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【政界】安全運転の岸田政権に初めての試練 新型コロナ対策誤れば下り坂の危機

財界オンライン 2022年2月16日 18時0分

※2022年2月9日時点

政権発足から4カ月、首相の岸田文雄は夏の参院選前の失点を防ぐため安全運転に徹している。「新しい資本主義」をはじめ看板政策の中身はあいまいなままだが、通常国会序盤は、攻めあぐねる野党にも助けられて大過なく滑り出した。ただ、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の感染が全国で急拡大し、内閣支持率にじわりと影を落とす。自民、公明両党間では選挙協力を巡る不協和音も顕在化。これまで順風だった岸田は最初の試練を迎えた。

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「推薦ないつもりで」

 自民、公明両党は2016年と19年の参院選で「相互推薦」を実施した。公明党が改選数1の「1人区」(計32選挙区)で自民党候補を推薦する代わりに、自民党は改選数3以上の埼玉、神奈川、愛知、兵庫、福岡の5選挙区で自民党候補と並んで公明党候補も推薦するという協定だ。16年に兵庫選挙区の改選数が3に増え、公明党が24年ぶりに候補を立てたのがきっかけだった。

 外形的には互いにメリットがあるように映るが、個々の選挙区事情は複雑だ。特に兵庫選挙区は19年に①日本維新の会(約57万票)②公明党(約50万票)③自民党(約47万票)――という結果になり、自民党候補は次点の立憲民主党候補に約3万票差まで詰め寄られた。自民党兵庫県連には支持者の票が分散したという不満がくすぶり、維新が昨年の衆院選で党勢を増したこともあって、今回はさらに危機感が強い。

 相互推薦をためらう自民党に対し、公明党代表の山口那津男は1月15日、都道府県本部とのオンライン会議で「自民党の推薦が出ないことも想定して選挙態勢を強化するように」と5県に指示し、1人区での協力解消をちらつかせて一歩も引かない姿勢を示した。

 慌てた岸田は17日、副総裁の麻生太郎、幹事長の茂木敏充と党本部で会談し、事務方トップの元宿仁も同席した。与党関係者は「その場で打開策を話し合ったのだろう」とにらむ。2日後、選挙対策委員長の遠藤利明は神戸市に出向き、兵庫県連幹事長の藤田孝夫から「党本部の結論に従う」と言質を取った。それによって相互推薦問題はようやく決着のめどがついた。

 この間、公明党の支持母体の創価学会は「騒ぐほどの話ではない」(幹部)と静観していた。両党が決裂する事態はもともと想定していなかったのだろう。ただ、菅政権で自民党執行部の一員だったベテラン議員は辛口だ。「選対委員長が表立って兵庫に行くなんて考えられない。本来なら水面下で話をつける案件だろう」

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「二階さんなら…」

 与党間の足並みの乱れは、それが政治的パフォーマンスだったとしてもメディアの注目を集め、おもしろおかしく増幅されて伝わるのが常だ。その意味で、最近の自民、公明両党の関係に首をかしげるのはこのベテラン議員だけではない。

 18歳以下を対象にした10万円相当の給付措置は、現金5万円とクーポン5万円分を組み合わせた当初の計画が自治体などに不評で、政府は全額現金も認める方針に転じた。クーポンはバラマキ批判を恐れた自民党が公明党に飲ませた案だっただけに、両党にとって後味の悪い結末になった。相互推薦問題はそれに続く失態だ。

 国会会期中、両党の幹事長と国対委員長がさまざまな政治課題について意見交換する通称「2幹2国」という会合がある。安倍、菅政権時代には毎週のように開かれていたが、岸田政権発足後、回数が減った。「案件があるときだけでいい」という茂木の意向だ。合理主義的な茂木らしいと言えばそれまでだが、公明党幹部は「何もなくても顔を合わせることを重視した二階(俊博元幹事長)さんとは全然タイプが違う」と心配する。

 公明党国対委員長の佐藤茂樹は1月17日の通常国会召集前、自民党に定例化を提案した。しかし、その場で決まったのは月内の19日と26日の開催だけ。もともと岸田は公明党とのパイプの細さが懸念されており、相互推薦問題などの背景に互いのコミュニケーション不足があるのは間違いない。

 それでも、秋の沖縄県知事選につながる「選挙イヤー」の初戦として岸田政権が重視していた同県名護市長選(1月23日投開票)では、自公両党が推薦した現職の渡具知武豊が、立憲民主党や共産党などが推した新人候補を約5000票の大差で破り、再選した。

 渡具知陣営は前回選挙と同様、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市への移設に賛否を明言しない戦術をとり、米軍再編交付金による保育料、学校給食費、子供医療費の無償化などの実績をアピールした。政府は辺野古沿岸の埋め立てを着々と進める方針だ。

 公明党からは「相互推薦問題がこじれたら名護市長選に影響する」という声が出ていたが、自民党へのブラフに過ぎなかったようだ。一方、自民党幹部は「負けたら、公明党とぎくしゃくしたのが原因と新聞に書かれるところだった」と勝利に胸をなで下ろした。

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官邸は面会拒否

 首相官邸と、自民党の最大派閥を率いる元首相の安倍晋三の距離も徐々に広がりつつある。象徴的なのが「佐渡島の金山」(新潟県佐渡市)の世界文化遺産への推薦問題だ。

 文化審議会は昨年12月末、佐渡島の金山を推薦候補に選んだ。韓国政府は「戦時中に朝鮮半島出身者が過酷な労働に従事した」などと即座に反発。文化庁が「候補の選定は推薦の決定ではない」と注釈を付けていたため、2023年の登録に向けた期限の2月1日までに、日本政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦書を提出するかどうかが焦点になった。

 自民党では1月18日、「保守団結の会」が佐渡市長らを招いて会合を開き、政府に速やかな推薦を求める決議をまとめた。代表世話人で新潟県連会長でもある衆院議員の高鳥修一によると、出席した安倍は「韓国政府に対してファクトベースのしっかりとした反論をすべきだ」と発言した。同会は官房副長官の磯崎仁彦を通じて岸田に決議を届けようとしたが実現せず、高鳥は「まあ、拒否されたということだ」と記者団に明かした。

 日韓関係は長く冷え込んだままだ。昨年1月に着任した駐日韓国大使の姜昌一は、岸田はおろか外相の林芳正や前任の茂木とも面会できていない。そうした中で官邸や外務省が一貫して推薦に慎重だったのは、韓国側への配慮とは別の理由があった。

 15年に「南京大虐殺」に関する資料がユネスコの「世界の記憶」(世界記憶遺産)に登録された際、当時の安倍政権は「政治利用だ」と批判した。日本政府が加盟国に働きかけた結果、昨年、加盟国による異議申し立てを認める制度が導入された。

 外務省幹部は「日本が逆の立場になったからといってルールを変えるのはよくない」と指摘する。世界文化遺産にはこの制度は適用されないものの、ダブルスタンダードになりかねないというわけだ。

 しかも、世界遺産委員会が23年の登録を不可と判断した場合、再度推薦しても認められる可能性は極めて低い。岸田は「登録を実現する上で何が最も効果的かという観点から総合的に検討している」と述べ、自民党内の保守派をけん制した。

 ところが、政府が結論を出す前にマスコミ各社が「推薦見送りへ」と相次いで報道。安倍は1月20日の安倍派の会合で「最終的には岸田総理はじめ政府が決定することだが、論戦を避ける形で登録を申請しないというのは間違っている」と政府の優柔不断ぶりを批判し、「いくら支持率が高くても、自民党の岩盤支持層が崩れたら選挙は危うくなる。岸田はそこをわかっていない」と周囲に不満を漏らした。

 財政政策でも岸田と安倍のさや当てが続いている。安倍が、自民党政調会長で積極財政派の高市早苗を後方支援するのに対し、岸田は1月14日の経済財政諮問会議で「財政健全化の目標年の変更が求められる状況にはない」と表明した。

 その場で内閣府が示した最新の試算によると、経済の高成長が続けば基礎的財政収支(プライマリーバランス)は26年度に黒字化し、歳出効率化の努力次第では政府が目標に掲げる25年度の黒字化も視野に入るという。しかし、「試算の前提が甘い」と指摘する専門家は少なくない。岸田政権が成長戦略を具体化する施策を打ち出さない限り、財政健全化は絵に描いた餅で終わる。

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野党の政策でもOK

 一方、野党は国会で見せ場を作れていない。政策の「朝令暮改」をためらわないのが岸田の特徴だからだ。先述した10万円相当の給付問題で、立憲民主党は、離婚して子どもを養育している一人親にも給付が確実に届くようにする法案を今国会に提出した。

 すると岸田は1月24日の衆院予算委員会で「(1人親が)受け取れないという声もしっかり聞いている」と「聞く力」をアピールし、「不公平を是正し、給付金が届くよう国として見直す」と答弁した。質問したのは立憲ではなく自民党幹事長代理の上川陽子。上川自身が後で「あそこまで踏み込むとは」と驚いたほどで、岸田は立憲の政策をちゃっかり拝借した。

 同じころ、連合の参院選に関する基本方針案が波紋を広げた。「厳秘」扱いの素案は、選挙区選挙で「目的が大きく異なる政党や団体等と連携・協力する候補者は推薦しないという姿勢を明確にする必要がある」と提起し、1人区での共産党との選挙協力に事実上のノーを突きつけた。しかも、支援する政党を明記せず、連合本部が「立憲民主党、国民民主党との必要な調整にあたる」とするにとどめた。会長の芳野友子の考えを色濃く反映した素案と言える。

 折しも、岸田政権は連合との間合いを詰めている。1月の新年交歓会に岸田は自民党の首相として9年ぶりに出席。春闘での賃上げに期待を表明し、参院選に向け「ぜひ政治の安定という観点から与党にも貴重なご理解とご協力を」と余裕たっぷりに呼びかけた。

 とはいえ、新型コロナの感染急拡大に伴い、岸田内閣の支持率には変調の兆しがある。毎日新聞の1月22日の世論調査によると、内閣支持率は52%で昨年12月の54%から微減。共同通信の22、23両日の調査では55・9%と前回から4・1ポイント下落した。どちらの調査も政府の新型コロナ対策を「評価する」が目減りしており、今後の支持率の推移は対策の実効性にかかっている。

 まん延防止等重点措置は1月27日に34都道府県まで拡大した。第5波と第6波の合間に誕生した岸田政権は本当の意味で自立できるか、まさに正念場だ。(敬称略)

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