※2022年2月22日時点
新型コロナウイルスの感染が拡大する中にあって、首相の岸田文雄は安定的な政権運営を続けている。連日のように新規感染者数が過去最高を更新したことに加え、ワクチンの3回目接種の遅れ、検査キットの不足といった負の要素があるにもかかわらず、内閣支持率に大きな変動はない。コロナ禍で支持率を減らし、最終的に退陣した安倍晋三、菅義偉両政権とは異なる傾向だ。「聞く力」を掲げる岸田の人柄も影響しているようだが、約4カ月後に公示を控えた参院選を見据えると、足元は依然おぼつかない。
【政界】安全運転の岸田政権に初めての試練 新型コロナ対策誤れば下り坂の危機
感染拡大でも高支持率
「岸田さんらしくない。『常に最悪の事態を想定し、国民の命と健康を守り抜く』と何度も言っていたのに……」
こうつぶやくのは岸田に近い自民党議員だ。ため息の理由は、コロナ対策で「先手」の対策をとると訴えてきた岸田政権の下、感染拡大がとまらないためだ。
新規感染者数は1月18日、第5波のピークだった昨年8月20日の2万5990人を上回る3万2000人超となり、過去最高を更新。その後も増加の一途をたどり2月5日には10万人を突破した。
政府の不手際も目立ってきた。3回目のワクチン接種は昨年12月に医療従事者らを対象に始まったが、2回目接種からの期間を一般の人は「8カ月以上」としていたこともあり、遅々として進まなかった。
その後「6カ月以上」に変更し、遅れていたワクチンの調達、接種加速のための自治体支援などに取り組んだが、3回目接種率は2月2日にようやく4%に届いた程度だ。
海外では、イスラエルで昨年7月の時点で3回目接種が始まり、接種率50%を超える国が相次ぐ。3回目接種が浸透し、さまざまな規制を解除した英国のように「ウィズコロナ」を実践する国もある。岸田は今月7日、「2月のできるだけ早い時期に1日100万回を目指す」と述べたが、遅きに失した感がある。
政府は当初、オミクロン株の市中感染が確認された地域への抗原検査キットの無料配布を打ち出した。ところが感染者拡大に伴いキットは品薄に。厚生労働省が1月下旬、医療機関への配布を最優先にする措置をとった。
感染者の濃厚接触者の待機期間も当初は14日間だったが、感染者の増加に伴い濃厚接触者も増えたため、介護や保育といったエッセンシャルワーカーの活動や、警察、消防といった社会機能の維持が危惧される事態に発展した。
岸田はその後、待機期間を10日→7日と短縮した。関西地方の市長は「首相は『聞く力』を発揮してくれたが、だったらもう少し早く決断してくれればいいのに」と嘆く。
とはいえ、デルタ株が席巻した第5波と比べ、第6波の要因であるオミクロン株は感染拡大が早いものの、重症化はしにくいとされ、医療態勢も全国的に逼迫とまではいえない。東京をはじめ、各地で蔓延防止等重点措置が適用されたが、国民の「慣れ」もあるのか、「岸田政権に打撃」との雰囲気にはなっていない。
報道各社の世論調査にもその傾向がみられる。たとえば朝日新聞が、感染者が過去最高を更新した後の1月22、23両日に行った世論調査の内閣支持率は前月と同じ49%だった。日経とテレビ東京の調査(1月28~30日)では59%で、前月比で6ポイント下がったものの、高支持率には違いない。
【厚生労働省】診療報酬改定は4回連続マイナスに
官僚のゆるみも
「聞く力」のなせる業か、さまざまな方針を次々と変える岸田を「朝令暮改」「優柔不断」と見る人よりも「柔軟」と評価する人が多いようだ。順調に見える岸田政権だが、足元では官僚のゆるみが少しずつ露呈し始めている。その象徴が「佐渡島の金山」(新潟県)の世界文化遺産登録を巡る騒動だった。
韓国が佐渡金山で戦時中に朝鮮半島出身者が「強制労働」させられたと反発する中、岸田は逡巡した末に国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦を決断した。この過程で外務省は岸田を後押しするどころか、一貫して「推薦するために何をするか」ではなく、「推薦させないために何をするか」で動いた。
韓国は2015年に長崎・端島炭坑(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録される際も、軍艦島で「強制労働」があったと主張した。日本政府は元島民の証言や当時の資料を基に反論したが、韓国は積極的にロビー活動を展開。現在も国際場裏で「日本たたき」を行う。
その悪夢の再来を避けたい外務省は岸田らに推薦を断念させるため、▽3月の韓国大統領選で反日の革新系候補が勢いづく▽弾道ミサイルを頻繁に発射する北朝鮮への対応で重要な日韓関係に影響を与える▽日韓の軋轢は米国も望んでいない――と「説得」。地元・新潟県選出の自民党議員は「推薦に向けて前向きな発言をする外務官僚はいなかった」と証言する。
そもそも外務省は、文化庁が所管する文化審議会が佐渡金山推薦の是非を審査する過程でも同様の工作を行った。その結果、昨年12月末に推薦候補に選定した文化審は「選定は推薦決定ではない。政府内で総合的な検討を行う」と異例の注釈をつけた。
年が明けて推薦の是非が焦点になると、「文化庁が選定しなければよかった」と漏らす外務官僚も。文化庁を所管する文部科学省が官邸への説得を積極的に行った形跡もなく、水面下では外務省と文科省の間で政治問題化したことへの責任の押し付け合いを繰り広げた。
こうした「事なかれ主義」に基づくサボタージュ、もっといえば国益に反するような妨害工作は、「歴史戦」を掲げた安倍政権ではありえなかった。官僚ににらみを利かせた菅政権でも露見しなかった。岸田派の議員は「人のいい岸田首相が官僚になめられているから」とこぼす。
官僚に付け入る隙を与えている形の岸田だが、一方で、したたかさものぞかせる。
政府は当初、今国会で予定していた感染症法改正案の提出を見送った。病床確保に向けて国や都道府県と医療機関が結ぶ協定を法律上の仕組みとする内容で、岸田も就任直後は前向きだった。ところが年明けになると、「6月までに中長期的な課題をしっかり洗いだした上で法改正を考えていく」として方針転換した。
ある自民党参院議員は「岸田首相なりの日本医師会への配慮だ」と明かす。改正案が成立すれば一定の条件の下で病床確保が義務となり、医療機関の負担が増えるとされる。日本医師会は自民党の有力な支持団体の一つ。7月10日の投開票が想定される参院選を前に日本医師会の懸念材料を先送りしたというわけだ。
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選挙戦の構図に変化
一方、岸田は参院選の自民党候補の推薦をためらう公明党との関係を打開できないでいる。
前回の参院選で自民、公明両党の候補が接戦を演じた兵庫選挙区(改選数3)に端を発した自公の相互推薦問題は、全国で32ある改選数1人区で公明党が自民党候補を推薦しないことを検討する事態に発展。公明党代表の山口那津男は2月1日の記者会見で「相互推薦はない前提で今、取り組んでいる」と明言した。
「どうも公明党は本気らしい」と語るのは自民党幹部だ。15年成立の安全保障関連法について、「平和の党」を掲げる公明党は慎重な姿勢だったが、自民党との交渉で妥協し最終的に賛成した。自民党に対する公明党の位置づけは「下駄の雪」と称され、自民党内では「いろいろな注文をつけながらも与党でいたいがために最後は自民党についてくる」との見方が広まっていた。しかし、今回は違うというわけだ。
公明党の「不退転の決意」を後押しするように、同党の支持母体である創価学会は1月27日、選挙で支援するかどうかの基準について「党派を問わず見極めた上で、判断していく」との方針を示した。こうした方針の発表は1994年以来で、極めて異例だった。過去2回の参院選のように全国的に一括して自民党候補を推薦するのではなく「候補の人物本位」で判断することを強調した形となった。
自民党内には「公明党の推薦がなければ選挙を戦えないなどという候補は選挙に出なければいい」(重鎮)との勇ましい声もある一方、「公明党の支援がなければ1人区で自民党が勝利するのは至難の業だ。自公の政権陥落もあり得る極めて危険な状態だ」と漏らす議員もいる。
自民党選対委員長の遠藤利明は公明党への説得を試みているが、岸田や自民党幹事長の茂木敏充はもともと公明党との関係が希薄で、「首相も幹事長も相互推薦なしでもやむを得ないと思っている」(首相周辺)という。
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野党は依然混迷
参院選を巡る構図の変化は野党側でも起きている。立憲民主党と国民民主党の支援団体である連合は、かねてから共産党を含む野党共闘を批判してきた。そして1月下旬、参院選の基本方針案として「目的が大きく異なる政党や団体などと連携・協力する候補者は推薦しない」とした。事実上の「共産排除」だ。
連合は過去2回の参院選で野党共闘を後押しし、野党は32の1人区すべてで統一候補を擁立した。だが、前々回の2016年は11勝、19年の前回は1-勝にとどまった。昨年10月の衆院選でも選挙区の候補者一本化を進めたが、立民は議席を減らした。
それでも立民は衆院選の総括で共産党を名指しした上での「反省」を明示しなかった。連合会長の芳野友子は2月1日の報道各社とのインタビューで、この点について「立民と共産党との関係が明確になっていない」と不満を表明した。
過去の労働運動での対立から反共の立場をとる連合の「最後通告」がこたえたのか、立民代表の泉健太は共産党との参院選での連携を「白紙」にすると表明した。
黙っていられないのが共産党だ。1人区の候補者一本化に向けた立民との協議は進まず、委員長の志位和夫は3日の記者会見で「(1人区)すべてに候補者を立てる権利を共産党は持っている」と立民を牽制した。
野党の混迷は参院選に勝利して長期政権を築きたい岸田に有利に働く。自民党重鎮は「岸田さんはつくづく運がいいね」と語った。(敬称略)
新型コロナウイルスの感染が拡大する中にあって、首相の岸田文雄は安定的な政権運営を続けている。連日のように新規感染者数が過去最高を更新したことに加え、ワクチンの3回目接種の遅れ、検査キットの不足といった負の要素があるにもかかわらず、内閣支持率に大きな変動はない。コロナ禍で支持率を減らし、最終的に退陣した安倍晋三、菅義偉両政権とは異なる傾向だ。「聞く力」を掲げる岸田の人柄も影響しているようだが、約4カ月後に公示を控えた参院選を見据えると、足元は依然おぼつかない。
【政界】安全運転の岸田政権に初めての試練 新型コロナ対策誤れば下り坂の危機
感染拡大でも高支持率
「岸田さんらしくない。『常に最悪の事態を想定し、国民の命と健康を守り抜く』と何度も言っていたのに……」
こうつぶやくのは岸田に近い自民党議員だ。ため息の理由は、コロナ対策で「先手」の対策をとると訴えてきた岸田政権の下、感染拡大がとまらないためだ。
新規感染者数は1月18日、第5波のピークだった昨年8月20日の2万5990人を上回る3万2000人超となり、過去最高を更新。その後も増加の一途をたどり2月5日には10万人を突破した。
政府の不手際も目立ってきた。3回目のワクチン接種は昨年12月に医療従事者らを対象に始まったが、2回目接種からの期間を一般の人は「8カ月以上」としていたこともあり、遅々として進まなかった。
その後「6カ月以上」に変更し、遅れていたワクチンの調達、接種加速のための自治体支援などに取り組んだが、3回目接種率は2月2日にようやく4%に届いた程度だ。
海外では、イスラエルで昨年7月の時点で3回目接種が始まり、接種率50%を超える国が相次ぐ。3回目接種が浸透し、さまざまな規制を解除した英国のように「ウィズコロナ」を実践する国もある。岸田は今月7日、「2月のできるだけ早い時期に1日100万回を目指す」と述べたが、遅きに失した感がある。
政府は当初、オミクロン株の市中感染が確認された地域への抗原検査キットの無料配布を打ち出した。ところが感染者拡大に伴いキットは品薄に。厚生労働省が1月下旬、医療機関への配布を最優先にする措置をとった。
感染者の濃厚接触者の待機期間も当初は14日間だったが、感染者の増加に伴い濃厚接触者も増えたため、介護や保育といったエッセンシャルワーカーの活動や、警察、消防といった社会機能の維持が危惧される事態に発展した。
岸田はその後、待機期間を10日→7日と短縮した。関西地方の市長は「首相は『聞く力』を発揮してくれたが、だったらもう少し早く決断してくれればいいのに」と嘆く。
とはいえ、デルタ株が席巻した第5波と比べ、第6波の要因であるオミクロン株は感染拡大が早いものの、重症化はしにくいとされ、医療態勢も全国的に逼迫とまではいえない。東京をはじめ、各地で蔓延防止等重点措置が適用されたが、国民の「慣れ」もあるのか、「岸田政権に打撃」との雰囲気にはなっていない。
報道各社の世論調査にもその傾向がみられる。たとえば朝日新聞が、感染者が過去最高を更新した後の1月22、23両日に行った世論調査の内閣支持率は前月と同じ49%だった。日経とテレビ東京の調査(1月28~30日)では59%で、前月比で6ポイント下がったものの、高支持率には違いない。
【厚生労働省】診療報酬改定は4回連続マイナスに
官僚のゆるみも
「聞く力」のなせる業か、さまざまな方針を次々と変える岸田を「朝令暮改」「優柔不断」と見る人よりも「柔軟」と評価する人が多いようだ。順調に見える岸田政権だが、足元では官僚のゆるみが少しずつ露呈し始めている。その象徴が「佐渡島の金山」(新潟県)の世界文化遺産登録を巡る騒動だった。
韓国が佐渡金山で戦時中に朝鮮半島出身者が「強制労働」させられたと反発する中、岸田は逡巡した末に国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦を決断した。この過程で外務省は岸田を後押しするどころか、一貫して「推薦するために何をするか」ではなく、「推薦させないために何をするか」で動いた。
韓国は2015年に長崎・端島炭坑(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界文化遺産に登録される際も、軍艦島で「強制労働」があったと主張した。日本政府は元島民の証言や当時の資料を基に反論したが、韓国は積極的にロビー活動を展開。現在も国際場裏で「日本たたき」を行う。
その悪夢の再来を避けたい外務省は岸田らに推薦を断念させるため、▽3月の韓国大統領選で反日の革新系候補が勢いづく▽弾道ミサイルを頻繁に発射する北朝鮮への対応で重要な日韓関係に影響を与える▽日韓の軋轢は米国も望んでいない――と「説得」。地元・新潟県選出の自民党議員は「推薦に向けて前向きな発言をする外務官僚はいなかった」と証言する。
そもそも外務省は、文化庁が所管する文化審議会が佐渡金山推薦の是非を審査する過程でも同様の工作を行った。その結果、昨年12月末に推薦候補に選定した文化審は「選定は推薦決定ではない。政府内で総合的な検討を行う」と異例の注釈をつけた。
年が明けて推薦の是非が焦点になると、「文化庁が選定しなければよかった」と漏らす外務官僚も。文化庁を所管する文部科学省が官邸への説得を積極的に行った形跡もなく、水面下では外務省と文科省の間で政治問題化したことへの責任の押し付け合いを繰り広げた。
こうした「事なかれ主義」に基づくサボタージュ、もっといえば国益に反するような妨害工作は、「歴史戦」を掲げた安倍政権ではありえなかった。官僚ににらみを利かせた菅政権でも露見しなかった。岸田派の議員は「人のいい岸田首相が官僚になめられているから」とこぼす。
官僚に付け入る隙を与えている形の岸田だが、一方で、したたかさものぞかせる。
政府は当初、今国会で予定していた感染症法改正案の提出を見送った。病床確保に向けて国や都道府県と医療機関が結ぶ協定を法律上の仕組みとする内容で、岸田も就任直後は前向きだった。ところが年明けになると、「6月までに中長期的な課題をしっかり洗いだした上で法改正を考えていく」として方針転換した。
ある自民党参院議員は「岸田首相なりの日本医師会への配慮だ」と明かす。改正案が成立すれば一定の条件の下で病床確保が義務となり、医療機関の負担が増えるとされる。日本医師会は自民党の有力な支持団体の一つ。7月10日の投開票が想定される参院選を前に日本医師会の懸念材料を先送りしたというわけだ。
【農林水産省】米国産牛肉の緊急輸入制限協議が長期化
選挙戦の構図に変化
一方、岸田は参院選の自民党候補の推薦をためらう公明党との関係を打開できないでいる。
前回の参院選で自民、公明両党の候補が接戦を演じた兵庫選挙区(改選数3)に端を発した自公の相互推薦問題は、全国で32ある改選数1人区で公明党が自民党候補を推薦しないことを検討する事態に発展。公明党代表の山口那津男は2月1日の記者会見で「相互推薦はない前提で今、取り組んでいる」と明言した。
「どうも公明党は本気らしい」と語るのは自民党幹部だ。15年成立の安全保障関連法について、「平和の党」を掲げる公明党は慎重な姿勢だったが、自民党との交渉で妥協し最終的に賛成した。自民党に対する公明党の位置づけは「下駄の雪」と称され、自民党内では「いろいろな注文をつけながらも与党でいたいがために最後は自民党についてくる」との見方が広まっていた。しかし、今回は違うというわけだ。
公明党の「不退転の決意」を後押しするように、同党の支持母体である創価学会は1月27日、選挙で支援するかどうかの基準について「党派を問わず見極めた上で、判断していく」との方針を示した。こうした方針の発表は1994年以来で、極めて異例だった。過去2回の参院選のように全国的に一括して自民党候補を推薦するのではなく「候補の人物本位」で判断することを強調した形となった。
自民党内には「公明党の推薦がなければ選挙を戦えないなどという候補は選挙に出なければいい」(重鎮)との勇ましい声もある一方、「公明党の支援がなければ1人区で自民党が勝利するのは至難の業だ。自公の政権陥落もあり得る極めて危険な状態だ」と漏らす議員もいる。
自民党選対委員長の遠藤利明は公明党への説得を試みているが、岸田や自民党幹事長の茂木敏充はもともと公明党との関係が希薄で、「首相も幹事長も相互推薦なしでもやむを得ないと思っている」(首相周辺)という。
【株価はどう動く?菅下清廣氏に聞く】米国で「マネーバブルの宴」は終わったのか?FRBの金融政策の行方
野党は依然混迷
参院選を巡る構図の変化は野党側でも起きている。立憲民主党と国民民主党の支援団体である連合は、かねてから共産党を含む野党共闘を批判してきた。そして1月下旬、参院選の基本方針案として「目的が大きく異なる政党や団体などと連携・協力する候補者は推薦しない」とした。事実上の「共産排除」だ。
連合は過去2回の参院選で野党共闘を後押しし、野党は32の1人区すべてで統一候補を擁立した。だが、前々回の2016年は11勝、19年の前回は1-勝にとどまった。昨年10月の衆院選でも選挙区の候補者一本化を進めたが、立民は議席を減らした。
それでも立民は衆院選の総括で共産党を名指しした上での「反省」を明示しなかった。連合会長の芳野友子は2月1日の報道各社とのインタビューで、この点について「立民と共産党との関係が明確になっていない」と不満を表明した。
過去の労働運動での対立から反共の立場をとる連合の「最後通告」がこたえたのか、立民代表の泉健太は共産党との参院選での連携を「白紙」にすると表明した。
黙っていられないのが共産党だ。1人区の候補者一本化に向けた立民との協議は進まず、委員長の志位和夫は3日の記者会見で「(1人区)すべてに候補者を立てる権利を共産党は持っている」と立民を牽制した。
野党の混迷は参院選に勝利して長期政権を築きたい岸田に有利に働く。自民党重鎮は「岸田さんはつくづく運がいいね」と語った。(敬称略)