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【障害を価値に変える】ミライロ・垣内俊哉社長が考える「車椅子に乗っているからこそできること」とは?

財界オンライン 2022年2月4日 7時0分

「私の先祖は外出することも、学ぶこともできませんでした。でも私は学ぶことができ、働けてもいる。先人が築いてくれた社会を後世に残したい」─。2万人に1人といわれる難病「骨形成不全症」は遺伝性のもの。骨が弱く折れやすいため、幼少期から車いすで過ごしてきた、ミライロ社長の垣内俊哉氏。大学時代に起業し、今、どんな事業に取り組んでいるのか。

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障害者関連事業をビジネスとして成立させる
 ─ ミライロが現在、進めている事業について聞かせて下さい。

 垣内 まず、当社の事業の前提として、障害のある方々の視点・経験・感性を生かしているということが言えます。そこで企業理念を「バリアバリュー」とし、障害を価値に変え、新しいビジネスを創っていこうと取り組んでいるところです。

 今、日本は過渡期にあります。2016年に「障害者差別解消法」が施行されました。この法律は、障害者に対する対応、つまり障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止と合理的な配慮を求めるものですが、産業界からの反発も強く、施行時点で民間企業は「努力義務」とされました。

 ただし、他国の動きにならって、日本も「法的義務」にしなければいけないということで21年に国会成立、24年6月までには民間企業も法的義務の対象となります。

 ─ 日本が変わるきっかけになりそうだと。

 垣内 ただ、リスクとしても捉える必要があります。

 米国には1990年に成立したADA(障害を持つアメリカ人法)という法律があるのですが、それによって企業は、障害者から「バリアフリー化ができてない」、「対応もサービスもなっていない」なとど訴えられており、年間8万件にも上っています。

 私は日本でこうした事態に陥ることを防ぎたいと考えています。訴えられるのが怖いから取り組むという流れだと、障害者と企業の溝は深まるばかりです。訴えられるからではなく、「儲けるために」という流れにするために、ビジネスとしての重要性を皆さんにお伝えしていくことが必要だろうと。

 ─ ビジネスとして成立するために必要なことは?

 垣内 「環境・意識・情報」のバリアを解消していくことです。そのために、障害者や高齢者などへの対応を学ぶ「ユニバーサルマナー検定」を創設し、運営しています。障害者が講師を務めますから、雇用創出にもつながっています。

 ホテル、外食などサービス業はもちろんのこと、障害者雇用を進めたい企業でも導入いただいています。また企業だけではなく、老若男女、様々な方々がご受講くださっています。品川女子学院さんをはじめ、学校の必修授業とするなど、中・高・大で授業に採用する動きも続いています。

 ─ ユニバーサルマナーを習得することでどんな効果が得られますか。

 垣内 障害者に向き合うことが特別なことではなく当たり前のこととして、「自分事」に捉え取り組めるようになることを目指しています。「できたらちょっとかっこいいよね」というような資格であることが大事だと考えています。

 ─ 運営を通じて感じることは何ですか。

 垣内 障害者への向き合い方は、「見てみぬ振り」か、「おせっかい」かのどちらかに二極化しています。適切な対応ができるようにしていく必要がありますから、ユニバーサルマナーをさらに広げることで企業のサービス力向上、障害者雇用の円滑化につなげていきたいと思います。

 今、例えば大阪府のとある自治体では、職員採用試験のエントリーシートにユニバーサルマナー検定を持っているかという欄があるくらい裾野が広がってきていますし、航空業界などでも推奨されています。

「バリアフリー」が進んだ日本
 ─ 今、障害者は全国で何人いますか。

 垣内 国内では964万人で、全人口のうち約8%、世界では15%で12億人になります。この964万人のうち、外で働ける方は半数程度です。残りの半数は重度の障害があったり、施設にいらしたりして外で働くことはできません。

 今、日本の法定雇用率は2.3%ですが、4%まで伸ばせるということです。また、今後リモートワークが広がり、IT技術が進歩すれば、働ける可能性はさらに高まると考えています。

 2.3%は低すぎますが、ただ上げればいいというわけでもありません。義務的な雇用が広がるからです。数字を追うだけの障害者雇用にはすべきではありません。

 ─ 諸外国の法定雇用率と比べて日本の現状は?

 垣内 例えばギリシャが8%、イタリアが7%、フランスが6%、ドイツが5%、オーストリアが4%となっています。ただし、イギリスとアメリカは法定雇用率があることで逆に差別を生むとして撤廃しました。

 日本はまず、4%くらいまではしっかり目指していくべきですが、同時に障害者雇用のあるべき姿をしっかり検証していく必要があると思っています。

 ─ 垣内さん自身に障害があることで、バリアフリーへの意識が高かったことも事業に影響していますね。

 垣内 そうですね。明治期には舗装された道路やエレベーターもありませんでしたから、私の先祖の苦労は想像できません。その後、日本を築いた先達の方々が環境を整えて下さったことで、今、私は自由に外出することができています。

 例えば、当社が本社を置く大阪は、日本の中でもトップクラスでバリアフリーが進んでいます。1970年の大阪万博のタイミングで点字ブロックが普及し、80年には大阪の地下鉄谷町線の喜連瓜破駅に、日本で初めて駅のエレベーターが設置されました。これがきっかけとなり、全国の駅にエレベーターが設置されるようになったのです。

 ─ 日本のバリアフリーはまだ40年ほどの歴史だと。

 垣内 今、大阪の地下鉄のエレベーター設置率は100%、京都、福岡、仙台、横浜も100%、東京が96%、札幌が98%という状況です。

 一方、海外を見るとフランスのパリが3%、イギリスのロンドンが18%、アメリカのニューヨークが25%という現状で、これほど外出しやすい国は日本の他にありません。

 その意味で、私は本当にありがたい時代に生を受けたと感じています。私の先祖は外に出られませんでしたし、学べなかった。でも私は学ぶことができ、働けてもいる。

 これは先人の皆さんがつくってくれた社会のおかげです。だからこそ、これを後世につないでいかなければなりません。これからを生きる障害者の生活に活かしていかなければならないという思いで、事業を進めています。

 ─ 日本の障害者雇用は物足りない数字ですが、一方でバリアフリー化が進んでいることを生かす必要がありますね。

 垣内 そう思います。外出しやすい環境であることは大前提です。そもそも買い物や食事に行きたいと思えなければ、働いて稼ぎたいとは思えません。

 お金を使える場所なくして就労意欲は高まりませんから、障害者が外出し、消費ができる社会をつくることができるかが、今後の障害者雇用のカギを握っています。残念ながら、障害者のうち7割が1年以内に離職するというデータもあります。これはやはり消費意欲が低いことも要因としてあげられます。

 ─ アクティブに活動ができる社会にすると。

 垣内 私達の事業でも、そのためのコンサルティングを進めています。例えば建物を建てる時に、どうしたら障害のある方が使いやすいのかということをアドバイスしています。

 逆説的ですが、コンサルティングの際には「私の言っていることが全てだと思わないで下さい」ともお伝えしています。私は1人の車いすユーザーでしかありませんから、100人、1000人が同じことを思っているとは限らないからです。

 そこで今、国内では延べ4.5万人の障害のある方々にアンケートを配信できるようにしています。お店を利用してもらったり、商品に関する意見を聞いたりして、その声を企業に届けていく。

 ─ 多くの障害者の声を活用してもらうということですね。

 垣内 ええ。1人、2人の意見で物事を判断するのではなく、マーケティングとして障害者と向き合っていきましょうという提案をしています。障害者の視点を社会に届けていくことをビジネスにしているんです。

先人との「縁」を次につないで
 ─ ところで、垣内さんは弊社が開催している「財界賞経営者賞」で令和3年度の経営者賞を受賞されました。その選考委員としても長年お世話になった、作家の故・堺屋太一さんともご縁があったとか。

 垣内 そうなんです。学生時代からお世話になっていました。経営者が集まる「堺屋塾」にも呼んでいただき、受付など運営のお手伝いをさせていただくこともありました。堺屋先生には「日本の未来のために頑張りなさい」といつも激励していただいていました。

 ─ 堺屋さんの思い出は何かありますか。

 垣内 堺屋先生は大阪万博を手がけられた方ですが、先程お話したように、万博以降に日本のバリアフリーが進んだことを意識しておられ、2025年の大阪万博で、改めて日本のバリアフリーを世界に発信していこうと話されていました。

 堺屋先生は残念ながら、それをご自身の目でご覧になることは叶わないわけですが、それは実現に近づいています。

 ─ 関係者に意志はつながっていると。

 垣内 ええ。先生が描いていたものを必ずつなげていきたいですし、25 年までのあと4年間で、私も役割をしっかり果たしていきたいと思います。

 実は「財界賞経営者賞」では他にも様々なご縁をいただいています。

 堺屋先生にお呼びいただいて式典にも参加させていただいたのですが、その時に西武ホールディングス社長の後藤高志さん、住友林業会長(現・最高顧問)の矢野龍さんにご挨拶させていただいたことがきっかけで、両社から弊社に出資いただくことになったのです。

障害者手帳を電子化した「ミライロID」
 ─ 障害者手帳を電子化したアプリ「ミライロID」という事業も手掛けていますね。この狙いは?

 垣内 障害者手帳は、障害者の身分証なのですが、国ではなく各自治体が発行しており、フォーマットが283種類もあります。性善説に立てば、ありえないことではあるのですが、規格にバラつきがあることで不正利用も多発しています。

 この統一を国土交通省、厚生労働省、総務省の皆さんにお伝えし続けてきました。

 ─ 実際、どのように変わったんですか。

 垣内 障害者手帳は1949年からあるのですが、70年間変わっていなかったルールを変えていただき、我々のアプリが認められるようになりました。

 ただ、リリースをしたものの、導入いただけた企業は19年時点で6社でした。多かった声は「1民間企業の身分証アプリを認めるわけにはいかない」というものです。

 しかし、地道な交渉により少しずつ導入事業者は増え、2020年6月にはマイナポータルとの連携が実現しました。

 これを機に政府から事業者に向け、ミライロIDの導入推奨の通知が発出されたこともあり、鉄道会社では160社以上に、国内では3000以上の事業者にご参画いただくアプリとなりました。

 ─ ビジネスとして成り立たせるということは一つのキーワードになっていますね。

 垣内 そうですね。慈善事業としてやっているわけではないということです。バリアフリーを進めるのであれば、取り組む事業者が何らかのメリットを享受しなければいけません。ボランティアだけでは、企業にとっては負担でしかありません。

 あくまでもビジネスとして取り組んだ結果、売り上げが上がり、コストが減ったという形にならなければ、企業にとって持続的な活動になり得ません。

 関係する方々には「しっかりと一緒に儲けていきましょう」と伝え続けていきたいですし、そのことを通じて弊社も、社会的役割、使命を果たしていきたいと考えています。 (続く)

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