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日本商工会議所会頭・三村明夫氏が訴える「日本再生に必要なこと」

財界オンライン 2022年2月7日 11時30分

「1つはっきりしているのは、国民全体の生産性を引き上げなければ日本の将来はないということ」─日本商工会議所会頭の三村明夫氏。岸田政権が「新しい資本主義」を打ち出す中、その担い手である企業、特に雇用の7割を担う中小企業の役割は重い。また、経済の安定に欠かせない資源エネルギーは近年、供給不足もあって価格が高騰。これにどう対処するかも含め、企業経営のあり方が問われている。

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「新しい資本主義」をどう捉えるか?
 ─ 新型コロナウイルスの感染拡大が長期化する中、日本では岸田文雄政権が「新しい資本主義」を掲げてスタートしています。三村さんはこの政策のポイントをどう捉えていますか。

 三村 コロナ禍で多くの人が「自分達の幸せは何か」、「企業は何のために存在するのか」ということを考えたと思います。

 近年はパーパス(存在意義)という言葉が用いられますが、豊かな国でなければ国民の命も、生活も救えないということが改めてわかったと思います。

 その意味で、様々な社会課題を解決しながら、日本という国を再び豊かで強い国にしていくためのキャッチフレーズが「新しい資本主義」だと解釈しています。

 ─ 岸田首相は「成長と分配の好循環」を掲げていますが、成長の担い手である企業、特に中小企業の役割と課題をどう見ていますか。

 三村 成長がなければ分配はありません。特に中小企業の立場からすると、労働分配率が付加価値全体の75%から80%で、残りは20%から25%しかありません。さらにそのうちの15%が利払いや租税公課などに充てられ、残りは10%程度しかないのです。その中から配当や将来への投資などを行わなくてはならない。

 もし、従業員の賃金を増やすとすれば、さらに分配率を上げなければなりませんが、やはり将来への投資も必要です。

 ─ その投資はどうなっていますか。

 三村 最近の様々な統計を見ていると、例えば、2021年3月の東京商工会議所の調査では、中小企業のうち73%が事務改善、業務効率化を行い、30%が他企業を凌ぐ高いレベルでの事業変革に取り組んでいるという結果が明らかになりました。

 2021年7-9月期の法人企業統計でも大企業に比べて中小企業の方が設備投資の伸び率は高いです。

 今は確かに多くの企業がコロナで打撃を受けていますから、まずは生き延びさせることが大切で、我々もそこに力を入れて情報発信をしています。

 しかし、大きく打撃を受けている企業ばかりではありません。例えば2021年6月の日商LOBO調査によれば、2021年度の所定内賃金の動向について、業績が改善しているため賃上げを実施した企業が11.1%、業績の改善がみられないが賃上げした企業が30.3%あります。つまり合計で41.4%の企業は賃上げをしているわけです。

 ─ 中小企業には地力があるところが少なくないと。

 三村 ええ。人手不足の中で、業績に関係なく、賃上げしなければ他社に取られてしまうという、いわゆる「防衛的賃上げ」をしている企業の方が多いのですが、業績を上げ、前向きな賃上げをしている企業もあります。

 コロナ禍で打撃を受けた企業は救わなくてはならず、これに対しては政府の支援を望んでいます。同時に、余力のある企業は、デジタル技術を駆使したプロセスやプロダクトを生み出すなど、新しい時代に合わせて自らを変える努力をしなければなりません。

 さらに、今、我々が政府に要望しているのは、日本が早く強く、豊かな国になるために絶対的に必要なのは生産性、潜在成長率を上げることだということです。

 内閣府によると、日本の潜在成長率は、この10年間の平均を取ったら年に0.8%しかなく、諸外国に比べて劣後しているわけです。

 これまでは、女性や高齢者の労働参加によって就労者数は増加しており、その手を打ったことで平均0.8%の成長ができたということです。この施策をさらに強化する余地はありますが、極めて小さい。したがって、日本の成長には生産性の更なる向上が不可欠です。

中小企業の生産性向上が日本のために不可欠
 ─ 潜在成長率を高めるには生産性向上に集中することが必要だということですね。

 三村 そうです。そのために必要なことは2つあります。1つはデジタル化の推進です。もう1つは人材投資です。

 これまで日本は「人」に投資をしてきました。しかしこの10年間、他国に比べて人材投資が減っています。「オン・ザ・ジョブトレーニング」は日本企業の特徴ですが、今はそれだけでは対応が難しくなっています。

 おそらく、人口が減少する中で人材の流動性を高めないと日本はもちません。そしてデジタル化が進むということは、ある分野では不要な人が出て、別な分野では必要な人が出るという形で分かれてくるということです。デジタル化の推進と人材の流動性を高めるにはどうしたらいいか、我々は真剣に議論すべきです。

 ─ 生き方・働き方も変革の時に入ったと。ところで日本企業の99%は中小企業ですが、一部には生産性の低い企業は市場から退出せよという急進的な議論もあります。

 三村 1つはっきりしていることは、生産性を引き上げなければ日本の将来はないということです。一方で、中小企業は雇用の7割を担っていますから、中小企業の生産性を引き上げなければ、日本全体の生産性は絶対に上がらないのです。

「中小企業は弱い存在だから助けないといけない」といった発想ではなく、日本全体の生産性を引き上げるためにも中小企業の生産性向上は絶対に必要で、そのために何をしたらいいのか、という観点で問題を捉えることが必要ではないでしょうか。

CO2削減に向けた「コスト」を考える
 ─ ところで地政学的には引き続き米中対立が大きなリスクです。日本の立ち位置をどう考えますか。

 三村 日本は、例えばTPP(環太平洋パートナーシップ協定)やRCEP(地域的な包括的経済連携)などでリーダーシップを発揮してきました。このように日本が1つのイニシアティブを持ちながら様々な問題に対応することが重要ですし、東南アジア諸国はそれを強く望ん
でいると思います。

 東南アジア諸国にとって、アメリカと中国のどちらかに味方しなければいけないと迫られることは避けたい。そうした状況下で、日本が一定の役割を果たすことが必要だと思います。

 ─ 脱炭素や頻発する自然災害も踏まえて、日本はどのようにエネルギーを確保するか。

 三村 今、これだけの自然災害が起こり、CO2を始めとする物質が地球温暖化をもたらしていることについては、疑いを持てなくなってきました。

 したがって、こうした物質をコントロールすることが人類の幸せにつながるということについては反論できなくなっています。日本を含めて誰もが努力しなければいけないということです。

 政府は、21年に、2030年度の温室効果ガスの排出量を13年度と比べて46%削減するという目標を打ち出しました。そして、この削減目標を達成するために、21年10月に「第6次エネルギー基本計画」が閣議決定されています。

 エネルギー政策の基本は「S+3E」です。即ち、安全性を大前提とし、安定供給、経済効率性、環境適合を適度にバランスさせなければなりません。

 ところが先日発表されたエネルギーミックスではコストのことを考えずに、温室効果ガス46%削減を達成する目標ありきで作成されたものです。

 ─ これまで重要視されていたバランスを考えたものではなかったと。

 三村 再生エネルギーの比率を大幅に増やすことで、例えば各個人、家庭はどの程度のコスト負担になるか、電気料金を始めとするエネルギーコストが高まれば産業界は国際競争力を保つことができるのか。こうした課題をまず洗い出して、丁寧に説明することが必要です。

 今までのCO2削減の議論の中では、多くの人にとってコストは他人事でした。しかし、そんなことはあり得ません。必ず社会全体としてのコスト負担があるわけで、それをわかった上で「やろうじゃないか」ということであれば本物になっていくと思います。我々にも覚悟が必要だということです。

 ─ 国民全体の本気度が問われますね。

 三村 一方、これだけ高いエネルギーコストであれば、日本で電気を使う産業は成り立たないということで生産拠点が海外に流出してしまうということは十分にあり得ます。これは日本にとって好ましくありません。

 それを避けるためには、例えば原子力発電の位置づけを明確にしたうえで、原発を最大限活用することが必要です。

 さらには、省エネ技術、あるいはCCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)の技術開発に一層注力していくことが求められます。

エネルギーの「移行期」を乗り越えるために
 ─ 現状、自然エネルギーは非常に不安定ですが、これをどう活用するかも問われます。

 三村 先日、風力発電への依存度が高い欧州では風が吹かずにエネルギー価格が暴騰しました。また、中国では洪水による大雨で石炭の供給不足が起きました。したがって、自然エネルギーを活用するのであれば、そのバックアップ電源を必ず手当しなければならないのです。

 ところが、バックアップ電源は稼働率が非常に低く、それを持つことのコストは非常に高い。

 そういうことも含めて自然エネルギーのコストは高いということを理解する必要があります。将来的にコストの低い大容量蓄電池が開発されたら問題の解決につながるとは思いますが、現時点ではそうした状況にはなっていません。

 コストの増加を受け入れる覚悟を決めるのか、あるいは、他の手段を模索するのか。こういうことをしっかり議論することが必要だと思います。

 ─ ある意味で、覚悟が必要だということですね。その目標をどうやって実現していくかが問われている。

 三村 今回は民間の意見というよりも、温室効果ガス46%削減という目標があり、それを達成するためにどうしたらいいのかという発想だったと思います。

 1つの問題は、今、世界的に多くの企業が化石エネルギーへの投資を抑制する方向に動いていることです。

 将来的に自然エネルギーが整備されるには、長い時間がかかるということです。その中で安定供給を担ってきた化石エネルギーへ資金が回らなくなれば、今後エネルギー危機、エネルギー価格の高騰を繰り返すことになるのではないかと思います。こうしたトランジション(移行期)をどううまく乗り切っていけばいいのか。この問題を考えていく必要があります。

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