ある意味でドライな関係になっていくので、今まで通りの忠誠心は期待できない。そこは割り切らないといけないだろう。会社にいることのメリットやキャリアアップにつながるとか、そういったもので惹きつけていくしかない。かつての運命共同体のような帰属意識を社員に求めるのは難しいと思う。今までの日本的な雇用を見直す一つのきっかけになるのではないか」と語る。
個々の企業がどこを目指し、従業員をどう育てていくか。そして、個々人は自分のキャリア形成をどのように考えていくのか。経営者のみならず、企業に所属する社員一人ひとりが自ら責任感と使命を持ち、それを実践していく時代を迎えたと言ってよい。
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