金融サービスの領域で新事業領域を開拓、拡大し続けて、いわばコングロマリット化したオリックス。最近は投資銀行業務の色彩も濃くなっているが、今回のコロナ危機下で2022年3月期も増収増益を見込む。投資の多角化・多様化戦略について、「間違っていなかった」と社長の井上亮氏は総括、そして今後は「ポートフォリオの入れ替えをしながら、さらに収益率を上げていく」という戦略。単純にアセット(資産)を増やすだけでは意味がなく、「あくまでも効率が大事」と経営の基本軸に『効率』を据える。世界的な超金融緩和も米FRB(連
邦準備制度理事会)の政策金利引き上げで終止符が打たれ、今後、金利上昇局面を迎える。ドル高・円安などの為替動向、資源エネルギー価格上昇、さらにウクライナ、台湾問題など地政学リスクの高まる中、グローバル経営をどう進めるか。環境激変の中、井上氏の「臨機応変」経営とは─。
本誌主幹
文=村田 博文
【画像】北九州市・響灘の「ひびき灘石炭・バイオマス発電所」
要はポートフォリオをどう構築するか
「今回のコロナ危機で、今の経営のやり方で正解だったなと。(業績は)悪いときもあるし、いいときもある。多様性のあるポートフォリオ管理ができていますから、結果的に成功だったと思っています」
オリックス社長・井上亮氏は自分たちの経営形態についてこう語る。
金融・サービスを中心に、銀行、信託、生保、カード、そしてエネルギー、不動産開発と同社の事業は多岐にわたる。1つのコングロマリット(複合経営)という見方もできる。
同社の経営については、「コングロマリット・ディスカウント」とか、「よく分からない会社」などという評も最近までよく聞かれた。
業績はコロナ危機前までの年間純利益は3000億円台を維持してきたが、コロナ危機1年目の2021年3月期は1923億円と3割の減益となった。
今期(2022年3月期)は、売上高2兆3000億円台で、最低3000億円以上の純利益を確保する見込み。
今年1-3月期の業績いかんによるが、さらに上積みされ、4000億円台を窺うような勢いだ。株式の時価総額も約3兆2000億円台という勢い。
コロナ危機は自分たちの活動を見つめ直す好機という認識を井上氏は示す。
とかくコングロマリットには、〝コングロマリット・デメリット〟がささやかれる。事業が多角化して、全体像がなかなか掴みにくいため、〝デメリット〟が言われがち。そうした見方を、コロナ危機2年目(決算期は22年3月)で払拭した形だ。
事業の多角化・多様化は1つの成功例という認識なのか?「成功例というか、間違ってはいなかったと。今後はポートフォリオの入れ替えをしながら、さらに収益率を上げていくというのが、次のテーマです。単純にアセット(資産)をどんどん増やすだけでは意味がありませんから、あくまでも効率が大事ですね」
コングロマリットに付きまといがちなデメリット論が寄せられたときは、経営のトップとしてどう受けとめてきたのか?
「わたしはあまり気にしなかったです。いろいろな投資家と会うと、例えば『どこそこのリース会社には戦略があるが、オリックスにはない』と言うわけです。5時間もらえれば1つずつ戦略を述べてもいいですよと。投資家が比較で挙げた会社はリース会社ですから、リース会社の戦略があり、示しやすい。我々はリース事業といっても、全体の10%ぐらい。すべてのセグメントの戦略を述べるから、その代わり5、6時間は必要だと言ったら、先方は黙ってしまいましたがね(笑)」
オリックスは1964年(昭和39年)の創業で、57年余の歴史。創業時は第一回東京五輪が開催されるなど、日本は高度成長の真っ只中。企業の資本効率を上げるためにと、〝リース〟という事業が日本にも導入され、オリックスの前身、オリエント・リースは発足した。
商社の日綿実業(その後、日商岩井と統合し、現双日)と三和銀行(現三菱UFJフィナンシャル・グループ)の両社が主軸となり設立されたのがオリエント・リースである。
その社名の通り、リース会社として発展し、航空機リースや船舶リースなどに領域を広げ、幅広く日本の産業発展を支える役割を果たしてきた。
その後、同社は事業を広げ、空港運営、旅館・ホテルから水族館、さらには木質バイオマス発電所の運営まで、その領域は多岐にわたる。
今や、祖業のリースは全体(売り上げ2兆数千億円規模)の10%以下に過ぎない。
三菱HCキャピタル(三菱UFJ系)、東京センチュリー(伊藤忠商事系)などのリースを本業とする会社とは違って、業務内容は実に多角化・多様化。
オリックスと社名変更したのは1989年(平成元年)のこと。金融サービスを中心に、独創性のある事業を開拓していくということで、柔軟性、多様性を意味するアルファベットの『X』を取り入れる形で、『オリックス(ORIX)』という社名を採用したという経緯。
以来、33年近くが経つ。それでも、投資家を含め、「事業内容がよく分からない」と言われてきた。
そういう状況を踏まえて、井上氏は「ディスクロージャー(企業情報の公開)が大事で、それに努めていく」と強調する。
ただ、事業内容が分かりかけると、「ことに海外の投資家からは、この情報が欲しい、あれが欲しいと際限なく、問い合わせが寄せられるんです」と井上氏は苦笑いしながらも、IR(Investor Relations、投資家への事業説明、広報活動)に注力していきたいと語る。
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28カ国に事業拠点を構え、従業員数は3万3千人に
同社はグローバルに事業を展開。計28カ国に拠点を構え、事業も多岐にわたる。従業員数は計約3万3000人。うち国内は約2万5000人(21年3月末)。
日本国内は〝失われた30年〟といわれ、経済全体も伸び悩むが、海外には伸びしろがある。
収益構造では、海外の収益が約40%で、円安下、今後この比率は高まりそうだ。「これから拡大路線を行くのは海外ですね。国内は正直、あまり大きな成長は望めない」
実際、グローバルな事業展開が進む。「欧州と米国とインドで再生可能エネルギーの会社を買いましたから。その会社のパイプライン(の投資残高)が約1兆円あるんです。例えば我々がエクイティ(資本)を入れたり、ファンドの資金を使ったりして、トータル1兆円の資金をパイプライン建設に注ぎ込みました。あと3年以内に竣工しますから、その収益が今後期待できます」
中国での事業展開は、政府のレギュレーション(規制)に対応しながらの運営になる。補助金政策も突然変わったりするので、細かく気を遣いながら対応していく方針。
海外展開は、その国の国情や政策に合わせてやっていくことが肝腎である。「もちろん、グローバル経営というのはそういうことです。アメリカンスタンダードを強制してやるのがアメリカ風グローバルです。われわれのグローバルはあくまで地元のカルチャー(文化、経営風土)に合わせて、臨機応変に経営できるようにしていくということです」と井上氏は、『臨機応変』がグローバル経営のキーワードだと強調。
現地でのローカル化も大事。米国での事業は『米国本部』が管理、欧州は『オリックスヨーロッパ』が担当し、アジアは東京が司令塔の役割を果たす。
中国での事業展開はどうか?「中国は上海と北京、香港、青島、大連に支店を持っていますから、北京のオリックスチャイナが中心になってコントロールしています」
日本を除いて、世界は米国、欧州、アジア、中国という4極で臨む体制。
米FRB・金利引き上げの世界経済への影響は?
今、世界経済の流れが大きく変わろうとしている。変動の震源地となっているのが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)。
米FRBが近く金利引き上げに動くということで、これまでの世界的な超金融緩和状態が一変しそうだ。FRBが通貨供給量を絞るということで、まず株式市場がこれに反応し、米ウォール街関係者も身構える。
ニューヨーク株式相場も下落傾向で、東京市場など他の市場も同じ傾向を示す。昨年末、FRBが金利引き上げの方向を明確にした時に、「手持ちの株はほとんど売って、現金化した」という投資家もいる。
株式市場の相場下落だけではない。米ドルへの需要が高まり、他通貨、ことに発展途上国通貨が売られ、途上国からの資金流出が懸念される。
自国通貨の防衛のため、各国とも金利引き上げを図る。そのことは経済縮小の方向に働く。
今、資源エネルギーは供給不足に陥り、価格高騰を招いている。インフレを抑制しようという要因もあって、各国とも政策金利引き上げに向かうのだが、これは需要抑制になり、景況を弱くすることにつながる。オリックスも本業が金融サービスであるだけに、米FRBの動向に無関心ではいられない。
ただ、資金調達ということでいえば、ドル投資はドル、ユーロ投資はユーロと、現地通貨を調達して実行している。「一部ヘッジをかけるものもありますが、基本はローカルカレンシーで資金調達して、ローカルカレンシーで投資する。そういう形でやっています」と井上氏。基本的に為替の変動でビジネスにプラスマイナスの影響が出ることは避けているという。
日本は年初から円安傾向が強まっている。適正な為替水準とは、どのレベルなのか?「円安は外国人からすると投資しやすい。円安が進むとディスカウントで日本のモノが買えるわけですからね。それで買った後、売ろうとする時に、アメリカ政府に働きかけて、円高志向に持っていけば、それだけで利益が出るわけですからね」
井上氏は〝日本が安い〟状況の今、為替は政治マターになりがちで注意が必要と語る。「米政府は当面、従来のように円安に対する締め付けに踏み出しづらい状況にあります。ただ、状況が変われば、円安イコール悪ということで、円高に持っていく可能性は十分にあります」と米政府の動向を注意深く見守る井上氏である。
脱炭素の実行は?
これからの経営を考える上で、2050年にCO2(二酸化炭素)の排出を実質ゼロにする─というカーボンニュートラル政策との整合性は不可欠。
その中間過程で2030年のCO2排出は2013年比で『46%減』を目標にする考えを日本政府は示した。これに対して、鉄鋼業界あたりからは、「これでも厳しい」との声が聞かれる。
オリックスの場合はどうか?「当社は全体で年間130万トンのCO2を排出しています。そのうちの94万トンが2つの火力発電所から出るもの。相馬(福島県)と響灘(福岡県)にある発電所ですが、このエネルギー源を切り換えれば、削減することができます」
この2つの火力発電所は木製チップと石炭の混合で発電している。木質チップ4対石炭6の混燃方式で、2038年までの運転ということで経済産業省の承認を得て運営してきた。
しかし、前出のカーボンニュートラル政策の登場で、同社は発電所のエネルギー源を転換する方向で検討中。「相馬と響灘は水素に切り換えるか検討中ですが、敷地的にどのエネルギー源がいいのかを見極める必要がありますから、この2カ所については社内外の協議が必要です」
ESG(環境、社会、統治)の観点から、「2030年までにエネルギー源を切り換えていこう」という井上氏の考えだ。
「あと不動産のオペレーションで約8万トン位のCO2を出しています。そこはどんどん再生可能エネルギーを使ったり、太陽光を使ったりして、オペレーションを変えていきます。LNG(液化天然ガス)に全部変えると、それで随分下がります。そんなに心配していません」
ESG関連の事業は徹底して実行
井上氏は年初、『ESG関連の重要課題』と『7つの重要目標』の達成を新しい経営目標に掲げると公表した。
まず、『ESG関連の重要課題では、気候変動リスク軽減のための重点分野・課題として、GHG=地球温暖化ガス排出削減目標を設定するなどの6項目を掲げる。
そして人権問題を含む社会的リスク軽減のための重点分野・課題(新たな社会関連リスク発生を排除するため、サステナブル投融資ポリシーと行動指針および管理体制の強化を継続する―などの3項目)。さらに透明性、遵法性、誠実性を基本とするガバナンス強化のための重点分野・課題と続く。
こうした重要課題を達成するための重点目標として、まず『2023年6月の株主総会までに、取締役会の社外取締役比率を過半数とする(現在、社内5対社外6)』を挙げる。
また2030年3月期までに、女性取締役の比率を30%以上とし、グループの女性管理職比率も30%以上とする。
さらに2030年3月期までに、グループのGHG(CO2)排出量を2020年度対比で50%減にするといった目標。
GHG(CO2)排出産業に対する投融資残高を2020年度比で50%削減、そして2040年3月期までに排出産業に対する「投融資残高をゼロにする」と明記。
注目されるのは、自分たちの達成目標だけでなく、取引先を巻き込んでの目標を掲げていることだ。
コロナ禍での気付き
改めて、コロナ禍で気付いた事とは何か?「コロナで気付いたのは、無駄が多かったなということですよね。わたしは2年間海外出張へ行っていないんですよ。でも、何とかなっている。ズームとかで会議もできていますしね。もちろん、真剣な、デリケートな会議は難しいですが、それ以外はウェブできちんとできる」
オフィスのスペースも、コロナ危機の中で、随分と無駄遣いに気付かされたという。
例えば、東京本社オフィスは東京・浜松町の世界貿易センタービル南館に昨年6月に引っ越し。「このオフィスもコロナ危機前に契約したものですが、事前に考えていたのとは使い方が変わっています」と井上氏。
コロナ危機下で悩ましいのは、リモートワークになって、社員の間で、「疎外感というか、孤独感を抱く人がいる」ということである。
産業界では、新入社員は入社早々、リモートワークで在宅勤務になり、「せっかく入社したのに、仕事の手応えが感じられない」といった理由で辞表を出すケースも散見される。同社でも似たケースがあったという。
リモートでの会社からの指示と在宅勤務している社員の提案がうまく嚙み合わないケースもある。リアルな働き方と、ウェブの活用との融合をどう図っていくかは引き続きの課題。
多様な事業を抱える同社には、コロナ禍で多大な損失を被った事業もある。航空機リース、関西国際空港の運営事業、そして旅館・ホテルの宿泊事業の3つは特に損失が大きい。
この3つの事業による損失は、税前利益で約900億円にのぼるから痛い。
航空機リースは赤字がほぼ解消するなど好転の兆しもある。関西国際空港は、同社とVinci Airport(ヴァンシ エアポート)を中核に設立された関西エアポートが2016年4月から運営している。神戸空港も関西エアポート神戸の運営によるもので、オリックスグループは関西、伊丹、神戸の3空港運営を担っている。
インバウンド客の消失で厳しい環境にあるが、昨年末と年始は通常の7割方の乗客が戻ってきていた。オミクロン株の感染流行が落ち着けば、一定程度の回復が期待される。
一方、コロナ前はROA(総資産利益率、会社の総資産を利用してどれだけの利益を上げられたかを見る数値)が低い─として、井上氏が叱咤激励してきた生命保険や銀行部門はコロナ禍でも安定した収益を生んでいる。
生保や銀行部門はネットの活用で成績を上げているのだ。「生保、銀行は少し考え直そうと。今、マーチャントバンキングとかプライベートバンキング(富裕層相手の資産運用など総合コンサルティング業務)、それにインベストメントバンキングの仕事を増やして欲しいと言っています」
コロナ危機で各事業の立ち位置が変わってきた。改める領域はまだまだあるということ。
自立自助の精神で…
井上亮氏は1952年(昭和27年)10月生まれの69歳。2011年(平成23年)取締役代表執行役社長に就任。
以降、宮内義彦会長の下、COO(最高執行責任者)を3年務め、その後CEO(最高経営責任者)に就任。CEOとして8年目を迎える。
井上氏は1975年(昭和50年)に入社。当時の社員数は400人。一般職を除く総合職は200人であった。その時のトータルアセット(総資産)は数千億円。今は総資産13兆円強。社員数は3万3000人に及ぶ。外国籍の社員も多い。
入社から47年。この間の環境の変化は実に激しい。
かつて、親会社であった日綿は日商岩井と統合して双日に、三和銀行は三菱UFJフィナンシャル・グループとなった。他の出資会社の日本興業銀行、神戸銀行、東洋信託なども別の会社と統合するなど親会社自身が再編の波に呑み込まれた。
子会社であったオリックスだけが生き残っているという現実。「わたしが入社して10年頃、当時の社長の宮内が、インベストメントバンク(投資銀行)を目指そうと。これは社員の励みになりました」と井上氏は語る。
その宮内義彦氏(現シニア・チェアマン)は、創業期に社長を務めた乾恒雄氏(旧三和銀行出身)が親会社から離れて、「自主独立路線をしっかり敷いてくれたから」と述懐する。
乾恒雄氏から宮内義彦氏、そして今日の井上亮氏まで、経営の自立自助・自主独立の気風が受け継がれている。コロナ危機、米中対立の混迷の時代を、この自立自助・自主独立の気風でどう乗り切っていくか─。
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邦準備制度理事会)の政策金利引き上げで終止符が打たれ、今後、金利上昇局面を迎える。ドル高・円安などの為替動向、資源エネルギー価格上昇、さらにウクライナ、台湾問題など地政学リスクの高まる中、グローバル経営をどう進めるか。環境激変の中、井上氏の「臨機応変」経営とは─。
本誌主幹
文=村田 博文
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要はポートフォリオをどう構築するか
「今回のコロナ危機で、今の経営のやり方で正解だったなと。(業績は)悪いときもあるし、いいときもある。多様性のあるポートフォリオ管理ができていますから、結果的に成功だったと思っています」
オリックス社長・井上亮氏は自分たちの経営形態についてこう語る。
金融・サービスを中心に、銀行、信託、生保、カード、そしてエネルギー、不動産開発と同社の事業は多岐にわたる。1つのコングロマリット(複合経営)という見方もできる。
同社の経営については、「コングロマリット・ディスカウント」とか、「よく分からない会社」などという評も最近までよく聞かれた。
業績はコロナ危機前までの年間純利益は3000億円台を維持してきたが、コロナ危機1年目の2021年3月期は1923億円と3割の減益となった。
今期(2022年3月期)は、売上高2兆3000億円台で、最低3000億円以上の純利益を確保する見込み。
今年1-3月期の業績いかんによるが、さらに上積みされ、4000億円台を窺うような勢いだ。株式の時価総額も約3兆2000億円台という勢い。
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とかくコングロマリットには、〝コングロマリット・デメリット〟がささやかれる。事業が多角化して、全体像がなかなか掴みにくいため、〝デメリット〟が言われがち。そうした見方を、コロナ危機2年目(決算期は22年3月)で払拭した形だ。
事業の多角化・多様化は1つの成功例という認識なのか?「成功例というか、間違ってはいなかったと。今後はポートフォリオの入れ替えをしながら、さらに収益率を上げていくというのが、次のテーマです。単純にアセット(資産)をどんどん増やすだけでは意味がありませんから、あくまでも効率が大事ですね」
コングロマリットに付きまといがちなデメリット論が寄せられたときは、経営のトップとしてどう受けとめてきたのか?
「わたしはあまり気にしなかったです。いろいろな投資家と会うと、例えば『どこそこのリース会社には戦略があるが、オリックスにはない』と言うわけです。5時間もらえれば1つずつ戦略を述べてもいいですよと。投資家が比較で挙げた会社はリース会社ですから、リース会社の戦略があり、示しやすい。我々はリース事業といっても、全体の10%ぐらい。すべてのセグメントの戦略を述べるから、その代わり5、6時間は必要だと言ったら、先方は黙ってしまいましたがね(笑)」
オリックスは1964年(昭和39年)の創業で、57年余の歴史。創業時は第一回東京五輪が開催されるなど、日本は高度成長の真っ只中。企業の資本効率を上げるためにと、〝リース〟という事業が日本にも導入され、オリックスの前身、オリエント・リースは発足した。
商社の日綿実業(その後、日商岩井と統合し、現双日)と三和銀行(現三菱UFJフィナンシャル・グループ)の両社が主軸となり設立されたのがオリエント・リースである。
その社名の通り、リース会社として発展し、航空機リースや船舶リースなどに領域を広げ、幅広く日本の産業発展を支える役割を果たしてきた。
その後、同社は事業を広げ、空港運営、旅館・ホテルから水族館、さらには木質バイオマス発電所の運営まで、その領域は多岐にわたる。
今や、祖業のリースは全体(売り上げ2兆数千億円規模)の10%以下に過ぎない。
三菱HCキャピタル(三菱UFJ系)、東京センチュリー(伊藤忠商事系)などのリースを本業とする会社とは違って、業務内容は実に多角化・多様化。
オリックスと社名変更したのは1989年(平成元年)のこと。金融サービスを中心に、独創性のある事業を開拓していくということで、柔軟性、多様性を意味するアルファベットの『X』を取り入れる形で、『オリックス(ORIX)』という社名を採用したという経緯。
以来、33年近くが経つ。それでも、投資家を含め、「事業内容がよく分からない」と言われてきた。
そういう状況を踏まえて、井上氏は「ディスクロージャー(企業情報の公開)が大事で、それに努めていく」と強調する。
ただ、事業内容が分かりかけると、「ことに海外の投資家からは、この情報が欲しい、あれが欲しいと際限なく、問い合わせが寄せられるんです」と井上氏は苦笑いしながらも、IR(Investor Relations、投資家への事業説明、広報活動)に注力していきたいと語る。
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28カ国に事業拠点を構え、従業員数は3万3千人に
同社はグローバルに事業を展開。計28カ国に拠点を構え、事業も多岐にわたる。従業員数は計約3万3000人。うち国内は約2万5000人(21年3月末)。
日本国内は〝失われた30年〟といわれ、経済全体も伸び悩むが、海外には伸びしろがある。
収益構造では、海外の収益が約40%で、円安下、今後この比率は高まりそうだ。「これから拡大路線を行くのは海外ですね。国内は正直、あまり大きな成長は望めない」
実際、グローバルな事業展開が進む。「欧州と米国とインドで再生可能エネルギーの会社を買いましたから。その会社のパイプライン(の投資残高)が約1兆円あるんです。例えば我々がエクイティ(資本)を入れたり、ファンドの資金を使ったりして、トータル1兆円の資金をパイプライン建設に注ぎ込みました。あと3年以内に竣工しますから、その収益が今後期待できます」
中国での事業展開は、政府のレギュレーション(規制)に対応しながらの運営になる。補助金政策も突然変わったりするので、細かく気を遣いながら対応していく方針。
海外展開は、その国の国情や政策に合わせてやっていくことが肝腎である。「もちろん、グローバル経営というのはそういうことです。アメリカンスタンダードを強制してやるのがアメリカ風グローバルです。われわれのグローバルはあくまで地元のカルチャー(文化、経営風土)に合わせて、臨機応変に経営できるようにしていくということです」と井上氏は、『臨機応変』がグローバル経営のキーワードだと強調。
現地でのローカル化も大事。米国での事業は『米国本部』が管理、欧州は『オリックスヨーロッパ』が担当し、アジアは東京が司令塔の役割を果たす。
中国での事業展開はどうか?「中国は上海と北京、香港、青島、大連に支店を持っていますから、北京のオリックスチャイナが中心になってコントロールしています」
日本を除いて、世界は米国、欧州、アジア、中国という4極で臨む体制。
米FRB・金利引き上げの世界経済への影響は?
今、世界経済の流れが大きく変わろうとしている。変動の震源地となっているのが、米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)。
米FRBが近く金利引き上げに動くということで、これまでの世界的な超金融緩和状態が一変しそうだ。FRBが通貨供給量を絞るということで、まず株式市場がこれに反応し、米ウォール街関係者も身構える。
ニューヨーク株式相場も下落傾向で、東京市場など他の市場も同じ傾向を示す。昨年末、FRBが金利引き上げの方向を明確にした時に、「手持ちの株はほとんど売って、現金化した」という投資家もいる。
株式市場の相場下落だけではない。米ドルへの需要が高まり、他通貨、ことに発展途上国通貨が売られ、途上国からの資金流出が懸念される。
自国通貨の防衛のため、各国とも金利引き上げを図る。そのことは経済縮小の方向に働く。
今、資源エネルギーは供給不足に陥り、価格高騰を招いている。インフレを抑制しようという要因もあって、各国とも政策金利引き上げに向かうのだが、これは需要抑制になり、景況を弱くすることにつながる。オリックスも本業が金融サービスであるだけに、米FRBの動向に無関心ではいられない。
ただ、資金調達ということでいえば、ドル投資はドル、ユーロ投資はユーロと、現地通貨を調達して実行している。「一部ヘッジをかけるものもありますが、基本はローカルカレンシーで資金調達して、ローカルカレンシーで投資する。そういう形でやっています」と井上氏。基本的に為替の変動でビジネスにプラスマイナスの影響が出ることは避けているという。
日本は年初から円安傾向が強まっている。適正な為替水準とは、どのレベルなのか?「円安は外国人からすると投資しやすい。円安が進むとディスカウントで日本のモノが買えるわけですからね。それで買った後、売ろうとする時に、アメリカ政府に働きかけて、円高志向に持っていけば、それだけで利益が出るわけですからね」
井上氏は〝日本が安い〟状況の今、為替は政治マターになりがちで注意が必要と語る。「米政府は当面、従来のように円安に対する締め付けに踏み出しづらい状況にあります。ただ、状況が変われば、円安イコール悪ということで、円高に持っていく可能性は十分にあります」と米政府の動向を注意深く見守る井上氏である。
脱炭素の実行は?
これからの経営を考える上で、2050年にCO2(二酸化炭素)の排出を実質ゼロにする─というカーボンニュートラル政策との整合性は不可欠。
その中間過程で2030年のCO2排出は2013年比で『46%減』を目標にする考えを日本政府は示した。これに対して、鉄鋼業界あたりからは、「これでも厳しい」との声が聞かれる。
オリックスの場合はどうか?「当社は全体で年間130万トンのCO2を排出しています。そのうちの94万トンが2つの火力発電所から出るもの。相馬(福島県)と響灘(福岡県)にある発電所ですが、このエネルギー源を切り換えれば、削減することができます」
この2つの火力発電所は木製チップと石炭の混合で発電している。木質チップ4対石炭6の混燃方式で、2038年までの運転ということで経済産業省の承認を得て運営してきた。
しかし、前出のカーボンニュートラル政策の登場で、同社は発電所のエネルギー源を転換する方向で検討中。「相馬と響灘は水素に切り換えるか検討中ですが、敷地的にどのエネルギー源がいいのかを見極める必要がありますから、この2カ所については社内外の協議が必要です」
ESG(環境、社会、統治)の観点から、「2030年までにエネルギー源を切り換えていこう」という井上氏の考えだ。
「あと不動産のオペレーションで約8万トン位のCO2を出しています。そこはどんどん再生可能エネルギーを使ったり、太陽光を使ったりして、オペレーションを変えていきます。LNG(液化天然ガス)に全部変えると、それで随分下がります。そんなに心配していません」
ESG関連の事業は徹底して実行
井上氏は年初、『ESG関連の重要課題』と『7つの重要目標』の達成を新しい経営目標に掲げると公表した。
まず、『ESG関連の重要課題では、気候変動リスク軽減のための重点分野・課題として、GHG=地球温暖化ガス排出削減目標を設定するなどの6項目を掲げる。
そして人権問題を含む社会的リスク軽減のための重点分野・課題(新たな社会関連リスク発生を排除するため、サステナブル投融資ポリシーと行動指針および管理体制の強化を継続する―などの3項目)。さらに透明性、遵法性、誠実性を基本とするガバナンス強化のための重点分野・課題と続く。
こうした重要課題を達成するための重点目標として、まず『2023年6月の株主総会までに、取締役会の社外取締役比率を過半数とする(現在、社内5対社外6)』を挙げる。
また2030年3月期までに、女性取締役の比率を30%以上とし、グループの女性管理職比率も30%以上とする。
さらに2030年3月期までに、グループのGHG(CO2)排出量を2020年度対比で50%減にするといった目標。
GHG(CO2)排出産業に対する投融資残高を2020年度比で50%削減、そして2040年3月期までに排出産業に対する「投融資残高をゼロにする」と明記。
注目されるのは、自分たちの達成目標だけでなく、取引先を巻き込んでの目標を掲げていることだ。
コロナ禍での気付き
改めて、コロナ禍で気付いた事とは何か?「コロナで気付いたのは、無駄が多かったなということですよね。わたしは2年間海外出張へ行っていないんですよ。でも、何とかなっている。ズームとかで会議もできていますしね。もちろん、真剣な、デリケートな会議は難しいですが、それ以外はウェブできちんとできる」
オフィスのスペースも、コロナ危機の中で、随分と無駄遣いに気付かされたという。
例えば、東京本社オフィスは東京・浜松町の世界貿易センタービル南館に昨年6月に引っ越し。「このオフィスもコロナ危機前に契約したものですが、事前に考えていたのとは使い方が変わっています」と井上氏。
コロナ危機下で悩ましいのは、リモートワークになって、社員の間で、「疎外感というか、孤独感を抱く人がいる」ということである。
産業界では、新入社員は入社早々、リモートワークで在宅勤務になり、「せっかく入社したのに、仕事の手応えが感じられない」といった理由で辞表を出すケースも散見される。同社でも似たケースがあったという。
リモートでの会社からの指示と在宅勤務している社員の提案がうまく嚙み合わないケースもある。リアルな働き方と、ウェブの活用との融合をどう図っていくかは引き続きの課題。
多様な事業を抱える同社には、コロナ禍で多大な損失を被った事業もある。航空機リース、関西国際空港の運営事業、そして旅館・ホテルの宿泊事業の3つは特に損失が大きい。
この3つの事業による損失は、税前利益で約900億円にのぼるから痛い。
航空機リースは赤字がほぼ解消するなど好転の兆しもある。関西国際空港は、同社とVinci Airport(ヴァンシ エアポート)を中核に設立された関西エアポートが2016年4月から運営している。神戸空港も関西エアポート神戸の運営によるもので、オリックスグループは関西、伊丹、神戸の3空港運営を担っている。
インバウンド客の消失で厳しい環境にあるが、昨年末と年始は通常の7割方の乗客が戻ってきていた。オミクロン株の感染流行が落ち着けば、一定程度の回復が期待される。
一方、コロナ前はROA(総資産利益率、会社の総資産を利用してどれだけの利益を上げられたかを見る数値)が低い─として、井上氏が叱咤激励してきた生命保険や銀行部門はコロナ禍でも安定した収益を生んでいる。
生保や銀行部門はネットの活用で成績を上げているのだ。「生保、銀行は少し考え直そうと。今、マーチャントバンキングとかプライベートバンキング(富裕層相手の資産運用など総合コンサルティング業務)、それにインベストメントバンキングの仕事を増やして欲しいと言っています」
コロナ危機で各事業の立ち位置が変わってきた。改める領域はまだまだあるということ。
自立自助の精神で…
井上亮氏は1952年(昭和27年)10月生まれの69歳。2011年(平成23年)取締役代表執行役社長に就任。
以降、宮内義彦会長の下、COO(最高執行責任者)を3年務め、その後CEO(最高経営責任者)に就任。CEOとして8年目を迎える。
井上氏は1975年(昭和50年)に入社。当時の社員数は400人。一般職を除く総合職は200人であった。その時のトータルアセット(総資産)は数千億円。今は総資産13兆円強。社員数は3万3000人に及ぶ。外国籍の社員も多い。
入社から47年。この間の環境の変化は実に激しい。
かつて、親会社であった日綿は日商岩井と統合して双日に、三和銀行は三菱UFJフィナンシャル・グループとなった。他の出資会社の日本興業銀行、神戸銀行、東洋信託なども別の会社と統合するなど親会社自身が再編の波に呑み込まれた。
子会社であったオリックスだけが生き残っているという現実。「わたしが入社して10年頃、当時の社長の宮内が、インベストメントバンク(投資銀行)を目指そうと。これは社員の励みになりました」と井上氏は語る。
その宮内義彦氏(現シニア・チェアマン)は、創業期に社長を務めた乾恒雄氏(旧三和銀行出身)が親会社から離れて、「自主独立路線をしっかり敷いてくれたから」と述懐する。
乾恒雄氏から宮内義彦氏、そして今日の井上亮氏まで、経営の自立自助・自主独立の気風が受け継がれている。コロナ危機、米中対立の混迷の時代を、この自立自助・自主独立の気風でどう乗り切っていくか─。
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