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【社会の仕組みを変える「デジタル通貨」】中国は『デジタル人民元』、日本で進む民間主導の『DCJPY』とは?

財界オンライン 2022年2月9日 7時0分

「1円1通貨のデジタル通貨」─。日本で民間主導のデジタル通貨『DCJPY』の実証実験が進んでいる。この大プロジェクトを事務局としてまとめているのがディーカレットDCP。2018年創業のディーカレットは2021年12月に持ち株会社体制に移行、ディーカレットホールディングスとなり、今年2月1日付で暗号資産事業を手掛けるディーカレットを売却、20年に設立したディーカレットDCPでデジタル通貨事業に注力する。マネーだけでなく、位置情報や環境価値など様々なデータを加え、スマートコントラクト(自動契約)の機能を使えば、社会の仕組みも大きく変わる。各国でデジタル通貨の開発が進む中、日本も共通の基盤を作り、新たな仕組みを作る必要がある。その〝本命〟とも言われる『DCJPY』の内身とは─。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako



リブラが火をつけた
デジタル通貨の可能性

「デジタル化の取り組みを完了させるために必要なプラットフォームだと思っています」─。

 こう語るのは、ディーカレットDCP社長の時田一広氏。

 ディーカレットDCPは、インターネットイニシアティブのグループ会社・ディーカレットホールディングスの子会社。この会社が今、フィンテック業界で注目を集めている。

 官民挙げてオールジャパンで取り組むデジタル通貨『DCJPY(仮称)』の実現に向けて『デジタル通貨フォーラム』を開催、中心的役割を務めているからだ。

 同フォーラムの座長はフューチャー取締役で元日本銀行決済機構局長の山岡浩巳氏。また、三菱UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクの他、NTTグループ、KDDI、JR東日本、日立、ヤマトHDなど日本を代表する大企業や団体74社が参画。

 さらに、オブザーバーとして金融庁、総務省、財務省、経産省、日銀が参加。シニアアドバイザーには元金融庁長官の遠藤俊英氏が就任するなど、官民挙げてのオールジャパン体制でデジタル通貨発行を目指している。

コロナ禍で注目される【感情報酬】

 現在、デジタル通貨と言われるものは大きく3つに大別される。1つは、中央銀行が発行する中銀デジタル通貨「CBDC( Central Bank Digital Currency)」、2つ目は民間企業が発行する「電子マネー」、そして「暗号資産(仮想通貨)」だ。

 最も一般的なのが『PayPay』などの「電子マネー」だが、企業が顧客を囲い込みするための戦略ツールになっており、加盟店など限られた経済圏でしか使うことができない。

 また「暗号資産(仮想通貨)」は銀行など中央集権的な決済機関を必要としない通貨で、価格の変動も激しく、一般的な普及とまではいっていない。

 そうした中、近年、各国が続々参入するのが「CBDC」。

 デジタル通貨が注目を集めるようになったのは、2019年Facebook(現・Meta)がデジタル通貨『ディエム(旧・リブラ)』の発行を発表してからだ。

 だが、IT大手が国家に匹敵する力を付ける中、国の基盤ともいえる通貨発行権にまで触手を伸ばしたFacebookの計画は、中央銀行や金融当局の反発を招き、実現できないまま、ディエムの知的財産と資産の売却に至った。

 一方、各国政府はCBDCの開発を進め、2020年にはバハマとカンボジアがCBDCを発行。さらにラオス、ベトナム、タイも後に続こうとしている。

 新興国が先んじているのはCBDCによって自国通貨を強化して金融政策の幅を拡大する狙いがある他、2022年の北京五輪開催に向けてデジタル人民元の普及を進める中国への対抗策とも言われている。各国がCBDCの発行を見据える中、民間主導の『DCJPY』とは、どんなデジタル通貨なのか─。


銀行が発行する
1円1通貨のデジタル通貨

「現行法制下での発行スキームで、経済圏を閉ざすことなく、相互運用性を持ったプラットフォームができないか検討してきた」(相原寛史・ディーカレットDCP社長補佐・デジタル通貨担当)

 その中で構想した仕組みが、ブロックチェーンを使った「円建て」、「二層構造のデジタル通貨プラットフォーム」だ。

 相原氏は、DCJPYの特徴を次のように説明する。

「『1円1通貨』で連動する通貨を発行する。発行主体は銀行。デジタル通貨をご利用いただく皆さまには〝共通領域〟にデジタル通貨を保管、発行、償却できるようにするための口座を用意していただく。銀行に発行いただくデジタル通貨になるので、性質としては、銀行が利用者に対する債務として発行。法律の整理上は預金と同等の位置づけになる。それをデジタル通貨のプラットフォームで動かして使っていく」

 2つ目の特徴である〝二層構造〟とはどんなものか。

「一層目がデジタル通貨を管理する〝共通領域〟。もう一層は、様々な商取引が行える〝付加領域〟。例えば、電力の売り買いをするとしたら、一層目と連動して、デジタル通貨の移転、送金ができる仕組み」となる。

 デジタル通貨を管理する〝共通領域〟は1つだが、企業が様々なサービスを提供できる〝付加領域〟は複数存在し、「資金の決済をプログラムで自動的にやり取りして、共通領域と連動して同期していく」。



 では、このプラットフォームで実現できる価値とは何か。関西電力が進めている実証実験がある。


電気に”色”を付ける

「太陽光発電を10年間買い取るFIT制度が終わるとP2P取引(発電側と需要側を直接つなぐ電力取引)の選択肢が生まれるため、その実証実験を2018年から始めました。太陽光は再生可能エネルギーなので『環境価値』もあわせて取引する実証でした」(石田文章・関西電力技術研究所先進技術研究室エネルギービジネス主席研究員)

 電力の対価の支払いもデジタルで行おうと電子マネー等の活用も検証したが「手数料などのコストや手間がかかり過ぎる」という課題が発生。そこで『デジタル通貨フォーラム』に参加。DCJPYを使った検証を進めている。

 カーボンニュートラルの時代に向け、企業は再生エネルギーの電源確保を進め、家庭用の少量の電力でも積極的に購入するようになっている。

 再エネ需要が増えれば「『電気』の価値は同じでも『環境価値』が上がり、その分だけ買取価格が上がる」こともある。再エネの奪い合いが起きる中、家庭で発電された電力を企業が購入するには「何もしなくても電気や環境価値が売れて、お金が入っていく仕組み」が求められる。その仕組みづくりを進めているというわけだ。

 具体的には、「電気」と「環境価値」を〝売り手〟から〝買い手〟に渡す際、対価の支払いが発生する。その〝指図〟を共通領域のプラットフォームで実行すると、売り手と買い手の口座間でデジタル通貨が移動する。

 口座は金融機関の口座に紐づいているため「お客様はデジタル通貨ということをさほど意識することなく対価が支払われる」。

 実証実験にはローソンや阪急阪神HDなど小売業も入り、受け取ったデジタル通貨を使って決済するところまで検証する。

 さらに、「電気だけでなく、環境価値などのデータを組み込むことで、電気に〝色〟が付き、クリーンな電気ということを証明できる。そうなると、より価値あるビジネスにもしていける」(石田氏)と新たなビジネスの可能性にも期待する。

『デジタル通貨フォーラム』では「電力取引」の他、「小売り・流通」「行政事務」など10の分科会で新たな仕組みを検証している。

 デジタル通貨の可能性は広い。

 例えば、「自動支払い」機能を活用すれば、卸売業者から小売業者に商品が渡った瞬間、位置情報を活用して自動で支払いを行ったり、複数の交通機関を使った移動も自動で決済できる。

 こうした価値は、新たな時代が必要とするものでもある。

「サプライチェーンのクリーンさをどう証明し、サプライチェーンをどう管理するか。そのためにはマネーの機能をより高度にし、世界の課題解決にマネーの機能を活用していかなければならない。情報処理ツールとしてのマネーが、より高度な機能を果たすことが求められている。1社が発行したマネーでは汎用性は満たせない。民間の力で誰もが信用できる〝信用のアンカー〟が必要。そこで、銀行の新たな役割が求められる。新たなデータ、マネーに、どのような情報処理と機能を載せるか。業種・産業横断的なプラットフォームの重要性が再認識されると同時に、銀行が果たすべき新たな役割も強く実感する」とフォーラム座長の山岡氏は語る。

 社会の仕組みを大きく変えるインフラとして期待がかかる『DCJPY』だが、ディーカレットDCPが関与するきっかけはどこにあったのか─。

「インターネットの中にブロックチェーンがあって、そこで価値の移転が記録されていく。この技術はデジタル社会のコアな技術になる可能性がある。今は、メールは送れるけれどお金は送れない。そこで、安全に価値交換できるようなプラットフォームを作れないかということが、設立の背景にあります。そうなると、非常に大きな社会インフラになり、モノの移動だけでなく、お金の移転も伴う金融インフラになる可能性もある。そこで、メガバンクさんやJR東日本さんなど社会インフラを担っておられる会社にご出資いただいて設立したのがディーカレットです」(時田氏)

 設立後はまず、様々な技術が生まれる暗号資産事業に着手。そして、デジタル通貨の構想を練っていった。ディーカレットDCPが資金移動業のライセンスを取ってデジタル通貨を発行する方法もあったが、それではインフラにならないと、2020年6月から『デジタル通貨勉強会』を開催、官民横断で議論を重ね、同年12月『デジタル通貨フォーラム』に発展させて参画企業を増やしていった。

 こだわったのは「できるだけ制限の少ない方法」で「すべての人が同じものを使える相互運用性」を持ち、「安心して使える」デジタル通貨にすること。

 そうして生まれたのが、法人間の多額な取引もできる「銀行が発行するデジタル通貨」で、法制度が改定されても構造が担保される「二層構造」にすること。二層構造にすれば「付加価値領域で様々なプログラムが実装できる」からだ。

 その中で、ディーカレットDCPはプラットフォームがきちんと機能するよう運営の役割を担う。

 CBDCの議論の中心は法制度や技術、仕組みの部分だが、民間主導で進む『DCJPY』は「誰がどう使うのか。インターネットの中で価値を交換したら、どんな世界が作れるのか」ユースケースを中心に議論を進めている。そうして実績を積み上げ、インフラとしての市民権を獲得していく考えだ。

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