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ビートたけしの顔面神経麻痺を治療した「中国鍼」の威力とは?ドクターリウに直撃

財界オンライン 2022年3月2日 18時0分

「鍼を刺すと体内の免疫細胞、炎症を抑えるシステムが動き始めるんです」と話すのは、日本で東洋医学の普及に努める劉勇(ドクターリウ)氏。1983年に来日以降、ビートたけし氏の顔面神経麻痺の治療を始め、数十万人にも及ぶ患者を診てきた。経営者の中にもファンが多い。コロナ禍で体を動かす機会が減り、ストレスも溜まる中、「鍼灸」が果たす役割をどう考えているのか。

【写真で見る】ドクターリウの鍼治療と治療院

適度な筋トレと栄養が大事
 ─ 劉さんは中国で外科麻酔医として活動した後、1983年に日本に拠点を移したそうですね。現在はどんな患者さんを主に診ていますか。

 劉 年齢問わず、多くの方にご来院いただいていますが、『財界』の読者層でもある大企業の経営者の方々も多くお越しになります。

 例えば経営者はゴルフをプレーする方が多いわけですが肩、腰、膝が痛くなったというお話をよくいただきます。私の数十万人の患者さんを診てきた経験から、年齢を重ねて腰や膝が悪くなると、内臓に悪影響が出てきます。

 もう一つ、皆さんの中に「健康のためには歩かないといけない」という固定観念がありますが、私から言えば歩けば歩くほど悪くなります。長い年月の中で半月板が摩耗して薄くなっており、歳を取ると損傷しやすくなるんです。

 ─ 一般的に医師は「体を動かしましょう」と指導することが多いですね。

 劉 私の考えでは、必要なのは筋トレです。適度な重さの鉄アレイなどの器具を「下ろす」というのがベストです。逆に上げるのは心臓に負担がかかってよくありません。下ろす動作は筋トレ、有酸素運動になります。

 また栄養も重要です。例えばビタミンB群は肝臓機能に大変いい。経営者の方々は、この2、3年はコロナ禍で会食が減っていますが、それ以前は2次会、3次会まで続き、肝臓がアルコール漬けになっていました。それに対して、ビタミンB群を摂取することは有効で、同時に若々しくなるんです。

 私は日々の鍼灸治療に加えて、今お話したような簡単な運動や、日々どんな栄養を摂ればいいのかについて、アイデアやレシピも提供しているんです。

 ─ 経営者は夜の会食で食べるものを自分で選べない面がありますから、それ以外の食事が重要になりますね。

 劉 ええ。例えば健康的な体づくりのために「酵素」がいいと言われ、様々な商品が市販されています。しかし、私がお勧めするのは、生の野菜や果物から酵素を摂ることです。その方が酵素を取りやすい。

 そして摂取するタイミングもあります。多くの場合、経営者の方々は夜に会食で多くの食事を摂られます。我々は睡眠によって脳には8時間程度の休み時間を与えているのに、腸は不眠不休で動いていますから、永遠に休み時間がないんです。労働基準法に違反しています(笑)。

 「腸年齢」は実年齢よりも数十年進んでおり、例えば60代の人の腸は80代から90代になっていることが多いのですが、多くの人が気づいていない。

 また、ダイエットにはお米が大敵といった記事も多いですが、大事なのは食事の組み合わせの方です。脳のエネルギーは糖分ですから、炭水化物は重要です。大事なのは摂るタイミングと量なのです。

ビートたけしの顔面神経麻痺を治療
 ─ 劉さんは元々中国で医師として活動をしてきたそうですが、専門は何でしたか。

 劉 私は元々、外科の麻酔医でしたが、その関連で鍼灸を勉強しました。83年に日本に拠点を移して以降、多くのご縁に恵まれてきましたが、私が多くの人に知っていただくきっかけとなったのはビートたけしさんの顔面神経麻痺の治療からだったと思います。

 たけしさんはバイク事故で重傷を負われ、その影響で顔面神経麻痺となりました。当時、西洋医学では治すのは無理だと言われたそうですが、私のところに来られて半年間、毎日朝晩の鍼治療をしたんです。

 ─ たけしさんの姿を見て、治せると思ったわけですか。

 劉 そうです。大丈夫だと思いました。病院を退院後すぐに私のところに来られたのですが、メディアの取材攻勢がすごかった。そこで事務所の社長さんがホテルを予約してくれて、転々としながら治療を続けたんです。先日、都内のレストランで久しぶりにお会いしたらお元気そうでしたね。

 ─ 経営者、ビートたけしさん以外に、著名人では例えばどんな患者さんが来ましたか。

 劉 サッカーの王様と呼ばれたブラジルのペレ選手の腰痛を診たことがあります。他にも現役では、Jリーグ・ヴィッセル神戸のイニエスタ選手の治療をしたり、コンディションを見ているんです。

 ─ 改めて、麻酔医から鍼灸の世界に入られたきっかけを聞かせて下さい。

 劉 最も古いきっかけは、私が中学生の頃、母が腹痛を起こした時のことです。激痛で病院に行き、モルヒネを注射しても痛みが収まらず、町の鍼の先生に来てもらったのですが、長い鍼をポンッ、ポンッと入れたらケロッと痛みが引いたというのが強烈に記憶に残っています。

 その後、医療の世界に入るわけですが、その時の記憶が忘れられませんでした。そして外科的な手術は部屋を無菌状態にしなければ処置できませんが、鍼治療は鍼があればどこでも人を助けることができると。

 鍼灸の世界に入り、これまで数十万人の方を診てきましたが、その過程で当時、母を治療してくれた先生のすごさを改めて実感しました。ですから、私は後進の育成にも力を入れています。

「鍼は副作用のないワクチン」
 ─ 今のコロナ禍で人々は体の健康への関心を高めていますが、鍼灸の立場でどう貢献していきますか。

 劉 私は自分の治療法を「鍼灸医療」と呼んでいます。コロナ禍で改めて免疫の重要性が見直されています。その意味で私は、「鍼は副作用のないワクチン」のようなものだと言っています。

 ワクチンは異物を体内に入れて戦わせることで免疫を上げていきますが、鍼を刺すと体内の免疫細胞、炎症を抑えるシステムが動き始めます。鍼を抜くと体が「もう大丈夫だ」と認識して回復に向かうのです。スタッフには最近、必ずある特殊なツボに鍼を打って下さいと伝えています。患者さんの免疫力を高める狙いです。

 ─ 現在、何カ所の治療院を持っているんですか。

 劉 六本木ヒルズ、丸ビル、カレッタ汐留、渋谷、西新橋の5カ所が一般の患者さん対象で、楽天クリムゾンハウスは法人向け治療院として運営しています。スタッフは全体で約50人です。

 ─ 劉さんが仕事をしていて喜びを感じる瞬間は?

 劉 やはり患者さんが回復した時ですね。私は患者さんを自分の作品、アートだと思っています。ゴッホの絵画は後世まで残っていますが、私が手掛けさせていただいているのは「生きている絵」です。人をダイレクトに喜ばせることができる、私にとっては天職です。

 ─ 今後、鍼灸の良さを広めていくためにどんなことを考えていますか。

 劉 残念ながら、まだ日本では鍼灸の認知度は低いのが現状ですが、一方で多くの経営者の方々が治療を受けているのも、また現実です。これを一般の方々にどう広めていくかは私の課題と宿命だと思っています。

 鍼灸の良さは患者さんが早く社会に復帰できることです。例えばヘルペスは一般的に10日間の入院が必要ですが、鍼灸であれば入院せずに、3日間ほどの治療で済みます。

 その人が休むと、会社の業務に支障をきたすことになりますし、それは精神的な負担にもつながります。近年、この精神的ストレスは社会的に大きな問題になっていますが、これを少しでも食い止めることに鍼灸は貢献できると考えています。

 患者さんの年代層は幅広く、下は2、3歳の幼児から、上は100歳くらいまで幅広い方がお見えになります。

「腸」の健康に作用する健康食品
 ─ 鍼灸以外で何か手掛けている事業はありますか。

 劉 森永乳業さんに提供していただいたビフィズス菌LM株Ⓡ300億個を配合した「ベイビーフローラⓇ」という健康食品を発売しました。

 俳優の里見浩太朗さんが推薦して下さっているのですが、里見さんにこの健康食品の話をしたところ、健康維持の観点で飲み続けてくれていて、非常に調子がいいと言ってくださっています。

 私自身も40年間、お肉にビール、食事中に仕事の電話を受けると、腸の具合が悪くなっていました。何をしてもダメだったんです。

 その時にあるドクターが「ビフィズス菌がいいよ」と教えてくれて試してみたところ、その後は安心してお酒もお肉も楽しめるようになったんです。

 そこから、ビフィズス菌の研究、臨床を始め、様々なテストをした結果、現在の「ベイビーフローラⓇ」にたどり着きました。ビフィズス菌は加齢と共に減少し、慢性炎症を引き起こしやすくなることがわかっています。ですから「ベイビーフローラⓇ」のような健康食品でビフィズス菌を補充することは、体の健康に非常に重要ではないかと思っています。

 ─ 劉さんは今後、何をテーマに仕事をしていきたいと考えていますか。

 劉 やはり「未病」をどう改善するかです。私は人間の体は一つの製薬メーカーだと考えています。それを鍼で刺激することで、体内の製薬システムを動かし、成長させることができると。これが「自然治癒力」です。

 人間の体には365カ所のツボがありますが、重要なのは、その時その時に適切なツボを刺激することです。

 ─ 先程お話していたように、その技術を次世代につなぐことも大事ですね。

 劉 ええ。しっかりスタッフを育てたいと思っています。臨床の経験を積む前に、基礎をしっかり学んでもらい、その上で私が長年蓄積してきた技術を習得してもらって、患者さんと接してもらう。

 そして治療以上に問診と診断が重要です。患者さんのデータを見て、訴えてこられた症状をじっくり聞き、熟慮した上で治療法を立案しなければいけません。やみくもに鍼を打てばいいというわけではないんです。

 ─ 鍼灸の発祥は中国で6世紀頃に日本に伝わったと言われていますね。

 劉 そうです。2000年以上前に古代中国で生まれたと言われています。ただ、その歴史の中で進化を続けてきました。

 例えば江戸時代に活躍し、日本の「盲人教育の父」と呼ばれる杉山和一先生は、鍼を管に通して打つ施術法である「管鍼法」を開発した方です。

 中国鍼は鍼管がありませんから、どうしても手で持つとブレます。鍼管があれば、目が見えなくても手で触って、上からトントンと叩くだけでいいわけですから大変な革命です。

 ─ 日本人は海外から文化を取り入れて、それを工夫することが得意と言えます。

 劉 ええ。理にかなっているんです。ですから私が中国で治療をしていた時も、患者さんから「なぜ痛くないんですか?」と聞かれましたが、「日本が中国鍼を進化させた結果ですよ」とお話していました。

 ラーメンも中国が発祥ですが、日本が進化させて今、全世界にそのラーメン文化を広めています。それと同じですね。

 私自身も中国で「名医」と呼ばれる先生を訪ね歩き、どんな技術なのかを全て自分の体で体験し、自分の目で見て、耳で聞いて、総合的に取り入れた上で発展させたことで今があります。

 今、コロナ禍で皆さん自宅にいることが多く、体を動かす機会が減っていますし、ストレスも溜まってきていると思います。それに対して病院を訪ねる前に、まずは東洋医学で「整える」ことをお勧めしたいと思います。

りゅう・ゆう
1958年中国東北生まれ。中国で外科麻酔医として活躍した後、83年に日本に拠点を移す。85年東京・銀座に鍼灸治療院を開院。政財界・スポーツ界・芸能界からの信頼も厚く、ビートたけし氏の顔面神経麻痺を回復させたことでも知られる。94年クイックマッサージ業態「コリとれーる1号院」を開院、2009年鍼灸治療院Dr.Liu Methodハリアップを開院。

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